第十話「奥の手」

「カ、カエデさん。本当に、これをすれば目を合わせなくても、大丈夫なんですか?」


「あぁ、これなら目を合わせなくても大丈夫だ」


 メイが、泡を吹いて気絶した日から数日。いろんな方法を試して、気絶しないように試行錯誤をしてみたが、メイは、ことごとく気絶してしまった。


 タイムリミットの一週間まで、後一日。


 カエデは、今日の朝思いついた妙案を、カエデの家で実行させていた。


「アカネちゃん。私、おかしい?」


 メイは、自分の隣に立っているアカネのことを見る。


「ううん。おかしい所は、何もないわよ。かっこいい」


「か、かっこいい。初めて言われた」


 メイは、照れくさそうにしている。


「鏡を持って来た。自分自身で見てもらった方が、わかりやすいと思うぞ」


 カエデは、メイに向かって鏡を見せた。


「これが、私?」


 メイの顔には、サングラスがかけられている。


 カエデが、思いついた方法は、メイにサングラスをかけさせることだった。


「このサングラスって物は、相手と目を合わさずに会話が成立する、便利なアイテムだ」


「そんな便利な物が……」


 メイは、感心しているようだ。


「これは、応急処置だ。本当は、目を合わせるまで、俺が上手く教えればよかった。申し訳ない」


「あ、ありがとう。これが、あれば大丈夫な気がする」


 メイは、笑みを浮かべた。


「アカネちゃんもありがとう」


「メイが、安心できたなら良かった」


「私、座敷童の使命を果たせるように頑張る!」


 メイの表情は、この一週間で一番、自信に満ち溢れていた。





「メイは、大丈夫なのだろうか」


 カエデは、コーヒーを飲みながら、携帯を見た。


 時刻は、午後の九時。メイにサングラスを渡してから、丸一日経った。予定通りなら、今日から座敷童として、家に住み着いているはずだ。


「心配ね」


「そうだな。心配……え!?」


 カエデは、隣に突然現れたアカネに驚いた。


「何、そんなに驚いているの?」


「自分家の中に、突然誰かが現れたら、普通驚くだろう」


「庭に繋がるドアに、鍵を閉めなかったカエデが悪い」


「そこから入ってきたら、もはや不法侵入だろ」


 カエデは、ため息をついた。


「見に行かない?」


「見にって、何を?」


「メイが憑りついている家」


 カエデは、アカネの目を見る。


「もしかして、メイが憑りついている家を、知っているのか?」


「うん。昨日の帰りに教えてもらった」


「俺の家に来たのって、誘うため?」


「まぁ、ね」


 アカネは、頬を赤らめて言う。


「行こう!」


 カエデは、立ち上がった。





 メイが憑りついた家は、港町から少し離れた一軒家みたいだ。


「この家に、メイは憑りついているのか」


「うん。ここに、メイがいる」


 外壁があって家の中は、確認できないが、特に騒ぎとかは聞こえない。


「順調に、住み憑いているのか?」


「私、様子を見に行って来る」


 アカネの姿が、白猫になった。


「便利だな」


「ニャーン」


 白猫になったアカネは、猫の鳴き声を出して、外壁の上に上がり、家の中に入って行く。


「あ! ママ! ニャーだ!」


「本当だわ。首輪がついている。どこの猫かしら?」


 家の中から、子供の声と女性の声が聞こえる。普通に会話をしている。まだ、メイは子供に見つかっていないのか?


「あ、屋根に登っちゃった」


「本当ね。お家の中に入りましょ。良い子にしていれば、また来てくれるわ」


「うん! わかった!」


 この会話を最後に、子供と女性の声が聞こえなくなった。


「しばらく待つか」


 今頃は、アカネがメイを探している際中だろう。


 カエデは、夜空を眺めて、アカネが戻って来るのを待った。


「メイを見つけたわ」


 しばらくすると、アカネが人型の姿で戻って来た。


「どうだった? 大丈夫そうか?」


「今日は、屋根裏部屋で大人しく過ごすみたい。家に住んでいる家族が、どんな風に過ごしているか、観察をするって言っていたわ」


「そうか。気持ちが前向きで良かった」


 アカネの話を聞く限り、安心できそうだ。


「私は、帰る」


 アカネは、歩き始めた。


「俺も、家に戻るか。誰かが、来ているかもしれない」


 メイは、慎重に行動をしているみたいだし、大丈夫だろう。


 カエデは、安心して、自分の家に帰った。





 ピンポーン。


「ん?」


 カエデは、チャイムの音で目覚める。


 誰だ?


「はーい。今行きますー」


 カエデは、玄関に向かって歩き、玄関の扉を開いた。


「あ、カエデくん!」


「アカリさん」


 玄関を開けた先には、役場で働いているアカリがいた。


「忙しかった?」


「いえ、特に忙しくはなかったです」


「今日はね、妖怪の管理人のカエデくんに、聞きたい事があって来たの」


「聞きたいこと?」


 カエデは、首を傾げた。


「今日、霧島で新しい妖怪が現れたって、騒ぎがあってね」


「新しい妖怪?」


「その名も、サングラスの妖精!」


 カエデは、上を向いた。


「そのリアクション、知っているのね! さすが、妖怪の管理人!」


「ま、まぁ。耳に挟んだぐらいしか、知らないですが、何があったのですか?」


 何か、ややこしいことが起きている。


 カエデは、あえて『サングラスの妖精』の正体を明かさずに、何が起きているか、知ろうとした。


「今日の早朝にね。サングラスをかけた小人が、猫に追いかけられて、港町を走っていたらしいの。ねぇ、どんな妖怪なの!?」


 アカリは、目を輝かしながら、カエデのことを見る。


「はは、ははは、はははは」


 カエデは、苦笑いするしかなかった。

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