第6話 国家公認転生者への旅
「非常に言いにくいんですが。」
俺は意を決して自分の状況を話そうと決めた。
「グリシャは勘付いてると思いますが、僕はそんな大層な人間じゃないんです。能力も酷いもんだ。本命の転生者のついでに引っ張られただけのおまけですよ。」自分で言っといて少し惨めな気持ちになる。
グリウの顔を見るのが怖かった。テーブルにあるろうそくを見つめる。
そっと手を肩に置かれる。
「そうだろうな。お前からは何も感じないよ。転生者独特の雰囲気というか圧があるんだが、お前にはない。」
そうはっきり言われると、それはそれで悲しい。
「何もない弱者だからこそ。いいんだ」グリウは初めて悪そうな顔を見せる。
「そして本命がいるなら猶更いい。おそらく、今回の転生者はゼインの地で転生したんだろう。そして爆発に巻き込まれたドウタロウはマシア村まで飛ばされたんだ。ドウタロウが優秀な転生者なら血眼になってゼインはこの村に来て回収しに来ただろう。おそらく、グン国との衝突も覚悟してな。しかし弱者なら、そこまで力は入れないはずだ。来たとしても確認程度の偵察に数名といったところか。もし、ゼインがドウタロウを追わないで諦めれば、グン国にとって初の転生者を獲得したことになる。」
「お父さん。」ここまで話を聞いて、我慢ならずグリシャが声を上げる。
「まさか、こいつのこと。」
「ああ、そうだ。首都グンガイへ赴き、ドウタロウを我が国の正式な転生者として迎える。これは他国に対しての政略的カードになる。」
それは無理があるでしょう!のどかな村からいきなり国家公認転生者として首都に行くとか!いやいいのよ、首都にて生活は良いのよ。ただ政治に一枚かむどころかきr
脳内の俺が分不相応な主人公ムーブをかましてくる現状に追いついていかない。新たな人生が始まるなんて思ってたけど、この流れはまずい気がする。
「グリウ、その案は難しいかと…僕のスキルはあなたの考えをはるかに凌駕するほどの無意味さですよ…それに失礼ですが、辺境の地で衛兵長をされているあなたが、国の政略レベルの案を通すのは可能なのですか?」
「確かに、俺の力じゃ無理だな。ただ、そこに通ずる友がいる。そいつに会いに行くのさ。能力は問題じゃない。転生者ということが重要なんだ。まあ強ければ言うことないが、そうなら今頃ゼインのやつらがお迎えに来てるはずだ。これはチャンスなんだ。」
そうか、俺という個人はどうでもいいんだ。転生者という事実が欲しいだけなのか。俺はもう止めることはできないんだ。しかし…
「しかし、あなたが旅の同行をするのですか?あなたは衛兵長という役職ある方なので現場を離れられないのでは?私は無力に等しい人間です。実力のある方を付けていただけるのですよね。」
「ああ、その通りおれは動けない立場だ。そしてお前の要望には応えられない。実力のある者を連れていけば、ゼインの追手が来た場合、目印に等しい。だからな…」
「俺の娘、グリシャと王都へ戻ってもらう。」
「いや。いやよ。絶対にいや。」必死の形相でグリウを見る。
「グリウ、私も反対です。危険すぎます。あなたの娘さんになにかあったらとうするのですか。」
二人で必死にグリウを説得しようとする。グリシャは父に駆け寄り、肩を揺らしている。
「これは決定事項だ。グリシャお前は王都に帰りたいと言っていたな。その時だ。そして、他の人間にドウタロウのことは一切話さず旅立ってもらう。少しでも情報を漏らしたくないからな。」
有無を言わさない空気だ。やはり軍人か、ピリッと張り付く緊張感は俺には体験したことが無く、従うしかないことを感じた。
「明日、お前のスペックを確認する。そして明後日、お前たちは旅立つ。グリシャも準備をしておけよ。ドウタロウは動けないから、グリシャが旅の道具をそろえてやれ。」
「では、解散。」
グリウはそのまま部屋に戻ってしまった。最初の優しい空気はどこへ。俺は勘違いしていた。無償の親切などない。この世界におれはまだ味方などいないということだ。
静謐な空気が流れる。グリウが動いたため風が起こり、ろうそくがゆらゆらと動く。それをグリシャはじっと見ていた。何か話しかけたほうがいいのか…
「グリシャ…その…」
「いいわ、ドウタロウ。何も言わないで。今日はなにも。明日また話しましょう。」グリシャも立ち上がり自分の部屋へ向かった。
さっきまで生意気でいやな気分にさせられてきたけど、こうなるとかわいそうだ。…まあ俺が一番かわいそうなんだけどね。
明日も気が重い…
そう思いながら、自分も部屋へ戻った。
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