♰119 友だちが出来たら俺は?(+大人side)
「あ、そういえば、舞蝶。もう転校するって言ったよね? どこに?」
と、燃太くんが私達の会話を聞いたことを思い出して尋ねてきた。
「この近くの私立学校だよ? そこにも飛び級の特別クラスがあるって。警視総監のオススメらしい」と、笑って答える。
「そっか。ねぇ、叔母さん、僕も転校出来ないかな? 舞蝶と一緒がいい」
くるっと叔母を振り返って、転校をおねだりする燃太くんに、一同がビックリ。
「まあ?」
「ん!?」
と、桐島さんと藤堂が瞠目。
「だってあの警察学校は、一番融通が利くからだったし……確か、そっちにも転校出来るって話だったよね。薬の確認をするなら、一緒の方がいいだろうし、ね? いいよね?」
笑顔で、桐島さんと私を窺う燃太くん。
「まぁ、転校は君の自由だから私の許可はいらないけど、確かにその方が都合はいいね」と、一理あると頷く私。
「んもう、まぁまぁ! そんなに仲良くなっちゃって!! わかった! 旦那に話を通しておくわ!」と、きゃぴきゃぴとはしゃぐ桐島さん。
「旦那さんの伝手で、あの警察学校へ?」と首を傾げる。
どんな立場の人間に嫁いだのだろうか。
「ええ。元公安の刑事だったけれど、今はこの県の捜査第一課の警部補を務めているんですよ」
「それって……」
確か殺人と強盗とかの凶悪犯罪を捜査する刑事のところ?
「表の仕事に移ったってことですか?」
と家庭を持って、裏側ではなく、表側に移ったのかと尋ねてみた。
「いいえ。表では普通の刑事ですが、表と裏を繋げるパイプ役を担っていますね」と、桐島さんは答えた。
「ああ。優先生が病院勤務していたみたいな。裏へのフォローですか」
ポンと手を叩いて、理解。
「そうですね。例えば、捜査第一課だと、殺人でグールや吸血鬼の関与の疑惑があれば、公安へと渡すような。そういうフォローですね」と、付け加えて説明してくれた優先生。
「まぁ、私が言うのもなんだけれど、必要な人材だから、燃太の転校も可能だったわけ」
と、桐島さんは甥に笑いかける。なるほどー。
「そういうことなら、旦那に話を通してもらわなくちゃね。でも……どうする? 燃太。聖也はともかく、あの二人にはどうする?」
桐島さんは、気遣いの眼差しで、燃太くんの尋ねた。
あの二人。兄の次となれば、両親のことだろう。見放した両親に、改善の可能性を知らせるかどうか。
「えー。やだー……絶対疲れそう」とげんなりした顔。
また期待を向けられては押し付けられると思えば、疲れもする。
「そうね。ずっと、ここにいていいんだから」と、優しい眼差しで、桐島さんは燃太くんの頭を撫でた。
腕に抱えた広くんも一緒に守ってやろうと意志を込めているように見える。
ずっと。ずっと面倒を見る気で預かったのだろう。彼はここにいられてよかったのかもしれない。
「では、そろそろ失礼しますね。なんかウチの料理人がお赤飯炊いているみたいで、食べに帰らないと」
「あら? いいことでも、あったのかしら?」
「友だちが出来たことを、大袈裟に喜んで祝うそうです」
と藤堂を指差しておく。微苦笑を見せる藤堂。
「じゃあね、広くん」と、ツンとほっぺをつついてく。
にぽっと笑う広くん。それから、燃太くん。
「また明日ね」
「うん。また明日」
と笑顔で交わす。
「待って! 記念に写真を撮ってもいいかしら? 聖也が、きっとひっくり返って驚くんじゃない? 舞蝶お嬢様と燃太が仲良くなった上に、こうして我が家にいるなんて!」
「まぁ、いいですけど。じゃあ、仲良しな風に撮ろうか」
ただのツーショットも面白くないから、まだ正座したままの燃太くんにくっついた。
言うほど、熱くはないけれど、ちょっと、ポカポカはするなぁーとは思った。
「「「!?!?!?」」」
男三人が驚いて固まっている間に、桐島さんはスマホで写真を撮った。
じゃれていると思ったのか、自分もー、と言わんばかりにキャッキャと笑う広くんも飛び込んできたのでスリーショット。
送ってもらったら、最高に可愛い広くんが満面の笑みを弾けさせていた。可愛い。
「お邪魔しました!」と素早く回収されて、家を飛び出した月斗に車の中で、ぎゅうぎゅうと抱き締められた。
「お嬢! 適切な距離! お友だちとは適切な距離感でいましょう! 特に男! 距離感バグは、月斗で十分でしょ!? ハッ! 目覚めた!? 目覚めたんですか!?」
藤堂も説教みたいにうるさかった。
目覚めたとは……何にだ。めんどくそうなので聞かないけど。
家に帰ったら、普通に美味しいお赤飯料理をいただいた。ありがとう、橘。
でも、友だちが出来たくらいで咽び泣きは、どうかと思うんだ。
●●●大人side●●●
第二回、秘密の大人会議。
徹は不在のまま、他の組の組長の息子と親しくなった件。
まだ確定ではないが、その燃太は確実に舞蝶に惹かれている。今後、舞蝶の魅了について対策を。
と思いきや。
「……お嬢に、歳の近い友だちが出来たら、俺は……構ってもらえなくなるんでしょうか?」
と、ずおぉんと落ち込む月斗。
「……まだ大丈夫だと思ってましたが、他の人と恋愛するとか考えたら、俺……何しでかしちゃうんでしょうか?」
という、真剣かつヤバい自己申告キタ。
「月斗。とにかく、あなたは誓いを守り抜くことです。告白してもお嬢様に見返りを求めない想いだったはず。それを忘れてはいけません」
パシッと俯く月斗の額を下からはたき上げて、上に向かせる優。
「詰まるところ、恋愛も欲がある。欲は次第に膨らみ、欲張り、貪欲になるのです。完璧に抑え込めとは言わないですが、あらゆる考えが浮かんで、それに囚われて、お嬢様を傷付けるような言動に走らないように」
「……はい」と額をさする月斗の顔は浮かない。
「心配なら、お嬢様に尋ねてみては? 舞蝶お嬢様は、あなたを手放すようなことはしませんと、私は思います。彼女自身、あなたを恩人として慕ってもいますし、可愛がっています。あなたを思って、薬まで作り始めたのですから」
「!」
優が言い聞かせると、パッと月斗が上を見上げた。
上には寝ているはずの舞蝶だけだ。
「お嬢が起きているみたいです。今話して来ていいですか?」と、月斗はソワソワ。
「薬作りをしているのでしょうか。私も行きましょう」と、優もついていくことにして、藤堂と橘を置いていく。
二階の真ん中の舞蝶の部屋。静かなノックをして、ゆっくりとドアを開ければ、作業机の上をいじる寝間着の舞蝶を見付けた。
「お嬢。眠れないの?」
「あー、うん。配合を思い付いたら、つい……」と、苦笑して頬を掻く舞蝶。
「……燃太くんのためですか?」と、しょんぼり肩を下げる月斗。
「? いや、月斗のためだけど?」
舞蝶は不思議そうに首を傾げて、月斗を見上げた。
「え……?」と、目をパチクリ。
「月斗の吸血鬼のエネルギー補給の薬の配合なんだけど?」と、首を傾げる。
ベッドから出てまで作業を再開したのは、燃太ではなく、月斗のためだった。
ぱぁああっと、明るい顔をした月斗。
「どしたの?」と、キョトンとする舞蝶に、すぐに目をうるうるさせた月斗は「ごめんなさいっ、お嬢! 俺、お嬢に手放されちゃうって不安になりました! 疑ってごめんなさい!」とその場で土下座した。
「手放す……?」
「歳の近い、友だちが出来たら……俺には構ってくれなくなるのかなぁー、て」
と、おずおずと申し訳なさそうに白状。
「ああ、ヤキモチ?」と、納得したように頷いた舞蝶は、月斗の前へ行くと、両手で月斗の顔を包んだ。
「月斗を手放す気なんてないって。月斗は私のもの。でしょ?」と、微笑む舞蝶。
青灰色の瞳を細めて、優しげに、甘やかに微笑む舞蝶を、ぽーと見つめた月斗は、喉の渇きを覚えて、ゴクリと喉を鳴らす。
口を押えて赤くなる顔を伏せたかったが、包み込む両手に阻止されてしまう。
「それが返事?」と、クスリを笑う舞蝶は、魅惑的。
ストレートに下ろされた黒髪。細めた青灰色の瞳。緩く上げる口元。
「お、俺は、お嬢のものですぅ……」と、プチパニックで答える月斗。
ゴックン、とまた喉を鳴らす月斗を笑って、頭を撫でた。
「(現状、月斗の暴走の心配はなさそうだな……お嬢様が適度に餌をやって、手綱を握っていらっしゃる)」
と、眺めていた優は、眼鏡をクイッと上げて感心した。
「ほら、お嬢様。お休みください。今日は慣れない登校もしたのですから、お疲れのはずです。明日も早いのですから」
「はーい」と優は片付けを手伝い、月斗と一緒に舞蝶をベッドに戻した。
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