第十三話「もう一つの村」
次の日。カエデは役場まで行き、アカリに話しかけた。
「昔の人のお墓?」
カエデの対面に座った、アカリは首を傾げた。
「妖怪からの頼まれごとで、人間の墓を調べたいって言っているんだ」
源義経の墓を探しているって言うのは、あえて伏せておく。霧隠れ村の人達が、騒ぎを起こさないようにするためだ。それに、まだ源義経の墓自体は、見つかっていない。
「変わった妖怪ね。どんな墓を探しているの?」
「古いお墓らしい。この村で、一番古い墓は、どこにあるんだ?」
「ちょっと待って、調べて来る」
アカリは、席を立ち上がり、本棚にある書類を漁り始める。
アカリがいない間、カエデは携帯を開いて、源義経について検索する。
『源義経、潜伏先の衣川館にて自害。原因は、匿っていた奥州藤原氏の当主による裏切りで、襲撃を受けたため』
ネットの情報だと、死んでいるよな。でも、天狗のジンライが言っていることが本当だとしたら、義経は、この死地を脱出して霧島に逃れていたことになる。
「お待たせ―!」
カエデが、携帯を見ながら考えていると、アカリが資料を持って戻って来た。
「何か、わかったか?」
「うん、この村には、いくつか墓地があるんだけど、一番古い墓地は、ここだね」
アカリは、持って来た資料をカエデに見せる。
「ありがとう」
「コピーして持って行く?」
「うん。そうするよ」
カエデは、アカリからコピーしてもらった資料を受け取り、役場から出た。
「ここが、一番古い墓地」
カエデは、アカリからもたった資料通りの道を進んで、墓地に辿り着いた。
「確かに、明治没って書かれている墓石もあるから、古い墓地そうだ」
こっからは、地道にやっていくしかないな。
カエデは、墓地を一つ一つ調べ始める。
「この人は、昭和。この人は大正。古いけど、源義経が生きていた時代から考えると、新しすぎる」
これは、見つけるのが大変になりそうだ。
「ん?」
カエデは、墓石を調べて行くと、雑木林の中に小さな道があることに気づいた。
「あの奥にも、何かあるのか?」
カエデは、資料を読み直す。
『旧墓地の場所が埋まり、新しい墓地を近くの空き地に作った』
カエデは、もう一度、雑木林の中にある小さな道を見る。
「あっちに、旧墓地があるのか」
古いお墓を探すには、旧墓地の方が確実に良い気がする。
カエデは、雑木林の中に出来ていた、小さな道を進み始めた。
「本当に、霧島は自然に囲まれた島だな」
人手が加わってないとこは、木が視界いっぱいに生えており、草も地面いっぱいに生い茂っている。
「東京に、ずっといたら見られなかった景色だ」
カエデは、自然の景色を味わいながら、小さな道を進んで行く。
「開けている場所が見えて来た」
森から抜けると、今まで生きて来た二十五年の中で、一番古そうな墓地に辿り着いた。
森に囲まれた墓地。地面は、石で舗装されておらず、草が生い茂っている。人の手が加わえられているってわかるものは、ただ削っただけの岩が立てられている墓石だと思われる物だ。
「ここなら、確実にありそうな気がするぞ」
カエデは、旧墓地にある墓石を調べ始めた。
「苔が張り付いていて、文字が見ずらいな」
カエデは、墓石についている苔を取り除く。
「慶応元年!」
今まで見て来た元号で、見たことない元号だ。
カエデは、携帯を開いて調べる。
「慶応は、江戸時代にあった元号の一つだ」
近づいている気がする!
カエデは、他の墓石について調べ始めた。
「全部調べたけど、ここの墓地は江戸時代の墓しかない」
カエデは、疲れて地面に座り込んだ。
「それよりの前のお墓なんて、存在していないんかな」
もし、そうだとしたら、墓探しなんて、手詰まりになる。
「良い読みだと、思ったのにな」
カエデは、仰向けになって空を見上げる。
今日も青空だな。このまま寝るのもいいな。
「探している墓は、見つかったかの?」
青空の景色が、シライシ村長の顔に埋め尽くされた。
「うわ!?」
カエデは、驚いて起き上がる。
「アカリ殿に、カエデ殿が役場に訪れたと聞いての。何を探しているのか、気になってきたのじゃ」
「次は、もう少し驚かない方法で、話しかけてください」
心臓に悪すぎる話のかけられ方だ。
「ほっ、ほっ。悪かったの。それで、探している墓石は見つかったのかの?」
「いえ、全くと言って良い程、見つかりませんでした」
期待していた旧墓地も空振りだった。これ以上、どこを探せば良いのだろうか。
「ここは、江戸時代に死んだ者が眠る墓地。カエデ殿が探している墓は、江戸時代以上よりも前の時代に眠っている者の墓ということかの?」
「そうです」
「ふむ。そうなると、墓石で探すのは難しいかもしれんの」
「え、そうなのですか?」
墓石って何千年も前から、あるものじゃないのか?
「墓石が建て始められたのは、霧島では江戸時代からだと言われておる」
「江戸時代から、墓石を建て始めた」
源義経は、鎌倉時代の人物だ。じゃあ、墓石は存在していない。
「振り出しかー」
カエデは、ショックで顔を手で覆った。
「ほっ、ほっ。そんな落ち込むのではない。探す手段が無くなった訳じゃないからの」
「え? 他にも、調べる方法があるのですか?」
「寺を調べてみるのじゃ。寺には、江戸時代よりも前の人物を、供養した記録が残っているかもしれないの」
「寺……。この村に、ある寺はどこですか?」
「港の近くにある、江戸時代に立てられた寺じゃ」
「それよりも前の寺は、ないんですか?」
「それよりも前の寺は、霧隠れ村から反対に存在した旧霧隠れ村の敷地内にある廃寺じゃの」
「反対に、前の集落。てことは、この霧隠れ村は移転していたんですか?」
「そうじゃ。前の集落は、本当に隠れ里として造られた村だったからの。隠れる必要が無くなった江戸時代に開けている、この場所に移転したのじゃ」
「そんな場所が」
「わしの知り合いに、寺の住職をしている者がいる。話を聞いてみようかの。ついてくるのじゃ」
カエデは、シライシ村長の後に続いて行った。
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