♰123 「サーくん、ラッキーボーイかな?」
一先ず、外は寒いから、と家の中に移動。
花も摘んだから、キーちゃんと一緒に、花をもしゃもしゃ。
キーちゃんのとぐろの中で隠された気になって、落ち着いている様子のサーくん。
「サーくんには、隠れる才能があり、それは幻覚によるものだから、幻覚で攻撃して戦闘不能にする、ということで?」
カタカタとタブレットの中の鍵ファイルの中に、『生きた式神』サスケの資料を、取り付けたキーボードに打ち込む。
「あれは……洗脳ではないでしょうか」と、慎重に口を開く優先生。
「脳に働きかけて恐怖心を刺激、むしろ、植え付けてろくに動けないようにしました。幻覚はお嬢様のコートに潜り込んでいることもわからないほどに、隠蔽して周辺すらも欺く認識阻害……それが、『召喚』されてから、ずっと保っていると言うのに、花を摂取しているのは、まだたった二本でしょう?」
優先生はキーちゃんのトグロの中を、じっと見つめる。
見えていないが。
「洗脳……怖すぎる響きだな。いやでも、確かに希龍が解いてくれてから、楽にはなったが……」と、藤堂は思い出して青い顔をするが、洗脳状態には納得した。
「サーくんは、ゴーストタイプであり、状態異常が得意な子だってことだね!」
いい子いい子とサーくんの頭を撫でる。
「なんで笑顔」と解せない藤堂。「止めるべきだった……」とぼやく。
「この子がヒョウさんと対面したら……私以外には幻覚攻撃しちゃうのかな」
「っ絶対に出さないでくださいね!?」
ちょっと疑問に思っただけで、実行する気はなかったのに、藤堂だけではなく、恐怖幻覚と聞いて橘も目で訴えて止めてきた。
やらないよ。
「サーくんにキーちゃんも消してもらえたら、優先生の結界も出す度にかけずに済むね」
「……それは寂しいですが、確かに冷気という欠点がない上に、相手に直接触れられさえしなければ、隠し通せるとは……。お嬢様にはやはり、害もなく、幻覚も作用していないのですね?」
「うん。ただ……ユラユラーって、輪郭が揺れていて、実体はないかなって思っちゃうけど。これがこの子のそのまんまの形かな。私のイメージに合わせてって感じ」
輪郭を人差し指でなぞった。
「ゴーストボーイ、ですか」
そう。ゴーストボーイ。幻覚は見せられてはいないけれど。
「うわ」ふわっと浮いたかと思えば、顔に抱き付いてきた。
「え? どうかしましたか?」と、何事かと見えていない優先生達が焦る。
「いえ、サーくんが浮いて顔に飛びついてきたので、ビックリして」
「浮くんかーい!」
「てんとう虫ですし、飛べるのも不思議ではないでしょう」
「てんとう虫か……面白いね」
「「面白い?」」
抱え上げても、サーくんは彼らには見えていない。
ググったてんとう虫の情報について、スマホで見せた。
「お天道様……ああ、てんとう虫の名の由来ですか」
「ゴーストにお天道様か。確かに、矛盾だな」
てんとう虫の名前は、お天道様、つまりは太陽に向かったから、そういう名前がついたのだ。
「それにてんとう虫ってラッキーの象徴でしょう? サーくん、ラッキーボーイかな?」
鼻先をくすぐると、はしゃいで足をジタバタした。
「ああ、希龍も希望と込めていますし、元々お嬢様の血筋を遡れば、幸運の龍を従えた術式使いに行き着きますからね。少なからず、幸運を引き寄せる可能性は、否定出来ませんね」
「こう見えて、ラッキーボーイだ! サーくん」
むにむにと頬を摘まむ。
「こう見えても何も、全然見えんが」と、冷静なツッコミの藤堂。
何も見えません問題。
「ちぐはぐだな……。『生きた式神』なのに、ゴーストボーイって……」と、矛盾を指摘する藤堂だった。
「そういえば、舞蝶お嬢様の母親の術式は、幻影やかく乱も得意としていたと聞きましたね。それが少なからず引き継がれているのかもしれませんね」
そういえば、そうだった。
月斗が「サーくん、どこー? 触ってもいいー?」と手を伸ばせば、サーくんの方から両手で掴んだ。
「お。ビックリ。サーくん、みーっけ」と笑いかける月斗に、サーくんはキャッキャと、はしゃいで両足をバタつかせた。
「月斗にすっかり心を開いたね。皆さんも、交流を試みる?」
「はい! 俺にやらせて! 仕事に戻る前に!」
と、徹くんが爛々と目を輝かせて、挑戦権をいち早くに勝ち取った。
懐いた月斗の膝の上に乗せて、慎重に話しかけて、なんとか素のサーくんを見せてもらうことに成功した徹くんを横目に見ながら、それを優先生と記録するために打ち込んだ。
私と生物が『生きた式神』が作成するカギ。
この推測を裏付けるために、月末の国彦さんとの合作『式神』作成の際こそは生き物が混入しないように、室内で密閉することが、決定。
そんな休日を過ごした。
学校に登校しても、サーくんも一緒。
誤って誰かが触れないように、キーちゃんの頭の上に乗せて、高みの見物状態。危害を加えられない位置にいられて、サーくんも安心のご様子。
「今日はやけに上を向いてるね?」と、上を確認する私に気付いた燃太くんが尋ねた。
「幽霊が見えるの」と、笑って答える。
〔お嬢ってば〕と、影の中の月斗は、苦笑を込めた声を出した。
「どんな?」
「これくらいの、ゴーストボーイ。気弱でシャイなの」
「具体的。……もしかして、冷気が漂って、水滴が落ちる現象の正体?」
兄から得た情報で、見えない何かがいるらしいとは思っているようだ。
それはキーちゃんのことだけど、元から話す気はないから「さぁ? どーでしょう」と笑みで誤魔化しておく。
ちょっと不貞腐れたむくれた顔だが、こちらも手の内を明かさないのは当然のことだと、しぶしぶと納得して頷いた。
その日の下校の中。
「そうだ。お嬢。そろそろ、美容室に行って髪の手入れをしてもらいましょうか? この近場にいい店がないか、調べてリストアップしましょう」
ニコニコと藤堂が、車内でそう提案した。
「……」
ジト。
「え? な、なんすか? その目……?」と、たじろぐ藤堂。
「……前の美容師さんの伝手は、頼れないんだ? ふぅーん」
小首を傾げれば、藤堂はよそを向いて、ダラダラと冷や汗を垂らす。
優先生が、冷めた目を向ける。
そんな彼の膝の上には、サーくんがよじ登る。優先生にも、サーくんは、心を開いた。
実は、藤堂には、懐かなかった。
一回チャレンジして、見事再び恐怖の幻覚を浴びて、もう挑まなくなった藤堂は未だ見えずじまい。
橘には、なんとか姿を見せてくれた。花の盛り付けでなんとか釣って、自ら触れさせて、見せてもらったのだ。
「いえ? 別に?」と、そんなわけがない態度の藤堂に。
「ふぅーん? へぇー? 連絡が取れないような間柄になったんだね? 彼女、とってもあなたによく見られたがってたものねぇ? 拒否されれば、破綻するもの」
と言えば、ダラダラと冷や汗を垂らす藤堂が、オロオロと視線を彷徨わせた。
シンと沈黙する車内。
「……まぁ、電話で告げたのなら、ハサミで刺されることもないね」
「……」
「一方的な総無視なら、次会えば、刺されるね」
「…………」
「ハサミ、こわーい」
「…………」
図星を突かれて、真っ青な顔で俯く藤堂は今現在、優先生の視線がグサグサと刺されている。
いや、冗談抜きで、刺されるよ。ホント、お前。
ずっと毎日護衛を務めているから遊んでいなさそうだけど。
これからの関係者ではなく、過去の女性が何かやらかさないか、不安だわぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます