♰141 術式道具の弾丸。
公安はスパイか不法侵入者がいないかどうかの洗い出しで大忙しだったけれど、定期的に徹くんから連絡はあったので、武器作りの材料も頼んでおいた。お忙しいところ恐縮ですが。
そうして一月が終わって二月の頭。やっと家に尋ねてこれた徹くんは、ドサッとソファーに腰を沈めた。
「やっと舞蝶ちゃんに会えたぁー。見てるだけで、癒される~!」
「肩揉みする!」
「グハッ! かわゆい! ぜひお願いしますっ!」
メロメロな徹くんの後ろに回って、肩をもみもみ。
「お疲れ様です、徹くん刑事」
「いや、”徹くん刑事”って呼ぶの可愛すぎる……ありがとぉ~」
「結局、スパイはいなかったんですって? 不法侵入となれば、そちらもセキュリティの見直しと対策と、またもや大忙しでしょう?」と優先生。
「そうなんだよ~。まぁ、そこは警視総監が任せろって直々に一任してくれたから、やっとここに来れたわけなんだけどね」と疲れた声を出す徹くん。
「ところで、舞蝶ちゃん」
グリンと振り返ってきた徹くん。目が血走ってるよ、お疲れ? 休んでよ。
「この前頼んだものって、間違いじゃなければ、弾丸の製造に必要な道具だよね? 術式の弾丸作ってる??? ねぇ???」
目が怖いよ、徹くん。
「うん。その話をしたかったけれど、徹くんはお疲れだから」
「聞かせて!? 一月の疲れなんて吹っ飛びそうだから!!」
ひょいっと、後ろにいた私の脇に手を入れて、持ち上げると、自分の膝に私を乗せた。
「話すより、実物を見た方がいいと思うんだ。発砲したヤツ」
銃のジェスチャーを見せて言うと、キランと目を輝かせた徹くん。
「じゃあ射撃場に行こうか!? VIPなとこ連れて行くよ!?」
「本当にいいの? 徹くん。ゆっくりした方がいいんじゃ」
「ノープロブレム!! 行こう! 今すぐ行こう! 予約客蹴散らすから電話してから」
徹くんって、予約を捻じ込む癖あるよね。
「燃太くんも一緒でいい?」
「え? 若頭くんの弟も?」
スマホを出して、ポカンと固まる徹くん。
「別にいいけど? 仲いいね」
「うん。というか、燃太くんに作ってあげたの。特殊能力を付与する弾丸」
「マジで!? あ、もしもし。風間だけど、これから行くから空けといてー」と、電話に軽い調子で予約を捻じ込む徹くんだった。
そういうことで、作成した弾丸のお披露目として、燃太くんを拾って訓練場へ。
貸し切りの訓練場の通常の射的スペース。燃太くんに、撃ってもらった。的に着弾するなり、爆破して燃やし尽くす。
「へぇ! これが燃太くんの特殊能力を込めて引き金を引くと、着弾で爆発する火の弾丸か!」
燃え落ちる的を見たあと、手にした透明の弾丸を摘まんで翳して見上げる徹くんは、感動しつつも感心した。
「はい。舞蝶が、俺の能力が活かせるように調節してくれました」
「人間の特殊能力は、術式の気力そのものみたいなところあるから、気力を込めることに集中すれば、可能だったよ。あとは、燃太くんの加減で、威力は調節出来るようにしておいた。元々、燃太くんは火力は強いから、弱火をマスター出来るように訓練頑張っているんだって」
込める気力次第で、威力は変わるタイプに仕上げた。基準を決めたから、それを常に出来るように訓練することもさせておいた。
「すごいね! 燃太くんのための弾丸って! 羨ましいぃー!」
「うん。これは燃太くんのものだけど……他にもあるよ?」
「へ……? 他にも? あるの?」
ポカンを口を開ける徹くん。
にぃー、と月斗と藤堂は銃を取り出して見せた。
パチパチと瞬く徹くんの横で、優先生は新たな的を出すスイッチを押した。
「これは氷の弾丸です。見覚えあるでしょ?」
パンッと撃った的はパキンと凍り付いた。
「ッ!」
見覚えがあるも何も、徹くんのオリジナル術式。その弾丸バージョンだもの。
続いて、もう一発撃てば、射貫かれて、氷は砕けた。
優先生がスイッチを押したので、次は、藤堂の番。
パンッと撃てば、雷が射貫いて焦がし、パンッと撃てば、火が燃やし尽くした。
全部、徹くんの術式である。
「勝手に、ごめんね? 藤堂も撃てた通り、気力を使わなくとも使える術式道具の弾丸だから、10発ずつをあげる」
「……は、ハッピーバースデー???」
「え? 誕生日なの???」
わなわなと震える徹くんが涙目。
「頑張った……頑張ったご褒美が舞蝶ちゃんの神がかった術式道具の弾丸とか……。いや待って? 10発ずつって多すぎない? 40発分? それ以上に作ったんだよね?」
「試行錯誤で合計200発分、作ったかな」
「多いな!?」
まぁ、口にすれば、多いよね。100発は、燃太くんのだしね。
「ほとんど俺が弾丸にしました」と、藤堂がケロッと言う。
「いや気力の話! 舞蝶ちゃん! 気力回復薬あるからって無茶な!」
「そんなことないよ? 確かに気力回復薬あるから大丈夫だろ、ってノリだったけれど、術式が必要な核自体は私もそんな気力を消費せずに込められたの。全然平気。むしろ、藤堂にほぼ量産してもらってるの、悪いなーって感じ」
「マジで!? あの威力で、ローカロリーなの!?」
鼻を高くする藤堂のことは、全く視界に入れないで、ツッコミをする徹くん。
「舞蝶ちゃんの気力量、どうなってるの……? 『最強の式神』のトグロのあとに、氷平さんも出すし……」
「まぁ、氷平さん曰く、そうそう使い切れるような量ではないみたいですね。流石にトグロはごっそり持っていかれましたが、相性が悪くなければ、気力は浪費されないみたいでして」
「舞蝶お嬢様自身が作り上げた術式が、相性悪いはずもありませんからね。消費量は少なく済むのですよ」
底なしと言える気力量の上、消費する気力も少ないときた。
「藤堂が暇してるから、じゃんじゃん作るって言うんだよね。藤堂が夜遊びしないんだけど、どうしよう。あの人、不能になっちゃったのかな?」
「聞こえてますけどー!? お嬢ー!? なんつーこと気にしてんですか!!」
声量はそのままで、形だけは内緒話の姿勢をしたら、盛大なツッコミがきた。
「夜遊びしてないって……前は激しかったの?」と、非難がましいジト目を向ける徹くん。
「別にバレてませんが!?」
「バレてるから言われちゃってるんだろ」
「ぐあああっ!!」
的確に切り返されて、頭を抱える藤堂。
「なんでそればっかりいじるんですか!? お嬢ぉ!」
「だって、本当に付きっきりだから」
「好きでいるのに!? そんなにどっか行ってほしいんですか!? 酷い! 冷たい!」
「うーん、だって心配だもん」
「!! お嬢……!」
嘆いていた藤堂が、パァッと明るい目を取り戻した。が。
「欲求不満とかでウザくなったら嫌だから」
「辛辣ぅううっ!!! お嬢が結局冷たい!!」
うるさ。
「すでにウザいですね」
辛辣で冷たいのは、優先生のことを言うと思うよ。
「いいから、ちょっと遊びに行って来ればいいじゃん。俺が護衛替わるからさ」
「は? 普通に俺を体よく追い払うだけじゃないですか。仲間外れ反対!!」
「ねぇ、マジで藤堂は自分のことを見直した方がいいよ?」
真面目に言っている徹くんにワンワン噛み付く藤堂。それで自覚してないんだから、タチ悪いよね。
燃太くんが残念な大人を眺めている姿を見付けて「そうだ、徹くん。落ち着いたら、またグール討伐の仕事が回ってくると思うけれどさ。燃太くんも加えてもいい?」と尋ねると「え! 燃太くんを?」ギョッと驚く徹くん。
「うん。だめかな? 保護者から許可がもらえたら、一緒に仕事したいんだけど。まぁ、厳密に言えば、実戦経験を積みたいというか」
「……だめでしょうか?」
「えー? んー。それって実戦で、燃太くんの弾丸を試したいってこと? それなら、お兄さんと行動した方がいいんじゃないかな? いやそれだと危険かな? んー、でも、『紅明組』のシマだってグールが出るし」
首を捻る徹くん。それもそうだけれど。
「試したいのもそうだけど。燃太くんは私につきたいって言うから、一応一緒に戦えるかを試したいの」
「…………マジでか? え? マジでか!?」
目を点にして、燃太くんと私を見比べると、優先生達の顔を見て確認する。そして、驚きで震え上がった徹くんだった。
「ええー……それって、お兄さんには言ったの?」と恐る恐る。
「? 言ってない。正式には決まってないし」
「いやいや、マズいでしょ。お兄さんに言わないと。本人の意思を無視はしないだろうけれど、燃太くんの能力を放っておくほど、あの若頭くんはバカじゃないでしょ。悪いことは言わないから、キッチリお兄さんの許可も、もらってきなさい」
そう徹くんは諭すけれど、燃太くんは解せないと困り顔だ。
「どうしてみんな、当然のように兄さんの部下になるって思ってるの……?」
理解出来ないの一言らしい。
「まぁ、話した方がいいよ。家族ってだけで、言わなくてもわかるだろって思っちゃうところあるからさ。話していないなら、確認した方がいいよ。もしかしたら、当然のようにお兄さんが自分について来てくれるって思ってるかもしれないでしょ?」と苦笑しつつも、そうやって説得した徹くん。
「燃太くんがそうやって決めても、お兄さんが認めてくれるって思ってるのも、当然だと思ってるでしょ? 私の父親も放っておいたくせに、コロッと元通りになると思って父親の座にあぐらかいて挨拶一つろくにしない返せないような奴だよ。とんでもない悪い見本があるから、言葉にして伝えるって大事だよ」と、笑顔で言い退けてやる。
「辛辣ぅう……」と藤堂が鳴く。鳴き声か。
私の説得には燃太くんも、腑に落ちたみたいに「わかった。言ってみる」とすんなりと頷くものだから、大人組はツボに入ってお腹を押さえて笑うことを堪えた。
これも保留して、せっかくなので持ってきた弾丸を使い切っては、動く的相手に誰が先に撃てるかの勝負もして、楽しい休日を射撃場で過ごした。
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