♰115 癖の強い過保護者に紹介。



「燃太くんは、他に仲いい子、いないの?」と、言って思い出す。


 友だちを積極的に作らないタイプだって若頭が言ってたな。

 まぁそんなことしているくらいなら、休みたいのが正直なところだったのだろうけど。


「俺も今学期にこっち来たばかりの転校生だし、この体質だし、特にいないな。そもそも公安の子どもばっかだしな。確か二人くらいはただの親戚だって。中には箔をつけたいから勉強漬けにされてここに入学させられた生徒がいるって聞いたけど、誰だかは興味なくて見なかったな」


 突っ伏してても耳で話を聞いていたわけか。


「よその家も色々あるんだねぇ。大人に付き合う子どもはつらいぜ」

「全くだな。それで舞蝶は結局、あの冷たそうな側付きには厳しく……あ、記憶ないんだっけ?」

「ないけど、あの側付きは冷遇を受けてたよ。証拠出して、辞めさせてもら……た? 捕まえてもらった? んー」


 なんて言えばいいのやら。まだ牢獄で拷問を受けているかどうか知らないしねぇ。

 彼が見たまんまに冷遇されたと知って、燃太くんが目を真ん丸にしている。


「まぁ、代わりに優しく世話してくれる人達がそばにいてくれるから、大丈夫」と笑っておく。


 一階のエントランスホールに向かって歩き出すと、手を掴まれた。


「本当にごめん。あの時……黙って見てるだけで。厳しい教育の一環かもって思ってスルーしたなんて言い訳。本当は、面倒だったから。でも最低だ……一言ぐらい声かけて、止めればよかったのに」


 しょんぼりと俯く燃太くん。


 「はいそこまで!」と、がしっと燃太くんの肩を掴んで、後ろに引っ張ったのは、藤堂。


 ほぼ同時に、サッと月斗が私を抱っこしたので、掴まれた手が、自然と離れた。


「もう過ぎたことです。今は私達が優しくお世話している保護者なので、ご心配なく」


 と、にっこりと笑顔に圧がある優先生が言い放つ。


 燃太くん。ポッカーン。


 私も呆れつつも「今話した保護者だよ。護衛の藤堂と、お世話係も兼ねている護衛の影本月斗と、主治医と術式の教師も務めてくれている氷室優先生」と、燃太くんにご紹介。


「それで、この子は」

「おやおやこれはこれは! 『紅明組』の若頭の弟君に見受けられますが、お間違いありませんかな?」


 と、藤堂がわざとらしいことを笑顔で言い退ける。


「はい。兄は『紅明組』の若頭の紅葉聖也であり、僕は燃太です」

「ビッグなお兄さんをお持ちで、あはは。ほぼ初対面の女の子を食事に誘うとはやるじゃないですか」

「はあ……?」


 嫌味を言われているが、意味がよくわからないと、首を捻る燃太くん。


「ごめんね? 藤堂は、バカだから」

「なんで酷いこと言うんですか? お嬢。護衛として、ちょっぴり牽制を」

「同じテーブルで給食をとるだけで、過剰反応」


 注意しておく。


「過剰反応と言えば、優先生。私の薬が効きすぎるみたいで、不安だから診察してもらっていいかな? お詫びとして薬を渡したのに、副作用が出たら申し訳ない」

「いいですが……例えお詫びだとしても、会ったばかりの人から、よくわからない薬を飲んではいけません。常識人は飲みませんからね? お嬢様の薬がいい薬で、命拾いしましたね。今後気を付けるように」


 と、厳しい優先生は、燃太くんに注意した。


「ごめんね? 優先生は、私にしか優しくなくて」

「舞蝶お嬢様の先生なので」


 キリッと言い退ける優先生。

 そういうの、免罪符になると思っているのかな。


「謝らなくても大丈夫。兄さんの部下も、慣れている」

「「癖の強い過保護……」」


 悪気ゼロな燃太くんに、同じにされてしまった優先生と藤堂が”解せぬ!”って顔をした。


「そうなんだ?」

「うん。兄さんの方は”血の気が多くて、すぐ飛び出す奴が多すぎて困る”って嘆くんだけど、逆に兄さんがすぐ飛び出すから、大人の部下の方が、守るために頑張って、先に飛び出しているらしい」


「「くっ……!」」と、笑いを堪える大人二名。


 そういえば、会合の時もそんなこと言って、一人で来てたね。盗聴器も、普通に作戦を知って、若頭自身が飛び出さないように聞かせる対策だったのでは……?


「次会う時までに腹筋を鍛えないと」と、藤堂が期待の眼差しで、私を見てくる。何故。

 童顔もグラサンも、別にいじるためじゃなかったんだ。悪気はない。


「そのお兄さんの噂はかねがね。同じ特殊能力でお嬢様を守ってくれたそうですね? 教科書を投げ付けた生徒のお名前を聞きしてもいいでしょうか?」


 過激派過保護モードに突入した優先生が、圧のある笑顔。


「なんで知っているんだ?」と、怪訝な顔をする燃太くんに「特殊能力持ちの吸血鬼」と、ちょっとムッと唇を尖らせた月斗の肩を叩いて示す。

 彼の能力で知られたよーって。


「公安の刑事の息子の青井(あおい)……下の名前は覚えてないな。警部補に昇格したとか」と、教えてくれる燃太くん。

「青井警部補?」と、首を捻る優先生。


「あ。俺知ってる。確か……組長のファンですよ。熱心に尊敬の眼差しを向ける刑事だ」と、藤堂の記憶にはあったと口にしては、サッと青ざめた。

 そして二人は、燃太くんに注目した。


「うん。親子で雲雀草乃介の大ファンらしい。舞蝶の記事が出たあと、なんかクラスで喚いてた。安全のために公安の預かりになったのなら不満だとかなんか、身勝手なことを」


 燃太くんは、記憶を掘り起こしながら、情報を提供。


 藤堂がブルっと震え上がっては、私を振り返った。青ざめて、カタカタと震えた。


「身勝手なことを言って絡んできたから、言い返したら、教科書を投げてきて、燃太くんが燃やして助けてくれたの」

「あー、そ、そうなんですね。ありがとうございました。『紅明』の坊ちゃん。……それでその生徒は、でしょうか?」


 なんだ、“色々ご無事“って。なんの心配だ。


「……僕も言ってやったから、泣いたかな? 飛び出してから教室に戻ってないな」と、こてんと首を傾げて言う。

 全然反省していない。する必要ないけどね。


「そうですか……守っていただいた上に、撃退まで。ありがとうございます」

「前は、見ていただけだから。今日は朝から調子悪くて寝てたら、いつの間にか青井がうるさくしてて起きて、それで。僕も、舞蝶には薬で助けてもらった。今、元気」

「わかりました。では、時間も限られていますし、食べながら軽く調べてみましょう」


 優先生の態度が柔らかくなった。

 ……藤堂は、何故またぶるっと震えたかな?



 食堂エントランスホール。

 他の生徒や教員も利用するけれど、どうにも顔がよすぎる保護者三人を一緒に隅っこを陣取る私達は異色を放っていた。

 こっちヤクザ側で、その他が警察側だから……? それとは違う? 遠巻きに好奇の視線が刺さる。


 私の右に藤堂。左に月斗が座り、テーブルを挟んで向かい、燃太くんと優先生が座った。



 

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