第3話 初めての旅路 50m

頭が痛い、体中が痛い。

その痛みによってようやく目が覚めた。

視界には部屋が、見知らぬ誰かが助けてくれたようだ…


なんてことにはなってない。仰向けで倒れていたので、目を開くと満天の星空が俺を迎え入れてくれる。森の中のどこかだ。異世界でも、都合のいい展開なんて起こらないものだな。

恐る恐る自分の体所の状態を確認する。痛みにより上体を起こせないので、顔だけ起こす。

…とりあえず、四肢はつながっている。でも、火傷が酷い。見るに堪えない。このままなら死ぬ。何か、何か方法は。


女神がステータス画面の話をしていたのを思い出す。

ボロボロの手を必死に動かす。激痛だが何とかステータス画面を出せる。自分のレベルとスキルだけがあるシンプルなつくりだ。状態異常などは出ないのね。


当然レベルは1、スキル画面を確認するために選択。

スキルが出てきた。スキル JUDO。本当にJUDOって書いてある。

現状使えるスキルは…これか…


覚悟を決めて、体位をうつ伏せに変える激痛が走る。声にならない声を出す。それでも使わなければならない。

スキル「ほふく」

両腕を前に出して、脇を締める。その力で前に置いた腕を縮めると体が前に出る。まあいわゆる、匍匐前進だ。

一応スキル技なので体が「ほふく」を使うと体が発光している。人間が当たり前の動きをしているだけなのに。泣けてくる。


だが、いいことが一つ見つけた。ダメもとで使ってはみたが、このスキル中は痛みがない。全身の痛みが和らいだ。こいつはいい。

この世界のJUDOスキルは、発動中痛みを感じない、疑似無敵スキルなのだろうか。


ちなみに、むやみやたらに進んでいるわけではない。夜の為、大きな明かりがともっている方角へ進んでいるのだ。おそらく集落単位での光だ。

痛みが和らいで、強い気持ちがよみがえってきた。絶対にたどり着いてやる…


ずりずりと進んでいる中で、ふと疑問が残る。

このスキル、いつまで続くんだろう。スキル発動してからずっと進んでいるけど、発動時間とかそういうのないのだろうか。


ステータス画面をイメージすると本当に出てきた。手をかざす必要が無くていいなこれは。

どれどれ…「い!?」

よく見るとスキルポイントなるものがある。

俺のスキルポイントは最大値が10。それが…もう1になっている。「ほふく」スキル自体の消費は1。しかし継続スキルだからポイントがあるうちは永続的に消費しているのか。

まずい、スキルポイントがなくなった場合、この世界だとどうなるんだ。魔力切れ的な奴なら益々ひどいことに。

スキルをやめようとするが、やめ方がわからない。終わった…


スキルポイントがゼロになる。

もぞもぞと「ほふく」を続けていたが、ピタリととまる。

痛みが反動で一気に押し寄せてくる。

「おあああああああああ!!!」ずり這いして、しばらくしたらピタリと止まって絶叫して気絶する人間なんてただの変態だろう。それが俺

森の中で俺の声は深く深く響いて、魔物のようだったらしい。


なぜらしいかというと。ここで俺の記憶は抜け落ちている。

そして、助けてくれた人間がいるからなのだ。


スキルを使う1時間ほど前から俺を監視していたらしい。

助けてくれたのはありがたいが、もう少し早く俺のこと助けてくれれば尚よかったのだが…

助けてくれた人は、またもや女性。助けを呼んでくれて、彼女の家で療養させてもらっている。はたから見たらずり這いして、しばらくしたら絶叫して気絶する人間なんてただの変態だろう。


ちなみに50mほど進んでから絶叫してたらしい。


これが俺の初めての旅路だ。


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