♰132 冬休みと年越しの月見。
それからグール討伐を二回引き受けて、燃太くんの体調確認に一回家へ訪問診察して、昼食をいただいた。
初詣は一緒に行こうと桐島さんに誘われたので、みんなもいいと言うので約束した。
そうして、大晦日を迎える。
引っ越して二ヶ月も経っていないけれど、お世話になった新しい家だから大掃除をやると息巻いたけれど、豪邸内の生活範囲は、橘がほぼ毎日掃除してくれていたから、あまり大掃除とはならない。
普段からちゃんと掃除していれば、大掃除を苦労することもないのだ。
「お嬢も、なかなか体力つきましたね」
なんて藤堂が言うから。
「……優先生。私今、嫌味を言われてるかな?」
「さぁ? なにぶん吐く言葉は大抵無自覚ですから、判別が難しいです」
優先生に確認してみれば、しれっと藤堂を見て言ってやる。
「おいコラ」と、藤堂は笑顔でお怒り。
「なんでそうつれないんですか? お嬢ってば」
「藤堂。日頃の言動を振り返って、分析した方がいいよ? その疑問の解明になるよ、きっと」
「めちゃくちゃバカにしてる? されてる、絶対」
と、確信した藤堂。
いや、単なる事実を、言っているまでなんだけど。
「秋から怒涛に色々あったけど、大晦日は平穏だねぇ」と、そのまま夜を迎えたので、しみじみ呟く。
「記憶喪失でスタートしたお嬢からしても、短時間で色々ありすぎですよねぇ」と、月斗もほのぼのと言う。
「んーと。記憶喪失で高熱から起きたでしょ? お嬢様なのに冷遇されてるって気付いてどうしよって頭抱えたなぁ」と、指折り数える。
リビングで一緒に寛いでいたみんなが、手を止めた。
「雲雀家に帰って早々、病院帰りたいって思ってたんだけど、月斗がいてくれたから」
ニコッと笑いかける。
「そういえば、デートしてないね? 四回目のデート、年明けに行く?」
「ンンッ!!」
咳払いして堪えたけれど、真っ赤な月斗は、ゴクリと喉を鳴らした。
「だめですが???」と、笑顔で却下した藤堂。
「護衛だから? 藤堂もセフレの誰かとデートしに行きなよ」
「なッ! お嬢! なんで俺にセフレがいるって思うんです!? 行きませんし、必要もないですよ!」
優先生に、鋭い眼差しを突き刺されながら、藤堂はオロオロとした態度で否定した。
「藤堂、夜遊びしてる? 欲求不満は」
「ゴホンゴホンッ!!! そんな心配しないでくださいぃいいッ!!!」
心配してあげたのに、大袈裟に咳き込んで、止めてくる藤堂。
「じゃあ、月斗とデートしていい?」
「お嬢様の安全を確保出来るデート内容なら」
なんか圧のある笑顔の優先生。いいと言うなら、いいっか。
「だってさ。月斗、デートの計画を立てよう」
「ンンッ……好きぃ」
「知ってるー」
突っ伏する月斗はすぐさま切り替えて、タブレットでデート計画を立てた。
「舞蝶お嬢様……前も言いましたが、あまり、そういうことを言うのはおやめください」
眼鏡をクイッと上げて、呆れ混じりに言う優先生。
「何が?」
「月斗の恋心を刺激することですよ」
と直球。
「ん? 喉をゴックン鳴らす恋する吸血鬼の飢えを満たすためにも、甘いご褒美をあげるのって、だめなの?」
こてん、と首を傾げる。
「……制御には有効ですが、本人も言い聞かせないとだめですよ」
と肩を竦めたあと、優先生は、ジトリと月斗を見た。
「ご褒美ください!」
デートで頭いっぱいな恋する吸血鬼に「そうじゃないです」と冷静にツッコミを入れる優先生。
夜は、豪勢なおせちと年越しそばで今年の締め。
カウントダウンまで起きるかって話で揉めたけれど。
「記憶喪失で初年越しだぞ!? 起きるだろ!」
「だめです。そんな遅い時間まで無理して起きる必要はありません。翌朝、年越しを祝えばいいのですから」
「冷てぇな! 今日だけだろうが!」
藤堂に真っ向反対した優先生が、勝ち。
私がうとうとしだしたので、私は部屋へと送られた。
ベッドですやーとしたけれど、ふと目が覚める。
スマホで確認すれば、時刻は11時53分。まだ年明けしてない。
ベッドの上に、サーくんとキーちゃんが、スヤスヤ。
ゴシゴシと目元をこすってから、壁を小さくノック。
〔お嬢? 起きてます?〕
すぐに影が繋がって、壁の向こうの部屋の月斗が、そっと囁き声で尋ねた。
「起きたの。月斗も起きてるなら、一緒に年越ししよう?」
〔あ、は、はいっ! 影から行きますねっ〕
トポンッと、すぐに月斗はベッドの下に伸ばした影から、出てくる。
「えーと……あっ! 月! 月見で年越し! どうですか?」
じっと見つめ合うと、緊張した風の月斗は窓を指差した。
頷いて抱っこを要求すれば、抱き上げてくれた月斗は、窓辺まで運んでくれた。
冷たいと思ったのか、自分で座ると膝に乗せてくれて、そのままカーテンを開ける。
まだ欠けている大きな月。夜空は澄んでいて、綺麗だ。
「いい感じに満月にはならなかったですねぇ」
「でも綺麗」
「そうですね」
と、二人でほのぼのと月見。
「みんなもお開きにしたの?」
「あー、俺は先に部屋に戻らせてもらったんですよ。優先生も途中で部屋に戻って休んでるみたいですが、下では藤堂さんと橘がまだお酒を飲んでますね」
耳をすませる月斗は、一階で二人が飲んでいる音を聞き取ったのだろうか。
「寒くないですか?」
「うん」
「よかった。時間は……まだ5分もありますね」
スマホで確認してから、ニコニコと月斗は見つめてくる。
ひし形の瞳孔の黄色の瞳。
「今年はいっぱいありましたね。って、お嬢は秋からしか記憶ないんでした。でも濃厚な三ヶ月でしたよね」
へらりと笑いかける。
「月斗がいなかったら、生き延びれなかったよ。冷遇を凌げたのは、月斗のおかげだもの。ありがとう」
「それは……同情、でしたからね」
なんか申し訳なさそうに目を伏せるから「一回目のデートでは、初めて喉鳴らしてたよね? もう同情だけじゃなかったでしょ?」と言えば、ギクリとした顔で目を泳がす月斗。
「そ、そうですけど……」と頬を赤らめる。
「月斗。私ちょっと、センチメンタルになってる」
「え? ど、どうしたんですか?」と、すぐに心配の眼差しになる月斗。
「私……来年の抱負とかないや。将来の夢とか、やりたいこととか、具体的にないなって。家出てきたけど、何すればいいかな? たいそうな目標なく、ただ、月斗が血を飲まなくていい薬作ったり、優先生と研究を進めたり、公安の仕事をこなしていくだけでもいい? 月斗は退屈しない?」
「退屈なんて……俺はお嬢のそばにいられるだけで満足です。退屈じゃないですよ。俺はまぁ、生きられればいいやって感じで生きてきたんで、お嬢もたいそうな目標とやらを作らなくてもいいんじゃないすか? やりたいことなんて、思い付いた時にやりたいようにやればいいんですよ。お嬢なら、多くを叶えられますしね」
月斗は優しい手付きで、頭を撫でてきた。
「新しい年になるから、そう焦ってしまうんでしょうね。だから眠れなくて起きたんですか?」
「ううん。起きちゃっただけ」
「そうですか。思い悩まなくていいですよ」
両手で包むような手つきで、微笑む。
「お嬢って、きっといっぱい考えると思うんですけど、考えすぎもよくないですよ」
「多分、月斗が思っているよりは、考えていないけれど……。そうだね。思い詰めてもしょうがないね。人生始まったばかりだから、気長にね」
にへらと、笑って見せる。
「人生始まったばかり。長い人生あるなぁ。吸血鬼が映画の通り、不老不死なら、どれだけ未来の時間が果てしなく感じるんだろうね? 100年以上を軽く生きる人に、人生は長かったか、聞いてみたいや」
と冗談を言ってみたのだが。
月斗の顔は、曇る。
「何? 変なこと、言った?」
「あ、いえ……。……100年以上、不老不死状態の吸血鬼がいますが、会いたいなんて言わないでくださいね?」
「……」
目を見開く。
月斗の様子が変だから、迂闊なことは言わない方がいいと思うけれど……。
「え、いるの……?」と、思わず声を潜めた。
「吸血鬼の中でも、都市伝説みたいな噂話ではあるんですけど、後継者候補は知ってます。『王座』の所有者である現王は、100年以上前から、時が止まったように不老なんです。あの『玉座』は、不老不死をもたらすものです。100年周期で、王が替わるのは、長生きしすぎたせいでしょうね……歴代の王は隠居したり、殺されたり……。ただ長生き出来ればいいって話じゃないってことです」
寂しそうな感じに薄く笑う月斗。
「月斗……」と手を伸ばしては、月斗の鼻をギュッと摘まんだ。
「ん!?」
「あなたの秘密を聞いた時も思ったけれど、話しすぎ。そういうのも、命関わるから言わない方がいいよ? ある意味で重大秘密でしょ。迂闊よ、迂闊」
「うっ……すみません……。お嬢には、つい、何でも話したくなって」
ぐいぐいと摘まんだ鼻を左右に動かして揺さぶると、されるがままになる月斗。
「て、てか……添い寝した時、そう思ってたんですね……」と、しょげる。
「だって、私とお母さんしか知らない秘密でしょ? 月斗の命運がかかるしね。それをあっさり教えちゃうんだもん。びっくりしたよ」
「あの機会に、ついでに明かそうかと……」
「ついでに明かしていいわけがない……」
びっくりだったよ、ホント。
「……他には? 声が出せない間、何か思ってました?」と、首を傾げて不安げに尋ねてきた。
「……」
ふわっと浮かんだのは、月斗をイケメン吸血鬼青年と呼びまくり、好きだと言いまくった心の声。
そこで、ドンッと遠くで爆音が聞こえた。
夜空の月を見てみれば、下の方に花火。
月斗が時間を確認すれば、12時。年が明けた。
「「明けましておめでとう」ございます」と声を合わせて、挨拶。
「「今年もよろしく」お願いしますね、お嬢」と、笑顔で交わした。
遠くで打ち上がっている花火を、一緒に眺める。
それから、月斗の耳に口を寄せて「秘密」と囁いた。
「えっ!?」
びくっと軽く震えて、真っ赤になる月斗は耳を押さえて向き直る。
「え、えっと! えっ!? 何をですか!? なんの秘密ですか!?」
オロオロとした。にっこりするだけで、私は花火と月観賞に戻る。
「お、お嬢~! 意地悪しないでください! 悪いことじゃないですよね? ねっ?」
「んー。どうかな? 多分ね」
「ええ~。曖昧ッ」
あたふたする月斗を、クスクスと笑ってしまう。
好きだよ。
そう言うには、まだ私は幼いから。
ごめんね。また今度。
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