♰147 地下牢で一人。
一方通行の隠し扉を通っちゃったよ、ごめんて!
〔お嬢!? なんて!?〕
〔お嬢様!?〕
〔舞蝶ちゃん!? 無事!?〕
月斗の影は、繋がっている。幸いだ。
「落ち着いて。繋がってるし、私も無事。月斗と優先生は、廊下に出て藤堂と燃太くんと合流を」
〔合流出来ました! 無事です。燃太くんが言うには、急にお嬢様が消えたと〕
〔お嬢、そっち行っていい?〕
「大丈夫だって。月斗も落ち着きなさい」
声が聞けない藤堂と燃太くんも、無事でよかった。
「壁を触っても通れない? サーくんが触ったら、吸い込まれちゃったんだ」
〔壁ですか? 舞蝶お嬢様が消えた廊下は、どこですか?〕
優先生は、燃太くんに尋ねたらしい。
少し待ってみれば〔お嬢様。何もありません。恐らく、サスケが幻覚の術に長けているので『トカゲ』が隠した扉も、見抜いて入り込んだのではないでしょうか? お嬢様は抱えていたので巻き込まれて〕と優先生が言う。
「侵入者を想定して作ったと考えるべきでしょうか?」
〔いや待って。『トカゲ』の中でも許された者だけが見えるのかもしれない。戻れないんだよね? 舞蝶ちゃん〕と、徹くん。
「はい。壁を叩くから月斗、聞こえるか確認してくれる?」
〔はい〕
返事を聞いて、拳で固い壁を叩いた。
〔廊下の先から、僅かに聞こえました! 迎えに行きます!〕
「落ち着いてって。別の入り口も何かしらの術式があるはず。優先生でも無理なら、私が出入口に行かないと意味がないと思うよ」
〔なら、俺がそっち行きます!〕
「だーめだって! 優先生のそばにいて。私は自力で戻りますので、燃太くんと藤堂はその壁を守ってて」
〔お嬢様!〕
〔お嬢を迎えに行ってもいいでしょ!? ねぇ!?〕
責める声を上げられる。
「ここには違和感も危険もないよ。……うん」
めちゃくちゃ異臭があるけれど、危険はないよ★
〔間があった! 今、間があったよね!? 舞蝶ちゃん!?〕
〔お嬢様! そこには何があるんですか!?〕
〔お嬢!?〕
騒がしいなぁー。
「異臭があるだけの地下牢だよ★」
〔そんなはっちゃけるように言うこと!?〕
〔絶対に危険そうじゃないですか!〕
〔お嬢!!〕
「月斗、しっ!」
うるさいよ! 平気だって!
「他に出入口があるとしたら、まだ探ってない廊下の先だから、そこに警戒していて。私がいないと『トカゲ』に気付けないしね。そこで構えていて。月斗もいつでも来れるように準備はしていてね」
〔何かあればすぐに呼んでくださいね!!〕
はいはい。正直『トカゲ』の改造人間が出てきたら、優先生と藤堂と燃太くんだけでは無傷では済まないと思う。
月斗の影の特殊能力と、優先生の氷平さんで、なんとか無傷で倒せるはず。複数となると……私を置いて逃げてほしいなぁ~。
早く合流しよう。
サーくんを抱えて、慎重に足を進めた。異臭の正体は。
「ああーね。異臭の匂いは犬、みたい。この地下牢では動物を使って実験したみたいだね。もちろん、生きているモノはいないよ」
鉄格子の向こうに、鎖で繋がれた死体がある。犬だったものだ。
〔ええー。怖くないんですか? 舞蝶お嬢ー。俺すぐ行きますよ?〕
「月斗。心臓が取り出されたり、肉が弾けた改造人間より、怖いわけないでしょ?」
〔地下牢なら、余計怖くないですか!?〕
めっちゃ来たがる月斗。落ち着け、ステイステイ。
「サーくんもいるしね」
言えば、サーくんは、気合いを入れて両腕を振り回した。
「こっちは……なんだろう? キメラっぽいよ。優先生」
〔え? 詳しくお願いします〕
〔いやそれより早く合流しようよ、舞蝶ちゃん〕
「はーい。でも徹くん。三メートル越えの巨体の動物ってなんだろう? ――と、あれ?」
〔〔〔?〕〕〕
いろんな動物が混ざっている死体と、巨大な死体を、実況しながら歩みを進めていると、目が合って驚いた。
緑色の瞳。生気がそこにはちゃんとあった。
猫背で両腕を座った足の間の床の上に、固定された拘束具で繋がれていた男が、いる。
「生きてるのがいたよ」と、こてんと首を傾げて見れば、ポカンとした顔色の悪い顔の男も、こちらを見る。
なんとも人間味のある表情だ。
「こんにちは。あなた、だぁれ?」と笑いかけた。
薄い灰色の長髪と、暗い灰色の肌。
拘束された謎の男の黒い瞳は、揺れた。
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