第七話「初仕事」

「昔とは、立ち位置が違う?」


 カエデは、ばぁ様の言った言葉に首を傾げた。


「そうさ。さっきカラカラが、『新しい管理人に助けられた!』って喜んでいたね。カエデが、助けたのかい?」


 カエデは、頷いた。


「それが、今の管理人の役割さ。要するに、人助けならぬ、妖怪助けだね。くぁ、くぁ、くぁ」


「妖怪を助けて行くのが、俺の仕事なんですか?」


「そういうことさ。ここ、数百年で人間社会の技術は、めまぐるしく発展した。その科学の力を、妖怪にも恩恵を受けようと考えているのさ」


「なるほど……俺って、ただの便利屋?」


 てことは、これからの生活は、妖怪のパシリになるのか。


「くぁ、くぁ、くぁ。そう、落ち込むんじゃないよ。あんたが管理人でいる限り、霧島の島民からは感謝される。島民は、管理人の存在があるから、安心して仕事に集中できるんだ」


「霧島の人から感謝される?」


「そうさ。鎌倉時代の付き合いからだと言って、違う種族。自分達が寝ている間、妖怪が何しているのか不安なのさ。人間の生存本能だね。世界を変える発明をしている人間だからと言って、本能にはあらがえないのさ」


 なるほど、例えるなら、この霧島は島ごと動物園みたいなもので、島民は、その動物園に住んでいる。俺は、動物園に住む動物のお世話をして、人間に危害を出ないようにしているってことか。


「なんとなく、理解できました」


「そうかい、そうかい」


「俺は、妖怪のリクエストに答えて行けば、いいのですか?」


「そういうことさね。管理人は、いわば万事屋だ。しっかりと報酬も出すように妖怪達には言ってあるから、今後ともよろしくだね。くぁ、くぁ、くぁ」


 ばぁ様は、笑った後、カエデに手を差し出した。


「よろしく、お願いします」


 カエデは、ばぁ様と握手をした。





 カエデは、自宅で目が覚めた。


「昼だ」


 時刻は、昼の十二時を回っている。


「顔を洗おう」


 カエデは、布団から起き上がり、洗面台で顔を洗う。


「妖怪の管理人か」


 カエデは、タオルで顔を拭きながら昨日の出来事を思い出した。


「昨日の出来事が、夢落ちだったって結末はあるのか?」


 島の内陸部には、妖怪の街がある。俺は、妖怪と人間の橋渡し役みたいなもので、この島に住む島民と妖怪を支える存在。


「さすがに、夢落ちはないか」


 とりあえず、面白い仕事だと、前向きに受け止めよう。実際にやってみないと、どんな仕事かわからない。


「まずは、自分の生活リズムを夜型にするところからだ」


 昨日の話を聞く限り、妖怪の生活リズムに合わせる所から、始めないといけない気がする。


 ピンポーン。


 チャイムの音が、家の中に鳴り響く。


「誰だ?」


 カエデは、玄関に向かってみる。


「カエデくーん」


 この声って、アカリさん?


 玄関の扉を開けてみると、役場で働いているアカリが立っていた。


「アカリさん。おはようございます」


「ほっ、ほっ。おはようじゃの」


 アカリの後ろから、シライシ村長が現れた。





「それで、妖怪の管理人って、昨日初めて聞きました」


 アカリとシライシ村長を家に招いた、カエデはシライシ村長を見ながら、不満げに言った。


「ほっ、ほっ。すまないの。カエデ殿には、妖怪を見てもらって実感してもらった方が、話しは早いと思ったのじゃ」


 シライシ村長は、カエデが出したお茶を飲みながら、笑っていた。


「カエデくん。ごめんね。本当は、伝えたかったけど、伝えられなくて……」


 アカリは、申し訳なさそうにして謝っている。


「アカリさん。大丈夫です。村長が、隠していたのが悪い」


「まぁ、すぎたことじゃ。水に流そうではないか」


「村長。それは、俺が言うべきセリフです」


「ほっ、ほっ。そうじゃったな。すまないのー」


 本当に、すまないって思っているのか?


「村長とアカリさんは、今日なにしに来たのですか?」


 このタイミングで、来たのだ。ただ、寄ってみたって言う訳じゃないだろう。


 シライシ村長は、お茶を一口飲む。


「昨日、妖怪達と会って来て、管理人を辞めようと思ってないかと、気になっての」


 シライシ村長は、カエデの目を見て話した。


「辞めたいと言ったら、どうするんですか?」


「そうじゃのー。島外の人を、この役職に就かせると、外部に秘密が漏れる可能性がある。そうなれば、島内で探すべきなんじゃが」


「できないんですね」


「そうじゃの。この島は、見ての通り、半分自給自足で成り立っているんじゃ。みんな仕事についているからの。その人達に、夜も働けって言うのは、酷じゃな」


「俺も島外の人ですが、信用してもいいんですか? 島の外に情報を漏らすかもしれない」


「ミサトおばさんのお墨付きじゃからの。『妹の孫に、家業を継いでくれるかもしれない心優しくて、信用できる人がいる』って、わしに伝えてくれたのじゃ」


 ミサトおばさんが、数回しか会っていない俺を、管理人に推薦したのは、俺のおばあちゃんの話を聞いていたからなのか?


「それで、カエデ殿は、管理人の仕事を続けてくれるかの?」


 シライシ村長の言葉に、カエデは無言になる。


「カエデくん」


 アカリは、心配そうな声で、カエデのことを見る。


「し」


 カエデは、重そうに口を開いた。


「しばらく、管理人の仕事を続けたいと思います」


 シライシ村長とアカリは、嬉しそうな顔をする。


「ありがとう! カエデくん!」


 アカリは、嬉しそうにお礼を言った。





「まぁ、やりたいことを見つけるまでだ」


 カエデは、横になりながら携帯をいじる。


 シライシ村長とアカリが帰って、カエデは買い物と夕飯づくりなどやることした。


「もうすぐで、九時だ。何かあれば、妖怪が来る時間になる」


 気付けば、夜だ。管理人の仕事が、ちょうど始まる。


 ピンポーン。


 チャイムが押された音が聞こえた。


「管理人生活、二日目の仕事だ。頑張るか」


 カエデは、玄関に向かい、扉を開けた。


「あれ? 誰もいない?」


 玄関を開けた先には、誰もいなかった。


「ここ」


 今、声が聞こえた。


「ここ?」


 声が聞こえたのは、下の方だ。


 カエデは、下を向く。


「初めまして」


 下を向くと、膝ぐらいしか背の高さがない。小さな子供が立っていた。


「君は?」


「私、座敷童のメイって言うの」


 黒い着物と黒い下駄を履き、おかっぱ頭の女の子は、もじもじしていた。



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