第十一話「豊穣祭の三種の神器」

 サングラスの妖精、騒ぎから一日。メイは、アカネによって保護されたらしい。今は、妖街で大人しく過ごしているという。


「昨日は、大変な一日だったな」


 俺も、昨日丸一日、メイの探索をしていたから、疲労が溜まっている気がする。


「今日は、ゆっくりと過ごせれば良いが」


 時刻は、午後の四時。あと五時間もすれば、管理人の仕事が始まる。


 ピンポーン。


「ん? なんだ?」


 玄関のインターホンを押した人がいる。


「アカリさんか?」


 サングラスの妖精が、まだ気になるのだろうか?


 ピンポーン。


「今、行きまーす!」


 玄関に行き、扉を開ける。


「ほっ、ほっ。元気そうじゃな」


 玄関の前には、シライシ村長がいた。


「シライシ村長。どうしたんですか?」


「管理人になって、一週間。どんな様子なのか気になっての」


「管理人の仕事については、慣れて来た気がします」


「それなら、良かったのじゃ。安心して、依頼を一つお願いできるの」


「依頼?」


 シライシ村長からの直接な依頼とは、どんな依頼なんだろうか。


「ここから、一ヶ月後に何があると思うかの?」


「一ヶ月後……」


 今は、四月の初旬。一ヶ月後は、五月の初旬。


「ゴールデンウィークですか?」


「ほっ、ほっ。確かに、それと重なるの。正解は、田植えが始まるのじゃ」


「お米作り」


「そうじゃ。霧隠れ村は、港にできるとは言え、全員が漁師ではない。半分は、農業で生活を補っているの」


「そうだったんですね。てっきり、漁業の街かと思っていました」


「霧隠れ村には、伝統行事があるのじゃ。その名も豊穣祭。豊作を願う、伝統行事じゃよ」


「豊穣祭」


「その豊穣祭は、妖怪達の助けも借りている大事な祭りなのじゃ」


「人間と妖怪が合同で行う祭りってことは、管理人である俺が、妖怪と連絡を取り合えば良いってことですか?」


「そういうことじゃ。豊穣祭のために、力を貸してくれないかの?」


「わかりました」


 カエデの返事に、シライシ村長は笑顔で頷いた。


「これは、豊穣祭に必要な三種の神器じゃ。三つの神器とも妖怪が、持っているからよろしく頼むの」


 シライシ村長は、カエデに折りたたまれた紙を渡した。


「三種の神器……」


 カエデは、折りたたまれた紙を開いた。





「これ、どうやって集めればいいんだ?」


 カエデは、妖街に続く森の中を歩きながら、シライシ村長に渡された紙に書かれた内容を見ていた。



 豊穣祭に必要な三種の神器

 ・天狗の団扇

 ・卑弥呼の鏡

 ・龍の角



 読み返すだけでも、頭が痛くなる。卑弥呼の鏡って、あの邪馬台国の卑弥呼か?


「何千年前の鏡なんて、あるのかよ」


 シライシ村長は、『まずは、ばぁ様に会ってみるのが良いの』って言っていたから、ばぁ様に会ってみよう。


 カエデの周囲が、霧に包まれて来る。


「そういえば、俺一人でも、妖街に来れるようになったんだな」


 妖怪の管理人の仕事に馴染んできた証拠か?


 霧を抜けると、妖怪の街である妖街が姿を現した。


「ばぁ様の所に行こう」


 カエデは、真っ直ぐ進み、ばぁ様がいる『妖亭』に辿り着く。


「あれ、管理人じゃーん」


 妖亭の中から、一人の女性が現れた。


「ミツバさん?」


「正解。よく覚えていたねー。ここに来たってことは、妖亭に用事があるの?」


「はい。聞きたいことがあって来ました」


「私に、会いに来た?」


「いえ」


「そこは、はいって言わないとだめだよー。女の子にモテないぞ?」


 ミツバは、笑いながら妖亭の扉を開けた。


「ばぁ様に会いに来たんでしょ? ばぁ様のとこまで、案内するよ」


 カエデは、ミツバの後に続いて、妖亭の中に入る。


「ミツバさんは、妖街にはいつからいるんですか?」


「私? 私は、五百年前からかな」


 五百年前だと、ミツバさんの見た目は、二十代にしか見えない。妖怪は長寿って、都市伝説は、本当なのか。


「生まれは、違うんですか?」


「うん、そうだね。生まれは、江戸。今では、東京って呼ばれているとこよ」


「都会人ですね」


「ははは! 東京が、都会って呼ばれるようになったのは、私が霧島に来た後のことよ。私がいたのは、戦国時代の時で、東京何て荒れ地だったんだから。川と沼しかなかったわよ」


「そうなんですか?」


「そうそう。ずっと人間同士が戦っているのが、嫌になって霧島に来たんだ。あいつら、平気で私達の住処も放火していくから、最低だよ」


「住処を放火……」


「そんな。落ち込むような表情をしない! 五百年もたてば、恨みなんか無くなるわよ」


 ミツバは、笑顔をカエデに向ける。


「あ、そろそろ、ばぁ様のとこに着くよ」


 ミツバとカエデは、閉められたドアの前に立つ。


「ばぁ様。カエデが、来たよー」


「くぁ、くぁ、くぁ。そうかい。そろそろ、来る頃だと思ったよ。入って来な」


「入って良いってさ」


 ミツバは、カエデに道を空けた。


「お邪魔します」


 カエデは、閉められていたドアを開けた。


「一週間ぶりだね」


 ばぁ様は、ソファーに座り、煙管を吸っていた。大柄な老婆が、煙管を吸う姿は、どこかラスボス感がある。


「お久しぶりです。今日来たのは」


「豊穣祭のことだろ?」


 ばぁ様は、なんで俺が来たのかわかっている。


「はい。三種の神器を借りたく、来ました」


「天狗の団扇、卑弥呼の鏡、龍の角だねぇ。くぁ、くぁ、くぁ。どれも貴重品だ」


「どこにあるのか、わかりますか?」


「もちろんだ。私は、そのうちの一つを持っているよ」


 カエデは、驚いた様子で、ばぁ様を見る。


「くぁ、くぁ、くぁ。そんな、驚かなくてもいいよ。私が、持っているのは、これさ」


 ばぁ様は、机の下から黒いバックを取り出して、カバンの中にあった物を見せた。


「丸い金属?」


「これは、三種の神器の一つ、卑弥呼の鏡さ」


「卑弥呼の鏡……」


 本当に実在していたのか。二千年前の物が。


「なんで、持っているか知りたいかい?」


 し、知りたい。


 カエデは、頷く。


「それはね、私が、妖怪になる前、邪馬台国の女王である卑弥呼だったからさ」






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