第4話 美しい世界とゴミ
光が目に差し込む…眩しい…
目を開くと、天井が見えた。助かったのか…奇跡としか言いようがない。
…目線だけを動かし腕を見る。包帯が巻いている。一体誰が俺を保護してくれたんだろう。
家に人の気配が感じられない。
そうだ。柔ちゃんは無事だろうか。まあ、発動スキルの人間が無事じゃないなんて余りにもお粗末だが、女神の焦り用を見ると、只事じゃないな。
…本当に彼女は選ばれし者なんだな。この世界に来たばかりで、最初からあんなスキルが使えるなんて…それに比べて俺は「ほふく」だからな…
はははと乾いた笑いが自然と出る。
我ながら笑える。自分の情けなさに。こっちの世界でも俺は一般人か。いや、もしかしたらそれ以下かもしれないな。
天井の木目を見ながら色々なこと反芻する。
不意に、風を感じる。
天井から視線を風が来た方に向ける。木目のサッシでできたアンティークな窓だ。
ガラス越しに見える木々と景色がとても綺麗だった。
無意識に、体を起こして、窓の近くまで歩いていく。後から気づく、痛みがない。この世界のスキルで治してくれたんだろうか。家の主が来たらお礼を言わなければ。
両開きの窓の片方だけが開いていた。両開きにしようと手を動かす。
窓の向こうに情景が広がる。風が外の匂いも運んでくる。澄んだ空気の匂いだ。
ふう、と一呼吸置く、久しぶりに呼吸をしたような、そんな感覚に陥った
冷静になると、いろいろなものが見えてきた。
大気に時折見える、光の粒はいわゆるダイヤモンドダストに似ている。
遠くの空は深い青色に染まり、太陽がまばゆくその周りを見たこともない鳥が優雅に舞う、不思議な色彩の雲が、ここは現世ではないことを確信させる。
また、窓の下には美しい湖が広がり、その表面には青く澄んだ水が揺れ動いている。湖畔には小さな村が建ち並び、そこで暮らす人々が見えた。見たところ、普通の人間のように見える。
ここで一般人として生きていくのはひょっとして素敵なことかもしれないな。
そう思いながら、窓の景色見続けていた。
安全な状態で見るこの世界の景色は、とても美しかった。転生した時にはこのような気持ちにならなかった。不思議と自分の悲観的な状況すら、特別なもののようにも思えた。
しばらく外を見ていると、玄関のドアが開いた音がした。この家の主が帰ってきたみたいだ。足音はこちらの部屋へ向かってくる。お礼を言わないと。そう思い俺は身体を窓辺から部屋の入口の側に向けた。
ぎい、とドアが開く音がする。
そこに立っていたのは、大柄な男だった。赤茶色の短髪で、分厚い筋肉を持っていて、さながらプロレスラーのような男だ。堀の深い顔立ちは北欧の人のような印象を持たせる。
風貌だけで見ると恐ろしく、緊迫した空気をまとっていた。俺を警戒している。
「目が覚めたか。」その男の声は深く、ゆっくりとした喋りだった。
「ありがとうございます。私のような得体のしれない人間を、治療から療養まで…どのように恩を返せばいいことやら…」俺は頭を深く下げた。
「気にするな。そのうち返しもらうことになるさ。」
男の言っている意味がわからなかったが、俺はその言葉を流した。
「名は道太郎といいます。その、理解してもらえるかわからないですが、別の世界から来ました。その時の弊害でけがをしてしまい…本当にありがとう。」
「ドウタロウ、変わった名前だな。俺はグリウ。お前は俺の娘が発見したんだ。治療も俺の娘がした。ひどい状態だったが、問題ないようだな。やはりお前は転生者か。」鼻息をふうと出しながら、納得した。といった雰囲気を出していた。
「この世界では普通のことなのでしょうか。転生者って」
「普通じゃあないが、まあ遠い国にはいるといった認識だな。この世界のことはどれくらい把握している?」
「それが全く。1から10まで知りません。」
グリウは俺を見て、あまりにも頼りない転生者だからなのか緊張を解いて、ふっと笑った。
「わかった。ドウタロウ、今日晩飯を一緒に食べながら、この世界の話をしよう。それまでは休んでいるといい。」そういうと、グリウは立ち上がった。
…心配になるほど親切だが、警戒したところでこの世界の知識がない俺は、生きる術がない。グリウを頼らなかったら俺は死ぬことになるだろう。頼らざるを得ない…
それに、今は人の親切を疑いたくない…
グリウは巨体をゆっくりと動かし出口へ、ドアを開いた際に女性が立っているのを見かけた。同じ赤茶の髪の女性だった。年齢はわからないが、10代だろう。娘さんか…気のせいかな、睨まれているような気がしたが。
ドアが締められ、声が曇って遠くに聞こえる。
「お父さん、どうだった?」
「ああ、悪い奴じゃなさそうだ。」
「そっかあ、ゴミ拾っちゃってごめんね」
…ゴミ?…まさかね…
嫌な思いが巡るが、窓から見える景色を見て考えは打ち消した。
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