第十二話「三種の神器の集め方」

「ばぁ様が、邪馬台国の女王卑弥呼?」


 カエデは、ばぁ様の言った言葉が信じられなかった。


「そうさ。私は、約二千年前に実在していた卑弥呼本人さ」


「でも、卑弥呼って」


「死んだって言うのかい?」


 カエデは、頷く。


 人間の寿命は、長くても百年ちょっと、二千年以上も生きることができるのだろうか?


「二千年以上も前にいた卑弥呼が生きているかは、三種の神器を集めた時に話すかね。くぁ、くぁ、くぁ」


 ばぁ様は、いたずらっぽい笑みを浮かべた。


「ここまで言っといて、何も言わないってずるくないですか?」


 邪馬台国の女王、卑弥呼が生きている。日本国民みんなが、ひっくり返るような事実の秘密を、話さないなんてずるいと思う。


「種明かしは、最後に残すもんさ」


 ばぁ様は、バックの中から、メモ帳とペンを取り出す。


「まずは、天狗の団扇を取りに行きな。ちょっと変わった男だが、要望に応えれば力を貸してくれるさ」


「要望を聞く?」


「くぁ、くぁ、くぁ。あんたは、妖怪の管理人だろ? ただで、貴重品を貸してくれるほど。妖怪は優しくないってことさね」


 ばぁ様は、メモ帳の紙をちぎって、カエデに渡した。


「ありがとうございます」


 カエデは、紙の切れ端を受け取り、その場を後にした。





 妖街から出て、少し離れた森の中。


「メモ通りなら、この辺に天狗の家が、あるはず」


 カエデは、携帯の明かりで、周囲を照らした。


 ただの森だ。本当に、この辺りに天狗の住処があるのか?


「伏せろー!」


 森の中に、突然男の叫び声が聞こえた。


 カエデは、慌てて体を低くする。


 ドーン!


 大きな爆発音が、森の中に響き渡った。


「なんだ!?」


 カエデは、爆発音が聞こえた方角を見る。


 視線を向けた先には、砂煙が巻き上がっており、近くの草むらの中から、足と下駄だけが飛び出していた。


「いてて、失敗してしまったわい」


 草むらから飛び出していた足が動き出し、草むらの中から体が現れた。


 赤い顔に長い鼻、修行僧が着ていそうな黒い服を着ている。


「天狗だ」


 カエデは、特徴を見て、天狗だと見抜いた。


「ん?」


 天狗は、声が聞こえたのか、カエデの方向を見た。


「こんな所に、人間……主は、新しい管理人か?」


「はい。天狗さんに、頼みがあって来ました」


「わしに、頼み?」


 天狗は、首を傾げた。





「管理人よ。魚は食えるか?」


 天狗は、焚火の火で焼いていた魚を、カエデに差し出した。


「いただきます」


 カエデは、天狗から焼いた魚を貰う。


「長話をするのは、飯を食いながらが一番だわい」


 天狗は、嬉しそうな表情をして、焼いた魚を食べ始める。


 本題を切り出そうとしたら、『長話をするのは、飯を食いながらが良い』と、天狗にごり押しされた。今なら、話しても良いか?


「天狗さん。自己紹介が遅れました。妖怪の管理人をしている、カエデです」


「わしは、ジンライだ。さん付けをせずに、呼んでくれ」


「ジンライ」


「わかっておるな。さすがは、妖怪の管理人」


 天狗は、魚の骨をしゃぶりながら、カエデのことを見る。


「ジンライに、頼みたいことがあって来ました」


「この時期に、妖怪の管理人が訪ねて来る理由は、一つしかないわい。天狗の団扇を借りたいんだろ?」


「はい。豊穣祭の際に、必要なんです」


 ジンライは、懐から羽が並べられた団扇を取り出した。


「これが、天狗の団扇だ」


 羽の団扇なんて、初めて見た。こんなに、色鮮やかで綺麗な色をしているんだな。


「勝手な都合で、申し訳ないのですが、貸してくれますか?」


「うーむ。貸してあげたいのは、山々なんだが、一つ頼みを聞いてくれないか?」


「頼みですか?」


「わしは、歴史学者であってな。日々、過去に起きた出来事について研究をしているのじゃ」


 ジンライは、手に持っている団扇を自分に向けて仰ぎ始める。


 ジンライが、団扇を使い始めた瞬間、そよ風が流れ出した。今まで無風だったのに、これが天狗の団扇の力なのか?


「さっきの爆発音は、かの元寇っていう戦で、元という国が日本と戦う際に、使った武器『てつはう』を再現しようとしていたんだ。配合物の割合を間違えて、爆発してしまったがな。がははは」


 ジンライは、口を開けて笑った。


「俺に頼みたいことって、何ですか?」


「主には、この霧島にあると言われている墓を見つけてほしい」


「墓?」


「源義経の墓じゃ」


「源義経って、あの源義経ですか?」


「そうじゃ。源平合戦で、たぐいまれな活躍をして、日本史に名前を列ねた。英雄源義経、その墓が、この霧島にあると聞いておる」


「それが、本当なら歴史が変わる事実では?」


 俺は、今とんでもない話を聞いている気がする。


「とても好奇心が、くすぐられる話じゃろ?」


 カエデは、ジンライの話を聞いて、頷いた。


「本当は、わしだけで見つけたかったんだが、探す墓は人間の墓。わしら妖怪が持っている文献だと、情報が足りなくての。主に、人間の村まで行って、調査をして欲しいのじゃ」


「その墓を見つけて来ます」


 俺も源義経の墓が、実在するのか気になる。


「助かるわい。わしは、この辺を縄張りにしているから、何かわかったら報告を頼むのじゃ」


 明日、霧隠れ村に行って、いろいろ聞いてみよう。


 カエデは、ジンライと別れを告げて、その場を後にした。



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