第八話「人見知りな座敷童」

「座敷童……」


 妖怪について、あまり詳しくない俺でも知っている妖怪だ。確か、家に憑りついて、幸せを運ぶ妖怪だっけ?


「この子の願い、聞いてくれる?」


 門から、赤い着物と首に赤い首輪を付けている、化け猫のアカネが入って来る。妖怪って言われなければ、人間だと思うほど、人間に見えるな。


「アカネちゃん!」


 座敷童は、アカネの姿を見て、嬉しそうな顔をした。


「アカネの知り合いなのか?」


「霧島に住む妖怪は、みんな知り合い」


「そうなのか」


 田舎に住むと、顔見知りになるって聞くけど、それって妖怪にも当てはまるんだな。


「メイだっけ?」


 カエデは、しゃがんで、座敷童と同じ目線になる。


「う、うん」


「お願いって何?」


 幸運を呼ぶと言われている座敷童だ。悩みがあるようには見えない。


「そ、それは」


 メイは、言いづらそうに、もじもじする。


「この子ね。人見知り」


 メイの後ろに立った、アカネが、メイの悩みを告白した。


「ア、アカネちゃん!?」


 メイは、驚いた様子で、アカネのことを見る。


「話しが進まなそうに見えて」


 アカネは、淡々と話す。


 もしかして、アカネはせっかちなのかもしれない。メイみたいに、話がなかなか進まない所を見ると、進めたくなるのか。


「メイは、人見知りなの?」


「う、うん」


 メイは、カエデに話しかけられて、アカネと話す時とは対照的に、固まった表情で返事をした。


 仲が良い人には、友好的に話せて、関係が浅い人には固まった返事をする。人見知りの人が取る行動の一つだ。


「この子。一週間後、人間の家に憑りつくことになっている」


「そうなんだ。でも、憑りつくためなら、人見知りは関係ないんじゃないか?」


 憑りついて済むなら、無理して人見知りを治す必要はないと思う。


「こ、子供がいるの」


「子供?」


 カエデは、メイの言葉に首を傾げた。


「座敷童が家に憑りついている時は、大人に姿は見えないけど、子供には姿が見えるの。だから……」


「子供と仲良くするためにも、人見知りを治したい?」


「う、うん」


 メイの小さな拳に力が入っているのを、カエデは気づいた。


 本当に、人見知りを治したいんだ。


「わかった。人見知り直しを手伝う」


「ほ、本当?」


 メイの目が、輝き始める。


「まずは、どれくらい人見知りなのか、知る必要があるんだけど……」


 そういえば、メイと話し始めてから、一回も目が合っていないな。人と話すときは、目を見て話すのが大事だと親から教わった。


「メイ。一つ、お願いしてもいいかな?」


「な、何?」


「俺と目を合わして、会話してくれる?」


「め、目を?」


 メイの疑問に、カエデは頷きで返した。


「わ、わかった」


 メイは、目を伏せながら話していたのを辞めて、カエデと目を合わした。


「うん。まずは、目を合わして話す」


 カエデと目を合わして、数秒後メイは仰向けになって倒れた。


「え!?」


 カエデは、思わず驚きの声を上げる。


 なんで、倒れたんだ?


「気絶している」


 アカネは、倒れているメイの顔を覗き込んで、状況を教えた。


「目を合わせるだけで、気絶するか。人見知り、一週間で治るかな」


 カエデは、夜空を見上げた。





 気絶したメイを布団に寝かしたカエデは、アカネとお茶を飲みながら、人見知りを治す方法を探っていた。


「アカネは、どうやってメイと仲良くなったんだ?」


 まずは、メイとアカネが仲良くなった経緯を知ってみるか。解決の糸口があるかもしれない。


「私も……昔人見知りだったから」


 アカネは、少し頬を赤らめながら答えた。


 初めてアカネが、自分の名前を言った時も、頬を赤らめていたな。あれは、人見知りの名残的なものだったからか。


「同じ人見知りだったから、仲良くなれたってことか」


「うん。メイと仲良くなれたきっかけを、そんな深く考えたことはなかったけど、そうだと思う」


 確かに、俺も学生時代仲良くなれた友達って、何かしら同じ共通点があったからだ。


「メイに共通点を探してもらって、仲良くなれるって、思ってもらう方法が良いか」


「私も、その方法が良いと思う」


「解決方法は、わかったけど」


 カエデは、寝ている座敷童のメイを見る。


「メイの場合は、それ以前の問題から解決していかないとだな」


 さすがに、目を合わせただけで、気絶するのは、やばすぎる。その状態で、家に住み着いたら、一日で何回気絶するのか、わからないぞ。


 カエデは、自分の顎を触りながら考える。


「うぅ……」


 寝ているメイから、うめき声が聞こえる。


「メイ。夢でも見ているのか?」


 カエデとアカネは、メイが寝ている方向を見る。


「みんなを幸せにできる。座敷童になる……」


 カエデは、アカネと目を合わせた。


「絶対に、メイの人見知りを治そう」


「うん」


 カエデは、メイの人見知りを治すと、改めて心に誓った。


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