♰134 不死の怪物の襲撃、再び!
まるで慌てて組み立てたように不格好なヘンテコな建物の中。
最初にいた部屋を出るなり、刀を抜いた聖也の若頭と黒マスクをずらした渦巻さんとバッタリと合流。
「よかった、無事……おい……舞蝶のお嬢様、酷い出血だ」
パッと明るい顔をした聖也の若頭だけど、肩にかけられた藤堂のコートから、はみ出る私の白いコートが真っ赤に染まっているのを見て、大きく目を見開く。
「応急処置はしました。それより、これ『トカゲ』の仕業のようですが、何か情報は?」と、藤堂は、はぐらかした。
「……そうらしいな。しつこい追跡者には、反撃してくるが……でもなんで今? 舞蝶のお嬢様を、巻き込みやがった?」
聖也の若頭としては心当たりがあるけれど、私が巻き込まれたことがわからないらしい。
私は巻き込まれたのは間違っていないけれど、多分……聖也の若頭はついでで本命は――。
「……私も追跡者だと思ったのでは? 前回では居合わせているし、交流もあるから。外の残りの人達も心配だけど、徹くんも大丈夫かな」
――徹くんの気がする。
妙にざわざわするけれど、血を流しすぎたのか、頭が回らない。
アドレナリンが出て、頭はスッキリしているはずなのに。
何か引っかかっているのにわからない。
「その前に、自分達の心配だな。脱出する前に、合流したかったんだ。つっても、脱出の目処が立たないから、中を探索してるんだがな」と、苦笑を零す聖也の若頭。
「結界の端で、一斉攻撃して、こじ開ける」と、渦巻さんは案を出す。
結界の壁に向かって一斉攻撃をして、こじ開けることを試みようってことらしい。
「外でも、ジェーン達、壊すはず」
内側と外側で破壊を試みる、か。
今はそれしかないみたいだ。
「じゃあ早いところ、端っこに行きましょうか。お嬢に、ちゃんとした手当てをさせたいんで」と藤堂は急かす。
「俺達が来たところは、行き止まりだったが結界の端じゃなかった。多分そっちだ」と、向かい側の廊下を、顎で差し示す聖也の若頭。
聖也の若頭が先頭を歩いてくれて、渦巻さんは後ろ。
私を守るように、間に入れてくれた。
「一応聞くけど、舞蝶のお嬢様。術式は見えました?」
「いいえ……」
「そうか……。つらそうだな? 大丈夫か?」
「ええ……」
「「「……」」」
私の覇気のない声は、全然大丈夫には聞こえなかったらしい。
聖也の若頭が足を一度止めたが、藤堂はすでに傷が塞がっていることを知られないためにも「急ぎましょう。ウチのお嬢のために、頼みます」と、急かした。
本心だろうけれど。
「徹くん……大丈夫かな」
独り言を呟いたつもりだが。
「風間警部? 電話では無事でしたよね?」
「スマホを拝借して俺を誘き出したが……本来なら、公安のあの人も標的にされてもおかしくない。おかしいな。舞蝶のお嬢様と会って、ダブルブッキングだって、気付いたせいか? 本来は俺と風間警部が狙いだったが、止む終えず、か?」
藤堂と聖也の若頭が、考えながら進んだ。
鉄の棒があっちこっちに生えた廊下の途中、大きな入り口が見えてきた。
「大抵、こういう類の領域結界に引きずり込んだ場合は、中に『式神』が待ち構えているんだが……今回は忘年会の改造人間だったりしないか?」
「……『最強の式神』二体相手でも手こずるのにぃ?」
げんなり顔の顎髭を見上げる。
『最強の式神』の氷平さんを『完全召喚』が出来るなら、まだしも……改造人間とは会いたくないな。
目を合わせて、思った。
刀を構えて入り口から覗く聖也の若頭は反対側に移って、渦巻さんもその位置に行って、覗き込んだ。
「視えないが……『トカゲ』の十八番(おはこ)だ」と術式は視えないが、元々『トカゲ』は隠れ上手。
何もないとは、断言出来ない。
私の方がよく視えるはずだけど、万全じゃないから、確認させることなく、中へと足を踏み入れた。
果てしなく広い空間。
出口はないみたいだけど探しているのは結界の壁だから、ここかどうかを渦巻さんが調べるべく、壁に向かうのをついて行った。
すると、真ん中でパキンと紫色が弾ける。途端に、薄い膜が通過した。視界は薄暗い紫色。
「『負の領域結界』!? 二重トラップだと!?」
三人は、庇い合うように背を預ける態勢になった。
『負の領域結界』は、怪物が出る『領域結界』だ。
すでに異空間の領域に閉じ込めているくせに、その中で領域内に閉じ込めて怪物と戦わせるとは。
何を考えてる? と思ったが。
出てきた怪物を見て、絶句した。
「おいおいふざけんなッ!!」
藤堂が一撃、撃ち込むが、穴が開いた部分は治り、ニタリ顔の人型の怪物が揺れる。
「不死の怪物! 去年の秋の会合襲撃の首謀者が作った『負の領域結界』!」
「なんだと!? なんで……あぁっ! そういえば、何個か未使用なのを回収したって! 風間警部のスマホを取れたんだから、盗み出せるよな!? チクショウ! この怪物どもは自己再生しまくるんだったか!? エネルギー尽きるまで!」
そう。込められたエネルギーで自己再生を繰り返すから不死の怪物。
「ひたすら撃つには弾がッ」
以前の戦いで弾の数が足りないと言う藤堂だが。
「大丈夫だ、俺達が燃やす!」
「破壊する」
妖刀使いの火の能力者と、声の天才術式使いがついている。
わんさか人型が出てくるので、囲まれた。
「一旦、壁行って背中を守るぞ」と聖也の若頭の一振りで、火の道が出来上がる。
鎮火の声の術式で渦巻さんが消してくれたので、そこを通って突き出たコンクリートブロックの上に藤堂は下ろしてくれた。
私と壁を背にしたところで、三人は猛攻撃を始める。
先ずは、この『負の領域結界』から脱出しないといけない。
渦巻さんは声の術式で、破壊。爆破。
聖也の若頭は、炎の斬撃を放って燃え上がらせる。
「チッ! 灰にしても再生しやがる!」
それでも再生する不死の怪物。
「地道に削らないといけないんでしょうねッ!」と、的確に撃ちまくる藤堂の言う通り。込められたエネルギーの底が尽かないと、終わらない。
不死の怪物が湧く『負の領域結界』。
去年の秋に、奇襲を予想して、迎え撃った術式使い達の組織が生み出した術式だ。
キーちゃんがいれば、打ち消せただろうけれど……。
去年の秋の襲撃日は、キーちゃんの能力を活かして、鎮圧した。
その直後に、『トカゲ』も油断を突いて、襲撃してきたのだ。
思い返せば、
視えない『トカゲ』の怪物は、徹くんに迫っていた。
公安の宿敵。立場が高い徹くんが狙われたのは、不思議じゃない。
でもあの日から、襲撃先には徹くんがいる。術式のグールの群れ。
追跡していたのは徹くんで、たまたま私達が手足となって始末に向かって、聖也の若頭達とかち合った。
そして去年の年末、忘年会でも襲撃。そこにも、徹くんはいた。
公安のトップとトップツーもいたが……。
今日は徹くんのスマホを使って、元から予定のある私との約束に合わせて、しつこい追跡者の聖也の若頭を呼び出した。
本来なら、ここに閉じ込められたのは、徹くん……。
やっぱり、徹くんを執拗に狙っていない?
真の標的は、徹くんなら、外では他の手が使われているのでは?
弾切れの藤堂に銃を創造して、渡す。弾切れする度に消えるから、追加で銃を渡した。
聖也の若頭の強力火力で、いくら焼き払っても、湧いて出る形を取り戻して迫る怪物。エネルギーを消費することが出来ない。
「こんなのをアンタら、前回生き延びたのか!? キリねーよ!」
「あん時は『最強の式神』様がいてくれたんでね! 人数も弾もまだたくさんありましたし!」
聖也と藤堂の会話を聞いて、私は閃いた。『最強の式神』だ。
「あー! もう無理! 傷は痛いし、血が足りなくて気持ち悪いし! 限界!」
と声を上げると、藤堂達がこっちを振り返る。
「先ずはこの負の領域結界の破壊! もしかしたら、現実に戻るかも! こっちに後退してください!」
三人に指示をする。
「――――『最強の式神』に暴れてもらうんで!」
「「!?」」
「えっ!? さっき『式神』の異空間も遮断されてるって……」
そう、さっきから呼びかけても、繋がらないし、『召喚』出来そうにもない。
だけれど、別の『式神』は『召喚』出来そうだと直感がある。
「トグロは出せそう」
「え!? あのムカデ!? デカい方!?」
と驚愕する藤堂。
「許可はもらってるから、蹴散らそう」
『最強の式神』のトグロの『召喚』許可はもらっている。
自我のない無機物な『式神』故か、『召喚』が可能だった。
黒い闇から巨大な白いムカデが、カタカタと足を動かしながら這い出る。
『最強の式神』入りした新星、トグロ。
「『最強の式神』って、銅田さんとこの!? それを『完全召喚』!?」
声を上げる聖也の若頭の前で、戦車の如く突き進み、怪物を狩る巨大ムカデ。
怪物もトグロに向かっていくけれど、切り裂いて、轢き潰していく。
「あー、気が散る。うわっ、操作がむっず! 何コレ、国彦さん、こだわりすぎ。こりゃ弟子も音を上げるって」
「お嬢! 無理をしないでください!」
弱音を吐くけれど、藤堂に手を突き付けて大丈夫と示す。
集中をしながら、私は薬を飲む。
『治癒の術式・軽』の酷使のあとの気力回復も済んだ。
不死の怪物を刈り尽くす。
ミニトグロとは、違いすぎる。
トグロは、精密すぎだ。本当に道具って感じで、操作が必要。まるで音ゲーだ。
必要なボタンをリズミカルに連打するような操作をしないと。
でもこれはこれで、爽快だ。
湧き出てる怪物を、踏み潰しては引き裂いていくのだから。
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