第7話 不出来な息子たち


 

 日本有数の家具メーカー「アキハラホールディングス」社長秋原卓造氏70歳には、2人の子供がいるのだが、2人供まったく役に立たない出来損ないだった。


 自分が極貧の中から一代でここまで事業を拡大するには、それこそ、その道のりたるや惨憺たるもので血のにじむ思いだった。

 

 卓造の父親は、裕福な農家だった事を良い事に、素人同然でありながらスイ-ツ専門店を拡大して行った。だが所詮素人のやる事。大きな負債を抱えてしまった。


 その為金の取り立てで酷い目に遭った卓造一家。

 

 私生活の平穏を害する闇金の督促、それは昼夜を問わずやってきてチャイムを何度も鳴らしたり、ドアをすごい勢いで叩いたり蹴ったりすることがあった。


 耐えかねた父親が対応すると、暴言を吐きながら借金の返済を迫ってきた。


「テメエ💢金出せ!明日中に用意出来なかったら田畑担保に頂くからな!」


「ハッハイ……ナナッ何とか……何とか……シシッシマス!」 

 

 それでも金の工面が出来ないとオヤジを蹴飛ばした。あの時は闇金に殺されるのでは?と思った。だが、これが1日で終わればまだ良いものの、闇金は長期間にわたりこれを繰り返す。それはそれは地獄の日々だった。


 

 1970年代は、日本の高度成長期であり、都市部の土地需要が高まっていたが卓造の家は都市部とは程遠い鹿児島県だった。だが、運の良い事に鹿児島市の県庁所在地付近にも土地を所有していた。そして…1970年代は、都市部の人々が郊外に住むことを好む傾向があった時代。その為、別荘やレジャー施設が次々と建設された。


 こうして…代々引き継いだ秋原家の山林や田畑の多くは消えて行った。だが、それだけでは足らず、父親の残した多額の負債を抱え込む羽目になってしまった卓造。


 借金地獄に陥った卓造は、死に物狂いで現在の地位を築き上げた。

 

 だから……自分が血のにじむ思いでここまで来たので、可愛い息子達にだけはこんな辛い思いは絶対させたくない。そう思い過保護に育て過ぎた。


 普通父親の不甲斐ない姿を見たら子供に厳しくするのが普通だろうに、どうして過保護になってしまったのか?


 それは…忙しくて夫婦共々子供と一緒にいてあげる時間が取れなかった。それを補うために不憫に思い物を買い与えた。結局最終的には、金に困らなければ、なにがあっても大丈夫と思ってしまった。

 

 こうして借金返済のメドが立った時には、既にバカ息子が出来上がってしまっていた。

 


 ★☆


 長男剛は外車を乗り回して夜の高速を彼女と突っ走っていた。


「キャッホ——ッ!夜の高速は最高だぜ!」


”ビュ————――――――――ッ!” ”キキキッ!” ”グシャン” ”ボッカン” ”ボッカン”


「キャ————————————ッ!」

 

 命は取り止めたが一緒に乗っていた女の子は重症を負ってしまった。治療費や慰謝料と膨大なお金が掛かったが、2人は結婚したので何とか一件落着。


 だが、息子たちのバカっぷりはこれだけでは済まなかった。


 可愛い血を分けた息子たち。早速長男剛を副社長にしたにも拘らず、優秀な社員と衝突して我が社きってのエ-ス現場職人が辞めてしまった。


 その事件というのは某国であったあの有名なナッツ姫で有名な、🥜ナッツリタ―ン事件ならぬ、🥜ナッツ投げ付け事件😵💧に端を発している。


 エエエエエエェエエエエエッ!一体どういう事?


 どうも会議で長引いてしまった副社長の剛は、眠気が襲って来たので女子社員にコ―ヒ―を頼んだ。

「副社長コーヒ-お持ちしました」


「ありがとう」

 だが、生ぬるかった。でも、それは…副社長が猫舌だから気を使ってワザとぬるくしたのだ。


「君なんだ。このコ-ヒ-は!ぬる過ぎだろう💢」


「副社長は猫舌とお聞きしていますので……」


「何を!たかが社員の分際で俺に口答えするとは生意気な。上司を呼んで来い。上司を!」


「あっ!すみませんでした。私がうかつでした。コ-ヒ—を入れ替えて来ます」

 

「ああああああ……もういい💢😠💢」

 それに激怒した副社長剛が、つまみのナッツを投げ付けた。


「申し訳ございませんでした」女子社員は泣きながらナッツを拾いその場から去った。


 

 更に…ある日、会社の応接室に重要な海外の取引先の重役がやって来た。


 この会社では海外の取引先との商談は、抹茶と和菓子をセットで出す習わしだった。2010年世界的に抹茶ブ-ムが到来したが、それ以前から日本ではスイ-ツに抹茶が入った和洋菓子は日本中を席巻していた。


 そんな事も有り会社では抹茶と和菓子を出すのが定番になっていた。


 だが、同じ女子社員がまたしても失敗してしまった。その女子社員は英語が堪能で美人だったので、受付社員に抜擢されていた。英語が堪能なので重要なお客様だった事も有り、通訳がてらお茶出し係になった。


 だが、先日副社長に散々罵られてナッツまでぶつけられた恐怖から、失敗は絶対に許されないと思えば思う程緊張して、何という事だ今度は重要なお客様の前で、和菓子の桜餅をひっくり返して床に落としてしまった。


 これに激怒した副社長が今度は完全にキレて、お客さんが居るにも拘らず女子社員を怒鳴りつけ引き返させてしまった。


「嗚呼……君じゃ話にならない。ゴ—!帰りたまえ💢」

 

 手を前に差し出して出て行けのサインを送った副社長に、行き場を無くした女子社員は逃げる様にその場を去った。


 これではナッツではなく「もち」リタ―ン事件だ。

 

 そして…有ろう事か、この女子社員は、あんなミスくらいで、お客様の前で恥をかかされ首になってしまった。まぁ女子社員も可哀想に……酷い話では有るが、別に女子社員が辞職する事はよくある事。そんなに問題にするほどの事でもない。


 だが、この事件はそれだけでは終わらなかった。

 若手社員の現場職人で製品作りのエースだった社員の高橋君の彼女こそ、その女子社員だった。まだ入社して1年目の社員なので失敗が目立つが2度も副社長に追い詰められて首宣告を受け辞めてしまった。


 それに憤慨した現場のエ-スも辞めてしまった。いずれは我が社を背負って立つ期待のエ-スの辞職は会社にとって大きな痛手だった。


 これに怒りを露わにしたのが社長卓造だった。優秀な社員だった事も有り社長はカンカン。


 また次男坊は会社が水に合わないらしく辞めてしまった。揃いに揃って出来の悪い息子たち。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る