第五話「妖怪の後について行くと」

「うわ!」


 カエデは、驚いて尻もちをついてしまう。


「驚かないで、助けてくれよー」


 からかさお化けは、カエデのことを見ながら助けを求めた。


「か、傘が喋った」


 心臓の鼓動が高まる。傘が喋るとこなんて、初めてみたぞ。ロボットか?


「管理人さん。からかさお化けを助けてあげて」


 赤い浴衣を着た女性は、カエデの方を見る。


「か、傘を引き抜くぐらい、できないのか?」


「私は、助けることができない」


「できない?」


 カエデは、赤い浴衣を着た女性の方を見る。


 怪我をしている様子もない。なんで、助けることができないのだ?


「私の手だと、からかさお化けを傷つけてしまう」


 女性は、自分の手を見る。その手にある爪は、第一関節ぐらい伸びており、電灯の光に反射していた。


「君は一体……」


 カエデは、喋る傘に、異様なほど鋭い爪を持つ、赤い浴衣を着た女性がいる状況に理解が追いつかなかった。


「おい、化け猫! この人間に、早く俺を抜いてくれるように頼んでくれ!」


 からかさお化けは、我慢できないのか、化け猫と呼んでいる女性を急かすように頼んだ。


「化け猫?」


 カエデは、女性の首に付いていた、赤い首輪を見て思い出した。


「もしかして、今日の昼間、庭にいた白猫?」


「気づいていなかったの?」


 いや、人間が猫に化けるなんて初めて聞いた。気付かない方が、普通だ。


「助けてあげて」


 女性は、カエデの肩を叩いて、傘を指さす。


「わ、わかった」


 聞きたいことが、いっぱいあるが、今はこの状況を打破しよう。


 カエデは、立ち上がり、傘に近づく。


「早く助けてくれー!」


「思いっきり、引っ張ってもいいのか?」


 カエデは、傘に手を伸ばした。


「大丈夫だ!」


 握った傘を、力入れて引っ張り始める。


 すごい刺さり方をしているな。地面から抜けないぞ。


「やっぱ、優しくしてくれ! 少し痛い!」


「わ、わかった」


 カエデは、手だけじゃなく、足にも力を入れて、体全体で傘を引っ張った。


 これならどうだ?


「お、お、良い感じだ! 抜けていくのを感じる!」


 もうひと踏ん張りだ。


 カエデは、体勢を後ろに倒しながら、引っ張ってみる。


「うわ!」


 カエデは、傘が抜けた拍子に、後ろに倒れてしまった。


 いてて、傘も手から離れてしまった。どこに飛んだ?


「ありがとー!」


 カエデの頭上から、声が聞こえた。


「傘が浮遊している」


 からかさお化けは、カエデの頭上で、ふわふわと浮遊していた。


「自己紹介が遅れたな! 俺は、からかさお化けの、カラカラだ」


「カラカラ」


「今日は、急ぎの用事があるから、明日お礼しに行くよ! じゃあな!」


 カラカラは、森の中に姿を消して行った。


 カエデは、呆然としたまま、カラカラが消えて行った森の方向を見た。


「ありがとう」


 赤い浴衣を着た女性が、カエデに話しかける。


「君にも、名前があるのか?」


 カエデは、赤い浴衣を着た女性の方を見る。


「わ、私の名前は、アカネ」


 自分の名前を言う時のアカネは、頬が赤く染まっている様な気がした。


「管理人って、何の仕事なんだ?」


 カエデは、アカネの目を見る。


「え?」


 アカネは、目を見開いて驚いた表情をした。


「もしかして、知らないまま、管理人の仕事を受け継いだの?」


「シライシ村長は、夜になればわかるってしか言っていなかった」


「もしかして、逃げられないようにするため。腹黒村長」


 アカネは、カエデの返事を聞いて、独り言のように呟き始めた。


「アカネ、管理人の仕事って、何か教えてくれないか?」


 アカネのリアクションを見る限り、管理人の仕事が何かを知っているはずだ。


「ここで話すより、街に来ればわかりやすい」


「街?」


「ついて来て」


 カエデは、アカネの後について行く。




「ここに、街なんてあるのか?」


 港に向かうならわかるが、アカネが向かっているのは、内陸部の森の中だ。舗装された道路は無く、獣道を進んでいる。周囲は、木しか見えない。


「私達、妖怪が住んでいる街」


「そうなんだ。え? 妖怪?」


 今、妖怪って言わなかったか?


「敷地内に入った」


 カエデは、周囲が霧に包まれ始まれていることに気づいた。


「霧? いつの間に」


 どんどん霧が濃くなっていく。


 アカネは、動じることなく、濃い霧の中を進む。


 カエデは、アカネを見失わないように、アカネの後をついて行った。


「どこまで、進むんだ?」


「もうすぐ」


 カエデは、霧の奥に多くの光が、あることに気づいた。


「森の中に、たくさんの光が」


「ようこそ、妖怪の街。妖街ようがいへ」


 霧が晴れると、カエデの目の前には、木造建ての建物が連なる繁華街が現れた。




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