第6話 祖父卓造



「チョットいいかい?山梨県河口湖からほど近い場所にある【山梨県南都留郡富士河口湖町○○115】の、寂れた別荘で身代金と引き換えに恵梨香ちゃん引き渡し場所となっっていただろう。あの日…引き渡し場所に恵梨香ちゃんと一緒に現れた同じような年頃の少女だが、実は…あの少女は恵梨香ちゃんの家の家政婦の娘だったんだ。噂話に目がない『油すまし』さんがカ-ニバルの夜に耳打ちしてくれた」


「ドラキュラ伯爵その話本当?」

 早速桜子が情報を電子手帳に打ち込んでいる。 


「どうも…美憂ちゃんのお父さんがノイローゼで行方不明になったらしいんだ。それでも生きて行かなきゃいけないので、お母さんが美憂ちゃんを連れて恵梨香ちゃんの家で、住み込みのお手伝いさんとして働き出したんだ。それがどうも…小学1年生の頃かららしいんだ」


 その時蘭舞留が思い出したように話し出した


「嗚呼……そう言えばその少女の名前は確か……美優ちゃん……そう美優ちゃんだけど、母親でお手伝いの八重子さんと美優ちゃんも、恵梨香ちゃん失踪と同時期に恵梨香ちゃんの家から姿を消しているんだ。それも腑に落ちないのが、なんと身代金引き渡し場所にも、美優ちゃんは喜んで付いて来ていたって言うんだ」


「エエエエエエェエエエエエッ!喜んでついて来たとはどういう事よ?それって事は恵梨香ちゃんと一緒に居られるから嬉しいって事?それか……ひょっとして犯人は、美優ちゃんのよく知っている人なのかしら?」


「『源五郎狐』が言っていたんだ。『一反木綿(いったんもめん)』が、獲物を狙って空を飛んでいた時に、やけにニコニコした女の子と神妙な面持ちの女の子を偶然に見かけたと言っていた。あんな親切で信頼されている『源五郎狐』が出まかせ言うとは考えられない」


「恵梨香ちゃんを誘拐して、カジノで違法行為をさせようとしても絶対にやる訳無いわね。そこで大親友美優ちゃんまでも犯罪に引きずり込んで一緒に生活させているのかも知れない。恵梨香ちゃんも友達に一緒にやろうと後押しさせられれば、カジノに行くに決まっている。だから一緒に誘拐したって事なのだろうか?」


「また好都合な事に、美優ちゃんの父親は行方不明で、親戚もいないらしい。これなら警察に通報される事も無い。まさに一石二鳥。そんな美優ちゃん一家の事情をよく知った者の犯行かも知れない」


「当然警察には絶対に連絡出来ない。そんな事をすれば恵梨香ちゃんの命は保証できない。本当にやりたい放題の犯人。絶対に許せないわ!」


 謎が謎呼ぶ事件。


「いくら恵梨香ちゃんが透視能力がある娘だとしても、恵梨香ちゃんの精神状態は崩壊寸前かも知れない。こんな年端も行かない娘を親から引き離すとは、とんでもない犯人。可哀想に……一刻も早く家に帰りたい筈。オイ皆で一丸となって犯人を突き止めよう」


「ガッテンだいチーフ。任せてチョッ!」 


 そう言うと蘭舞留はひとっ飛びで妖怪たちの住む穴蔵目掛けて飛び立った。



 ★☆


 それでは恵梨香ちゃんが唯一心を許せる美優ちゃんと恵梨香ちゃんの関係は、どのようなものだったのか?


 実は、友達と言っても美優ちゃんは恵梨香ちゃんの下部(しもべ)の様な存在。

 ある日の2人の会話がこの様なものだ。


「美優ジュ-ス持って来て……私飲みたいの」


「恵梨香ちゃんジュ-ス何が良い?」


「いつもの」


「エッ?」


「オレンジジュース💢」


「あっ!ごめん……今持って行くね」

 

 2人は友達だが、こんな子供なのに上下関係がハッキリとしている関係だった。

って事は恵梨香ちゃんにすれば美憂ちゃんは、都合のいい何でも聞いてくれる下部という事?

 

 ★☆


 それでは「シ-クレット・ソサエティjP」の面々が調べ上げた「アキハラホールディングス」社長秋原卓造氏の経歴や家族の内面にスポットを当ててみよう。


 恵梨香ちゃんは、幼少期から大企業社長の孫娘だから何の苦労もなくチヤホヤ育ったお嬢様かと思いきや、実は全然違っていた。


 それは何故かというと、日本有数の家具メーカー「アキハラホールディングス」社長秋原卓造氏70歳には、2人の子供がいるのだが、2人供まったく役に立たない出来損ないだった。


 自分が極貧の中から一代でここまで事業を拡大するには、それこそ、その道のりたるや惨憺たるもので血のにじむ思いだった。

 

 元々鹿児島県で代々米農家だった祖父が、兼業農家としてさつま芋を収穫していたが、全部が全部思うように売れなくて困っていた。卓造の父は丁度その頃「石焼き芋」屋が増え出したのを皮切りに「石焼き芋」屋をやろうと祖父に提案した。


 そこで早速長男の卓造が「石焼き芋」屋を手伝わされたのだが、リヤカーに乗せた鉄板製の箱に小石を入れ、それで芋を焼きながら街中を売り歩くという方法だったが、うっかりトイレに行って根こそぎ「石焼き芋」を盗まれたり、教えて貰った通りにやっているつもりだが、温度調節などが難しくて真っ黒に焦がしたり、半焼きだったりと、よく父親に殴られた。


 だが、1970年の大阪万博を機にファストフードのチェーン店が増加した影響などを受け、「石焼き芋」屋は減少していった。


 それでも残ったさつま芋を腐らせる訳には行かないので、新しい商品でさつま芋を使ったスイ-ツを考案して行った父親は、スイ-トポテトやさつま芋シュウクリ―ムなどを考案して行った。


 だが兼業農家で農家の傍らに、さつま芋が残るので手を広げただけの事業。所詮素人のやる事。大きな負債を抱えてしまった。


 こうして父親の残した多額の負債を抱え込む羽目になってしまった卓造。


 借金地獄に陥った卓造は、死に物狂いで現在の地位を築き上げた。

 だから……自分が血のにじむ思いでここまで来たので、可愛い息子達にだけはこんな辛い思いは絶対させたくない。そう思い過保護に育て過ぎた。


 早速可愛い2人の息子を会社の重役に据えて見たが失敗続き。そこで唯一の孫娘恵梨香ちゃんにだけは、息子2人の二の舞いを踏んで欲しくないので、小さい乳飲み子の頃から徹底的に厳しく育てるよう長男夫婦に口やかましく言った。


 その甲斐あり天才少女に変貌を遂げた恵梨香ちゃん。

 だが、まだ甘えたい盛りなのに、幼少期の3歳位から厳しく教育されたことで、愛情に餓えた偏った娘になってしまった。

 その捌け口が美憂ちゃんだった。


 そして……なんと、外でその憂さ晴らしをするようになった。

 学校で弱い者虐めをしたり、美優ちゃんを奴隷の様にこき使った。


 恵梨香ちゃんはまだ8歳、その重圧に耐えきれず、まんまと甘い汁を吸わせてくれる犯人に付いて行ってしまった。


 こうして事件は起きた。



 ※油すまし:熊本県では、油すましと同様に、妖怪の噂話をするとその妖怪が現れると言われている。全身に蓑を羽織った、すました顔の妖怪。油の入った瓶を持ち、峠に突如出現して通行人を驚かせる。正体は油を盗んだ罪人の亡霊。

 

 ※源五郎狐(げんごろうぎつね):奈良県宇陀郡に伝わる化け狐。二三人分働くために、農民からは重宝され、飛脚(公用の手紙や荷物をリレーしながら目的地まで届ける)をすれば十日以上かかる関東までの距離を、七~八日で往復したという。だが残念な事に、静岡県掛川市の小夜の中山で正体を犬に見破られ、噛まれて死亡したといわれている。また飛脚に化けて人間と仲良く共存していた狐。


 ※一反木綿(いったんもめん)は、鹿児島県肝属郡高山町(現在の肝付町)に伝わる妖怪。約一反(長さ約10.6メートル、幅約30センチメートル)の木綿のようなものが夕暮れ時にヒラヒラと飛んで、人を襲う]。

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