♰139 弟の方にもカミングアウト。
月曜日になって、登校。校舎に入るなり、聖也さんの弟の燃太くんと、バッタリ。
「おはよう、舞蝶」
「おはよう、燃太くん。休みの間、お兄さんに会った?」
すぐに私から切り出す。
「うん。何かあったの? いい友だちを持ったなって、頭グリグリ撫でられたけど……舞蝶のこと? 何かあった?」と、聞いていないが、あのあと会った燃太くんは首を傾げた。
「聞いてないんだね。友だちなのにお兄さんだけ知っているのは、気が引けるから、燃太くんにも秘密を打ち明けたいんだけど、誰にも言わないって約束出来る?」
靴を履き替えながら、そう言うと、履き終えた燃太くんは不思議そうにしつつも「舞蝶の秘密なら守り通すよ」と、キッパリ言い切った。
一応周囲に目をやって違和感も何もないことを確認したあと、顔を寄せて口元を隠して内緒話。
身を屈めて耳を差し出す燃太くんに「私が『カゲルナ』って話」と簡潔にカミングアウト。
目を真ん丸に見開いた燃太くんは驚いた顔で向き直る。
「驚いた?」
「……ビックリするくらい、物凄く納得した!!」
…………納得しちゃうんだ?
納得されたことに、なんとなく納得いかないわぁ~。
「舞蝶の才能なら、出来るよな、って思えるよ」
「みんな、すごく買いかぶるよね……」
私のハードル、高くない?
「詳しい話を聞きたいなら、私の家に招くけれど、どうかな? 今日はカスタードプリンがもれなく出てくるよ」
「カスタードプリンに釣られたわけじゃないけど、ぜひ行く。食べるけれど、舞蝶の話聞きに行くよ」
「カスタードプリンもすんごく美味しいよ?」
これまた橘の手作りで、私の好物になったものだ。藤堂に食べられないように死守するって息巻いていた。
そういうことで、放課後は家へと一緒に帰る。
『生きた式神』希龍のキーちゃんをご紹介。聖也さん同じく、もう見せてもいいということで、頬擦り攻撃をしに突撃キーちゃん。そんなに紅葉家の気力がいいのかな。ずりずり言ってる。
戸惑っていたのも最初だけで、もう頭の上に顎を乗せられても、燃太くんはカスタードプリンに舌鼓をしている。適応力高い。カスタードプリン、うまうま。次は、シュークリームも作ってくれるって。やったね。
「舞蝶は、すごいね……」
温かい紅茶に、息をほうとかけて、呟く燃太くん。
色々込めた言い方に小首を傾げる。何か、悩み込んでいるような様子。
「じゃあ、月斗さんの能力は?」
「月斗は……」
「ん!?」
一同に、月斗の視線が集まる。聖也さんは何も言わなかったけれど、燃太くんは月斗が何かしらの特殊能力持ちだと知っているから、当然湧いてくる疑問だ。注目を浴びてギョッとした月斗は困った笑みで首を傾げて「お嬢が話したければどうぞ」と他人任せ。
「月斗ってば。私の許可があれば、誰にでも話してもいいと思ってるの?」
「ええー。そんなんじゃないですよ。舞蝶お嬢なら、考えた上で明かすと思って」
「自分でも考えなきゃだめよ」
「は、はい」
月斗は隠れている身なんだから。能力は正体を明かしてしまう証拠のようなものだ。
「ごめんね、燃太くん。月斗の能力は彼の事情で明かせないの。これは秘密ってことで」
「……わかった」
コクリと頷いたけれど、浮かない顔の燃太くん。物分かりのいい子だと思っていたのに、どうしたんだろうか。
「なんだか浮かない顔しているけれど、悩み事?」と直球で尋ねてみたら、びくりと身体を揺らして気まずげに視線を外した。
「う、うん、まぁ……そんなとこ」と口ごもらせるから、触れない方がいいみたい。
「そう。何か力になれるなら教えてね」
「……うん。ありがとう」
「どういたしまして。それでね、燃太くん。この前の襲撃の時に、徹くんの術式を習得したんだけど、それを利用して燃太くん専用の武器を作ってみない?」
話を変えて、そう持ち掛けてみる。
「武器?」とブラウン寄りの赤い目を丸くする燃太くん。
「そ。月斗の薬の完成が全然進まなくて行き詰っているから、他のことしたくて」
血を摂取しなければ力が抜けてしまう吸血鬼の月斗のために、新しくエネルギー摂取が出来る薬を開発しているところだけれど、成果は理想に程遠いまま行き詰っているので、気分転換に、と持ち出す。
すると、食卓テーブルの上で作業していた優先生が、素早くこちらのテレビ前の短いテーブルの上にノートパソコンを置いてはソファーに腰かけた。
「どうぞ続けてください」
ワクワクしたキリっとした目付きで聞く気満々な優先生。
「徹くんって、天才術式使いの一人に数えられているって知ってた?」
「あー、うん。話には聞いた」
「私も話に聞いただけで、戦うところはこの前初めて見たんだけどね。術式をこうやって宙に設置して、自分のタイミングで発動するタイプだったんだ。それも狙撃型。それをコピーさせてもらってね、私はこうやって術式で作る銃の中にある気力の塊の弾丸に合わせて、使ったんだ」
掌の上に、小さなオートマ拳銃を作り出して見せる。
「おお」と口を丸くする燃太くん。
「僕、術式使いじゃないけど」
なんて、術式の戦いは無理というけれど、話はまだこれからである。
「燃太くんには能力があるでしょ? それも気力を使うものだ。理想的には、燃太くんの気力を込めたことで、着弾したら火力全開の爆発を引き起こす弾丸とかかな。でもそうすると、弾を地道に作るべきだろうけれど、燃太くんとしてはどうかな?」
目をキラキラしている辺り、大いに気に入った案らしい。
燃太くんが口を開くより前に、彼の隣にストンと藤堂が腰を下ろした。
なんだ? と思っていれば「銃関連のことならお任せを! 弾丸の作り方も詳しいですよ!?」と、これまたワクワクして混ざってきた大人が一名。
ふと、私の右隣からの視線が気になって見てみれば、眉を下げてしょげた顔の月斗がいた。
何。お前は何。
「お嬢……俺も能力持ちです」
いや知ってるが? さっき能力を明かさないって話をしたばかりだけど???
「俺より先に、燃太くんなんですか……?」と、グスンと鼻を啜る。拗ねてるの……? そういえば、前にも燃太くんに妬いてたね。
「しょうがないでしょ? 月斗は、武器と合わせなくても最強だし、逆に言えば合わせにくいもの」
「……ううっ! 俺の能力のバカ!」
なんで、そうなる??? 最強の能力に向かってバカって。まぁ、ない方がいいかもしれない能力だけどね、月斗にとったら。
「あと、月斗の気力より、燃太くんの気力の方が術式に使えるはずだから、月斗の気力で武器強化は難しいかな」
「もっとお嬢の才能活かせる能力を持って生まれたかった!!」
「そこまで言う???」
私で左右されすぎか。藤堂なんて「なんて贅沢な奴っ!」と悪態ついてるよ。
「でも、月斗の能力ならね」と私は、顔を寄せた。月斗は不思議がって耳を寄せるので、口元を隠して耳打ちした。
「燃太くんの武器を基に色々作って、影に入れておけばいいよ。状況に応じて、最適な武器をポンポン出すの。いっぱい作るから、月斗が持ってて。それで我慢してくれる?」
と、悪戯っ子みたいに笑いかける。
「は、はいっ!」と目をキラキラと輝かせて、頬を赤らめて頷く月斗は、機嫌が直ったらしい。
そして盛大に、ゴックンと鳴らした。燃太くんの前で、鳴らしてしまった。人への執着を示す症状。燃太くんも知っているから、目を真ん丸に見開いてポカン。優先生と藤堂は、片手で顔を覆って天を仰いだ。
「月斗さんは、舞蝶に執着してるの?」
燃太くんの直球な問いに、月斗は両手で顔を覆って撃沈した。
「うん。そうだね」
それが何か? な姿勢で、平然と返答。
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