第四話「管理人とは」

「なんで、庭に猫がいる?」


 迷い込んで来たのか?


 カエデは、布団から起き上がり、猫がいた庭の方向を見た。


「あれ? また、いなくなっている」


 庭には、猫の姿が無かった。


「飼い猫だけど、人見知りなのか?」


 カエデは、庭に出て空を眺める。


 青空だ。こんな空を眺めたのは、いつぶりだろう。太陽も頂点まで登っていて、眩しい。


「ん? 太陽が真上?」


 カエデは、自分の部屋に戻り、携帯の画面を見る。


 時刻は、十一時……。


「十一時!?」


 昨日寝たのは、十一時ぐらいだ。てことは、十二時間は寝ていたことになる。


「寝過ぎたー」


 カエデは、頭を抱えた。


 とりあえず、顔を洗って気を取り直そう。


 カエデは顔を洗い、朝食(昼食)を済ませた。


「昨日の続きをしないとだな」


 運送業者の人が運んでくれた段ボールを開封する。


「この段ボールは衣類入れか。まずは、クローゼットを入れる場所を考えよう」


 カエデは、辺りを見渡し、押し入れを見つけた。


「押し入れの中に、しまおう」


 プラスチックのクローゼットだから、持ち運びは一人で出来る。


 カエデは、押し入れの中にクローゼットを入れて、その中に下着や服を入れた。


「これで良し」


 その後、残った段ボールを開けて、物を整理した。




「あー、終わったー」


 カエデは、畳の上に倒れて、天井を見る。


「この家、一人で住むには広すぎるな」


 掃除して、改めて認識した。


「ミサトおばさん。何で、家を広くしたんだ? 一人暮らしには、大きすぎる」


 誰かと住んでいたのか?


 カエデは、顔を横に向けて、庭を見る。


「もう夕焼けだ」


 門の壁が、夕日の光で、赤く染まっている。


「昼頃に起きると、あっという間に夕方だ。一日もったいない過ごし方を、してしまった」


 カエデは、天井を見ながら後悔した。


「そういえば、管理人の仕事って、今日からなんだよな」


 何をしたら良かったのか、わからないまま夕方を迎えてしまった。このままで、いいのか?


『明日の夜になれば、わかることじゃ』


 昨日、シライシ村長が言っていた言葉を思い出す。


「シライシさんが言っていた通り、夜になればわかるのかな?」


 カエデは、起き上がりキッチンがある方向を見る。


「夕飯づくりでもするか」


 昨日もらった、野菜の残りがあるはず。


 カエデは、キッチンに行き、冷蔵庫の野菜室を開ける。


「昨日と同じ、野菜炒めでいいか。料理のレパートリーを増やしていかにとだな」


 そういえば、二日連続で自炊をしたのは初めてかもしれない。仕事を辞めて一ヶ月、こんな変化も現れるんだな。


 カエデは、自分の身に起きた変化に驚きつつ、料理を始めた。




「今日も食べたなー」


 食器も洗ったし、横になろう。


 カエデは、畳の上に寝転んで、携帯の画面で時間を確認する。


「夜の七時を過ぎた」


 そろそろ、管理人の仕事が何かが、わかるはずだ。


「わかるまで、目を瞑っていよう」


 カエデは、瞼を閉じた。


 ピンポーン。


「ん?」


 ピンポーン。


「なんだ?」


 カエデは、インターホンを聞いて、目を開ける。


「ちょうど、リラックスしていた所だったのに」


 今は七時だぞ。


 カエデは、携帯を開いてみる。


「え、九時?」


 携帯の時計は、午後の九時を指していた。


「まさか、寝ていたのか!?」


 カエデは、勢いよく起き上がる。


 ピンポーン。


 三回目のインターホンが鳴った。


「今行きます!」


 まずい、管理人の仕事が始まってしまったんだ。初日から寝坊って、何しているんだ俺。


 カエデは、急いで玄関に向かう。


 ピンポーン。


「今開けます!」


 カエデは、玄関のドアを開けた。


「あなたが、新しい管理人さん?」


 玄関のドアを開けると、髪が少し長い女性が立っていた。


「は、はい」


 カエデは、返事をして、体が固まった。


 この女性、なんで浴衣を着ているんだ?


 カエデの目の前にいる女性は、赤い浴衣を着ていた。


「早速、お願いしたいことがあるけど良い?」


「お願い?」


「来て」


 浴衣を着た女性は、カエデに背中を向けて歩き始める。


「あ」


 カエデは、赤い浴衣を着た女性の首に、赤い首輪が付いていることに気づいた。


 あの首輪、どこかで見たことがある。どこで見た?


 カエデは、目を閉じて、脳内をフル回転させた。


「大丈夫?」


 女性の声を聞いて、カエデは目を開いた。


 赤い浴衣を着た女性が、門の出入り口に立っている。


「こっち」


 女性が、門を出て行き、カエデの視界からいなくなる。


「ま、待って」


 カエデは、女性の後を追った。




 赤い浴衣を着た女性は、カエデが追いついて来ても、動じない様子で歩いている。


「どこに向かっているのだ?」


「もうすぐ着く」


 女性は、それだけを言って、歩き続ける。


 電灯の光のおかげで、見失わないで済んでいるが、どこに向かっているか想像がつかない。


 しばらく歩くと、女性は立ち止まった。


「ここよ」


 女性は、道路わきの地面を見つめていた。


 何で地面を、見ている?


 カエデは、不思議に思い、赤い浴衣を着た女性に近づく。


「た、助けてくれー!」


 誰かが、あそこで助けを求めている!


 カエデは、急いで女性の元に近づく。


「何が、あったんですか!?」


 カエデは、急いで駆け寄り、女性が見ていた地面を見たが、古びた傘が一本地面に刺さっているだけで、人の姿は見えなかった。周囲を見渡してみるが、人らしい姿は見当たらない。


 どこにいる?


「確かに、ここから助けを求める声が聞こえたはず」


 声は聞こえたのに、なんで誰もいない。


「ここだよ! ここ!」


 え? 今、目の前から声が聞こえた。


 カエデは、声が聞こえた地面を見る。そこには地面に突き刺さった古びた傘しかなかった。


「一体どこに」


「その、からかさお化け」


 赤い浴衣を着た女性が、地面に突き刺さっている、古びた傘を指さした。


「からかさお化け?」


「うん。からかさお化けが、子供のいたずらで、地面に突き刺したまま放置されちゃったの」


 何を言っているんだ?


 カエデは、女性の言っていることが理解できなかったが、しゃがんで古びた傘を見てみる。


「普通の傘だ」


「助けてくれ!」


 突然、傘から目が現れた。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る