♰112 転校初日と女警視総監の意味深。
駐車場に入る門の警備の検問を通り中へ。
わぁ。セキュリティー高いな。
まぁ、実弾入りの銃まであるらしいから、普通に厳重に門を見張るのだろう。藤堂も月斗も携帯している銃を見せて、許可証を突き付けて通過したけど。
運転手から見えないように、仕切りを完全に閉めて、その間に月斗は影を繋げては私の影の中に入った。
「希龍は大人しくするんですよ? 新しい場所だからと、はしゃいでお嬢様からはぐれないように」
と、言いつけて頭を撫でる優先生。キーちゃん、そういうところあるよね。
「自分で術者から、離れすぎる『式神』は、希龍だけだよな? 希龍は、そうやってお嬢を守るんだぞ。お嬢が怒っても、同調して頭突きをしないように」
と、同じく言いつける藤堂。
頭突きは……しないんじゃないかなぁ~、どうかなぁ~。相手次第だよね!
そういうことで、運転手に降りると告げて車から下りた。
これ、防弾ガラスなんだって。わお。
入り口に行くと、一人の男性が手を上げては足早に歩み寄って来た。
「雲雀舞蝶さんですね? 担任を務めます、和多(わだ)と申します」
「初めまして、和多先生。雲雀舞蝶です。短い間になるかもしれませんが、よろしくお願いいたします」
一応丁寧に挨拶してお辞儀しておく。
「あ、はい。礼儀正しいですね。こちらこそ、よろしくお願いいたします」
わりと冷静な対応をされた。頭のいいクラスを受け持つだけはあるのかな。不健康さを思わせるほっそりした体型のフレーム眼鏡の男性は、冷静沈着キャラのもよう。
「ここからは保護者でも、護衛でも、許可をもらっていない方は無理です。本日は食堂の立ち入り以外は、許可されていないとお聞きしておりますので、ここからはお任せください」
意外とキッパリした態度を示す。
〔なんか、頼れる担任みたいですね〕
影の中の月斗が呑気なことを言うけれど、ここまで強く出られる教師じゃないと飛び級のクラスを受け持つことが出来ないからじゃないの?
クセの強い生徒に絡まれないといいなぁ。
学校だから普通に授業だけ受けていてほしいな。
「……はい。よろしくお願いいたします」
「ええ。くれぐれもよろしくお願いいたします」
優先生も、藤堂も、お願いしているという顔ではない。
ガン飛ばして、圧半端ないだろ。流石の和多先生も、視線を泳がせたよ。
というか、現役ヤクザが警察学校の敷地内に銃を所持して入っているって、今更すぎるけど、ヤバいね。
藤堂、ホルダーをチラ見させて、銃を携帯してるって知らしめたね。
ザ・過激過保護。
「私のお付きの人達がすみません」
「いえ……覚悟はしていましたので大丈夫です」
本当に、この担任の胃が危ないかもしれないので、トラブルを起こさないようにしよーと。思いながら案内を受けていれば。
「おい、なんだ? あんな小さい子がいるぞ?」
「バカ。例のお嬢様だろ!」
「ああ、『夜光雲組』のご令嬢が飛び級クラスだってさ。マジで小学生じゃん」
と、警察学校の学生達の声。
気を逸らすために、和多先生が何か案内を必死にするが。
「嘘だろ。あのクラス、この学校が設けるだけあって高レベルなんだぜ? あんな低学年の女の子が受かるわけがないじゃん。クラスメイトの歳の差、5歳? 絶対コネ!」
「っぷはは! 違いない!」
うんざりした顔の和多先生は、早くこの場を出ようとしたところで、私はその学生達の元へ向かう。
〔え!? 喧嘩を買いに直行!? そういうスタンスでしたっけ!?〕
と、月斗の声。
ちなみに、声を繋げるのは私のみであり、他は月斗が聞いているだけの設定なう。
「え、何? 来たんだけど」
「ちっこい」
と、戸惑う一同を見上げて「ごめんなさい、迷ってしまったんですけど、教室まで案内してもらえないですか?」と、小首を傾げて見る。
「か、可愛い……」と、頬を赤らめて動揺する一同。
知ってる。知ってて上目遣いしてるから。
「は? 頭いいんだから、教室ぐらい見付けられるだろ」
と、一人がなんとか私の可愛さに負けないように、突っぱねた。
「迷子の子ども一人、心配する素振りも見せないなんて、警察学校に通う生徒ってサイテーね」と、言い放つ。
「「「はぁ!?」」」
「私はちゃんとここの特別クラスに通う資格があるって試験を合格して来たんだけど、お兄さん達は、本当に警察官になる資格がある試験を受けた?」
キョトンとした顔で見上げる。
「お、お前っ!」と真っ赤になる生徒達。
「ふざけんな! 俺達だって試験を受かって来た! 子どものお前にはわからないだろうが! 俺達が目指す警察は、世の中をよくするすごい刑事なんだよ!」
「裏のこともよくわかってないようなガキが知った風なことを!」
と、ワンワンと吠えた。
「世の中をよくするって、迷子の子ども一人も助けられない人が、そんなすごい刑事になれると本気で思っているのかって聞いているの。裏も表も関係ないけれど、裏をよく知っているなら、喧嘩売る相手がどんなにマズいかを知ってて、喧嘩売ったって解釈していいんだよね?」
冷たく言い放ってから、嘲笑を浮かべる。
ゾッとしたように震え上がる彼らに。
「コネ入学だとか見くびるな。物事を甘く見ていると足元すくわれて、すぐに食い散らかされるわよ。学校では教えてもらえず、実践で試されるのかしら? 寄ってたかって女の子に吠える腐った性根を叩き直した方がいいですって、担任にお願いしてあげようか?」
畳みかける。
プルプルと真っ赤になった生徒が一人、そろそろ暴力を振りそうだと思っていれば。
「――――それは、私からしよう」
後ろの方から、年配の女性の声がした。少し枯れてても強い意志のある声だ。
振り返れば、ズボンスタイルのスーツでコートを肩にかけた長身マダムな女性がパンプスで歩み寄っていた。担任が仲裁に入らないと思ったら、彼女に止められたらしい。
ゴツイ連れに、阻止されている。
「ひぃ……石川警視総監っ!」
「警視総監が、なんで!?」
と、小さな悲鳴を聞きながら、やっぱりそうかと納得した。
こんな警察学校で、いかにもなカリスマオーラを放った凛々しい女性なら、地位もかなり高いと予想出来たし、警察のトップが女性だってことも聞いた。
警視総監が、その警察トップの職名。
ちなみに山本部長は、正式には警視長で、この人の次に偉いお人。
ダークブラウンのショートボブヘアーのセレブ美魔女みたいな警察トップの人は、私を面白そうに見下ろす。
「お前達」と、声をかけられた生徒達は、ビシッと背筋を伸ばした。
「担任に私に呼ばれたと報告しなさい」と何も込められない声で告げられて、サァーと彼らの血が引く音が聞こえた気がするし「はい」と、かろうじて返事をして「失礼します」と、弱々しくこの場をあとにする。
「我が警察の学校で、なんともお恥ずかしいところ見られてしまったね。初めまして、石川(いしかわ)黒百合(くろゆり)です。こう見えて、警察のトップを任されてしまっているよ」
と、気さくに話しかけてきては、しゃがんで握手を求めてきたので、両手で握り返す。
……なんか、キーちゃんが興味示してるな? じっと凝視しているけれど、私から離れようとはしない。
「初めまして、公安のお預かりとなっています、雲雀舞蝶です。山本部長と、特に風間警部には大変お世話になっております」と、ぺこり。
「山本と風間かぁ。あの二人も、早く昇進に頷いてほしいものだ。二人して拒否して、この年寄りを安心させようとしないんだよ? 困ったものだ。あなたからも、言ってもらえないだろうか?」
そういえば、歳を理由に辞めたがっているんだっけ?
繰り上げにされる山本部長は必死に抵抗しているらしいし、山本部長の後釜に推されている徹くんも断固拒否しているらしい。
全然年寄りで弱っている感もないから、まだまだ働けそうなのになぁ。
まぁ本人が嫌なら、ちゃんと後任を据えて辞めればいいと思う。
山本部長が、頷けばいいけど。
「
と言いながら、頭を撫でられた。
……転生者? チート無双?
今、意味深に言われたのは、気のせいだろうか?
「……
背を向ける前に、口にチャックをするジェスチャーを見せたから目を見開く。
そのまま、ニヒルに笑っては手を振って、生徒達を追うように連れを連れ立って行ってしまった。
「……」
〔なんですか? 今の。流行りのラノベとかマンガの主人公みたいな活躍はほどほどにってことですかね? 意外とオタク?〕
と不思議がる月斗。
傍から聞けば……そうね。オタク発言で済む。
が、しかし。
どうしてだろうか。何故わかったのだろうか。
前世のこと、つまりは転生のことだけは、墓場まで持っていくつもりだったけど……。
他にもいるということ?
「雲雀さん。行きましょう」
疲れたような声をかけた和多先生。ちょうど予鈴の音が響いた。
三階にある教室へ。ちゃんと特別クラスと表札があった。
「おはようございます。皆さん。転校生にもご挨拶してください」
ざわっとしていた特別クラスの教室内は、一瞬にして静まり返った。
事前に聞いていた通り、低くて四年生、最高で六年生の生徒の集まり。最高5歳差。
だからなんだって、わけでもないけど。
「初めまして、雲雀舞蝶です。7歳です。以上です」と、自己紹介をペコリ。
多くは緊張と戸惑いを表情に浮かべた子ども。
一名は、机に突っ伏して眠っている。朝から、ガン寝?
もう一名は、ギロリと怒気を放って、睨みつけてきた。
警察学校なのに、金髪に染めていてヤンキー風にチャラい…………喧嘩売りそうじゃん、絶対。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます