第5話 この世界の話をしよう
「ドウタロウ、晩飯だ。」
グリウの声が聞こえてきた。俺は覚悟を決める。
娘さんと顔を合わせることになる…大丈夫、ゴミの話は俺と関係ない。
部屋を出ると短い廊下を歩く、電気ではなくろうそくがメインの明かりだ。電気がないのか?それともこの村が田舎なのだろうか。
目線のすぐ先に開けた場所があり、そこにテーブルが置いてある。こちらを背にして、おそらく娘が座っている。気まずい…
「お邪魔しております…」娘さんは振り向かない。
「おう、俺の隣に座ってくれ。」グリウの座っている横を指差す。
「紹介する。こいつは俺の娘グリシャだ。」
「よろしく。」笑顔で挨拶する。
「グリシャ、こいつの名前はドウタロウ。転生者だ。」
グリシャは、はあ、とため息を吐く。
「やはりゴミ。」
ああ、やはり俺のこと…きゅっと心臓が痛くなる。
「ドウタロウ、すまないな。こいつは口が悪い。こんなことを言っているが、お前を見つけ助けようと言ったのはグリシャなんだ。」
「大丈夫です。グリシャ、本当にありがとう。俺は君のおかげでなんとか生き延びたよ。何かお礼ができればいいんだけど…」
「ドウタロウ、私があなたを助けた。見たところゴミで使い用がなさそうだけど、あなたには一応やってもらいたいことがあるの。」
なんと高慢ちきな子なんだ…柔ちゃんとは大違いだよ…!きつい美人だ!なぜグリウが育ててこの性格になるんだよ!!などと俺は思うが表情には出さない。俺は営業マンだからな。
「ああ、何かできることあるならそれをぜひ。」俺は営業マン…俺は営業マン…
「まあまあ、そう言う話は後だ。まずは飯を食いながらこの世界のことを話そう。ドウタロウのことも教えてくれ。」グリウが話に割り込み、会話は一旦終わる。
「さあ、遠慮せず食ってくれ。」
グリウがキッチンから料理を出してくれる、木の皿が2つ、コップが1つとそれぞれいきわたる。やはり、この家には母親がいないのか…
食事ははっきり言って、豪勢なものではなかった。俺の世界で言うところの、パンがゆとバラ肉炒めとサラダだった。材料はなんだろう。
「いただきます。」そう言って俺は食べ物を口に運ぶ、パンがゆを食べてみる。体が喜んでいる。久しぶりの飯なんだ。と思い出す。原材料が何かなんて考えはもう忘れた。とにかく口にこの食事を運びたい。
「とても美味しいです。本当にありがとう。」心から言葉が出る。
「いいって、ゆっくり食いな。おかわりもあるからよ。」
「はい!」俺は黙々と食べさせてもらった。そんな俺を観察するように、グリシャは見ている。
「さて、どこから話そうか。」グリウが話を切り出す。
「あの、まずこの星の名前から…」常識を知らないとこの世界の人と話すのも気が引けるよ。
「ああ、そこからか。わかった。」
「ここは、惑星ダガン、ガラテーア大陸のグン国、エンサ地方の外れにあるマシア村だ。俺はそこの衛兵長をしている。グン国の首都グンガイからの派遣なんだ。」
グリウは俺がこの情報をかみ砕けるか見ている。思慮深い人だ。俺は大丈夫だよと目を見てうなずく。グリウはそれを見て話をつづけた。
「ガラテーア大陸の中でグン国は内陸国で、他の国々に囲まれている。ただ、幸か不幸か、他国との間には大きな川や谷、険しい山があって他国の干渉を受けずらいんだ。本来であれば他国はグン国を占領すれば、中継基地を置くのに絶好の位置だ。喉から手が出るほど欲しいはずだ。しかし、我が国は中立国であることを宣言し、どの国とも軍事関係を結んでいない。我々がこの大陸の表面上の平和を維持していると言っても過言ではないだろう。」
なるほど、女神の言っていた「正しい方向」ってのは戦争を止めることなのかも。
「話を割ってすみませんが、戦争の気配が強いと?」
グリウは頷いた。
「ああ、その通りだ。約二十年前ほどから、転生者が出現し始めた。その転生者たちの特色で独自の発展を各国がし始めた。不可能が可能になることが増え、欲が膨らみ始めた。そして、この内陸国グン国を統治しようと動く気配に感づいた。そこで王は、各国とのつながる関所に王国の軍隊を一部ずつ配置した。ここは、北の隣接国ゼインとの関所がある僻地の村ってわけだ。ここまでは大丈夫か?」
「なんとなくわかる。完全に把握するのは後にするよ。」俺はとりあえず答えた。
なるほど、転生者は俺たちだけじゃないのか。だが20年前からの出現ってことは、場合によっては。最初の転生者は老人の可能性もあるわけだ。しかし、もっとなんか大雑把な世界だと思っていたが、意外に重たいというか、現実的というか…
「続けるぞ。転生者ってのは、突如出現するらしい。そいつらを手に入れるってことは国の繁栄に広がるわけだから、皆転生者を探すようになったわけだ。だが、どういうわけか我が国は一度たりとも転生者なんぞ現れなかった。中立国としての立場はどんどん弱くなり、かつての中立国としての威厳はなくなった。他国は繁栄を速める中、我々だけが当時とほぼ変わらない技術水準となってしまった。こうなるともう、我々は中立国ではない。ただ他国がいがみ合っている間に挟まっている机でしかないのだ。」
なるほど、今俺がいるこのグン国は滅亡の危機なわけだ。わかりやすく危ない。
俺は机にあるろうそくの炎の揺らぎを見つめて、ある考えにたどり着いた。
おれ、絶対なんか危ないことやらされるんだろうな…グリウより弱いはずなのに…
「なに遠い目してんのよ。ちゃんとお父さんの話聞いてるの?」
グリシュが突っかかってくる。もうなんか面倒臭い気もしてきた。そんなふうに言われてもしょうがないじゃないか。俺はジョブスキル無のスキル技「ほふく」男だぞ…
「グリシュ、いい加減にしろ。ドウタロウの身の上も聞いていないのに、そんな態度はもう許さないぞ。」
いいぞグリシュ、少しは怒られたほうがいいんだ。
あ、泣きそう。グリシュ泣きそう。目が潤んでる。打たれ弱すぎだろ。ちょっとかわいく見えてきた。
「…ごめんなさい。お父さん。」
いや俺、俺に謝るんだよグリシュ、社会じゃそれはやっていけないよ。
「わかればいいんだ。」グリウはそう言って頭にポンと手を置く。
おれに謝らなくてもゆるしちゃうんだ…
「さて、ドウタロウ。ざっとしたこの世界のお話だったが、ここからなぜ俺たちがお前を匿ってるのか、そういう話になる。いいかな?」本題だぞ、という雰囲気を感じる。少し空気が重い。
「いいですよ。話してください。」ある程度を覚悟して聞くことにした。
「この村の奥地、北国のゼインとの国境間で巨大な爆発があったんだ。9日前のことだ。つまり、ドウタロウは9日間眠り続けたことになる。」
そんなに俺は眠っていたのか…いかにとんでもない爆発だったかがわかる。つくづく今を生きていることに感謝しなければならない。
「ドウタロウ、我が国にとってお前は初の転生者なのだ。わかるな?」
「なるほど…待ちに待った転生者といったところですか。」つい社会人としてキリっと反応してしまうが、すまない、まったく期待に応えられないんだが。
「そうだ。だからこそグリシャはその爆発をいち早く確認し、光る飛行物体を見つけたんだ。それがドウタロウ。お前だ。」
ああ、グリシャはそれで怒っているんだ。グリウの役に立ちたかったんだな…グリシャは分かってるんだ。俺は転生者だけど、役に立たないことを。
目が合ったグリシャは初めて屈託のない笑顔をした。
「ようこそ、ガラテーア大陸へ。」皮肉たっぷりのセリフだ。
「ありがとう。」俺は笑うしかなかった。
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