♰110 天才術式使いの集いと学校。
結局、情報漏洩の犯人は、昨日私と組長のほぼ絶縁関係の重い空気に耐え切れず、”
その先が、渡り歩いた飲み屋のどこかで言ってしまい、結果、居合わせた術式使いの誰かが、匿名で情報をネットにアップ。
あの記事の出来上がりである。
情報漏洩の犯人は自分達に違いないと、犯人探しに奔走していると聞き、酔っていた組員達はがん首揃えて、切腹を言い出した。
泣きながら謝る彼らを幹部達は必死に止めて、組長は頭を抱えたらしい。
と、加胡さん情報を、藤堂が複雑な表情で、報告。
きな粉の餅のお菓子を手土産にやってきてくれた銅田さん改め、国彦さんは弟子の青年を一人お付きとして連れてきた。
「一応当主だから、一人で散歩もさせてもらえないんですわ~」とケラケラと笑い退ける。
電話越しに聞こえた辛辣な声の主のお弟子さんは、ツーンとした不愛想な人だったけど、その仏頂面も、いつの間にか驚愕の青ざめた顔に変わった。
「先生、先生っ」
「だから言ったろ。腰抜かすから、来ない方がいいって」
「せんせー!!」
と国彦の羽織の袖を引っ張るお弟子さんは、嘆きの声を上げたのだった。仲良しかな。
「情報漏洩に関してシビアになっているんで、お弟子さんは絶対に他言しないでくださいよ?」と、藤堂が釘をさすと。
「誰なら僕が目にしたものを信じてくれるって言うんですか!!」と、半泣きで言い返した。
先ずは、直前まで私が作ろうと必死だった身体能力向上の術式を、国彦さんも加わって優先生と一緒に、模索してくれた。
氷平さんも”それもだめだ”とか”それはいいな”と意見をくれる。
「いやいや待て舞蝶嬢! それは欲張りすぎるだろ! シンプルがいいだろ! シンプルにパワー向上で!」
と、銅田さんは、いつの間にか、呼び方が”舞蝶嬢”になってた。
煮詰まったので、氷平さんの話になって、一旦置いといて『式神』会談となり、白熱。
希龍が生まれた経緯には、私が禁忌を犯したということで死ぬ恐れもあったのではないかと、青ざめて震えた国彦さんとお弟子さんだったけど、それなら『生きた式神』が出来上がったのは納得。
しそうになっても、やっぱり前例がないわけで、前日にやっと術式の勉強を始めたような6歳の少女に出来た意味がわからないとちぎれそうなくらいには首を捻った。
その点は、優先生は「無敵の一言で片付けられます。最早、舞蝶お嬢様の術式の才能は至高のもの。『最強の式神』の『完全召喚』に始まって、『生きた式神』の作成、そして『治癒の術式・軽』の完成です。無敵以外に何か相応しい特性があります?」と言い切った。
「『最強の式神』の氷平さんとやらと、『生きた式神』希龍に自我があって、何故俺のトグロには自我がない無機物なんだ? やっぱり生き物が混ざってるからってことか? 希龍はアクシデントだが、『最強の式神』には実はっ……って恐ろしい話じゃないよな?」
と、おっかない予想をして顔色を悪くする国彦さん。
「それが事実なら、隅々まで調べた私が手掛かりぐらい掴みます。それはないでしょう。生き物を依代にすれば、『式神』作成時の術者は死ぬ。だから、禁忌となったのです。お嬢様がその禁忌の代償を潜り抜けられたのは、今のところ、無敵だからとしか言いようがありません」
と、優先生が『最強の式神』氷平さんについて調べ上げてきたのだから、そうだと思う。
「自我については、私は『式神』については氷平さんしか知らなかったので、その時点ではもう『式神』には自我があるという認識だったので、無意識に”自我のある『式神』”を作成したのかもしれません」
「いやいや、だからって、そんな……」
「あと特性を反映させるためにシンプルに作ったよりしろで製作したために、”無敵な『生きた式神』”が誕生したのかと。気力を注ぐ時、かなり時間がかかりました。国彦さんはトグロを作成する時、気力の込めた感じは?」
「トグロはそりゃあデカいからかな、って感じには気力を持っていかれたな。依代だってこだわって作ったんだ。まぁ、元々工作好きでな。アルミ板で部位を一つずつ作って組み立てて……真心ならこもってるのになぁ?」
「んー。国彦さんが、やはり道具として作成したことで、従順に操作可能な道具である『式神』になったということでは? 操作だって、自己防衛以外は、動かそうとしないと足は動かないのでしょう?」
「その説! しっくりくる!! なるほどな! だから自我ないのか! でもキーの助みたいにあってほしいなぁ、いいよなぁ」
納得して頭を抱えて嘆く国彦さんは、半べそかきながら、上から覗き込むキーちゃんの顎をつついた。
「……どうせなら作ります? みんな一緒に」
せっかくだし、のノリ。と国彦さんの工作による素晴らしい依代狙いという下心。
「トグロの小さいバージョン、かつ自我ありバージョンを作成を試みてみましょうよ! そうすれば、他の人達の『式神』の自我の有無の理由もわかるじゃないですか!」
と、建前を突きつける。
「自我ありトグロ……! する! するする! 作る!!」
「待ってください! その場合、お嬢様とも合作だってことを公表するんですよね?」
「あ。またその話か。炎上待ったなしかよ、舞蝶嬢は」
私のせいなの???
「そんなに炎上します?」
「待て。先ず……先ず、舞蝶嬢にはもうちょっと自分がやって退けてることのすごさを理解させるべきだと思う。優」
「出来ることは出来てしまうから、どうして出来るのかと疑問を持たれる方が不思議でならないのは当然ですよ……」
「お前マジで、相性がいいようで、よくない教師と教え子だな、おい。直感型天才児同士はだめだろ」
そうやって、盛り上がっていき、夕食もいただいたあと、魂が抜けかけている弟子と生き生きした師匠が帰っていった。
国彦さん。トグロ並みに精密な工作をするって息巻いていた。
一ヶ月ぐらいはかかるかもれないとのこと。
それくらいなら、発表しても大丈夫じゃないかって時期なので、優先生もオッケーした。
術式使いが利用する掲示板に、『治癒の術式』が開発されたらしい、という書き込みがいくつか書かれた。
多くが嘘だと笑うが、一部は例え成功したとして誰だってことになって、可能性があるなら氷室優じゃないか? とか、あとは名家の名がポンポン出た。
そして、翌日には【軽傷を瞬時に治す『治癒の術式・軽』が開発成功。発明者の名は『カゲルナ』】という記事がアップ。掲示板は騒然。
【『治癒の術式・軽』を伝授してもらう試験に応募したが、絶対技術が必要だよな】とか。
【『カゲルナ』って誰だよ?】【全然知らない。何故その人物の情報がないの?】
【今は正体を隠したい酔狂な奴なんだろう? 天才はみんな奇人だし】とか。
すっかり前日の”最年少の天才術式使い”を忘れ去っていた。思惑通り。
仮新居生活三日目でようやく、徹くんから「試験決まったよ!」とお知らせをもらい、それから二日後に試験を受けた。
転校試験なのに、前準備は特になし。
現時点の知識と学力テストを図るためのものだからだ。
……これって、どこまでやっていいんだろうね? あんまりやらかしすぎない方がいいよね。
かと言って、手を抜きすぎて、レベルの低すぎるクラスに当てはめられも困る……。
というわけで、問題を解くことよりも、加減を気にしてしまい、難しかった。
この問題は、小学生レベルだよね? 解いても大丈夫だよね? んんん?
って感じで、一日休憩を挟みながら、数時間、二日間やった。
翌日には、試験結果が出たと徹くんが尋ねてきた。
「おめでとう! 過去最高点だよ! 最早、小学校で習うことがないんじゃないかってくらいには素晴らしい頭脳ですって!」
弾けた笑顔で報告。
前世三十路オタクを舐めんなよ! 小学生のテストなんて朝飯前よ!
「じゃあ学校に通わなくていい?」
「それはだめですね、学校大事」
しょぼーん……。
今のノリなら、いいって言ってくれそうだったのに。
しょぼーん。だめだった。
「独学でどんなに難しいテストを100点で合格出来たとしても、それを資格として手に入れなきゃ、今後はもったいないよ? わかるかな? お仕事つくために、有利になる称号! みたいな」
「そんな例えでいいんですか?」と藤堂がツッコミ。
つまりは、ちゃんと就職出来るように学校通えってことでしょ。
ヤクザのお嬢様も、就職のためにも、学校に通わないと。世知辛いなぁ。
「それでね。『治癒の術式・軽』の件もあるし、公安のトップが首突っ込んできて、学校はここに通わせろって候補搾ってきちゃってね……二択です。試験結果的には地方にもいくつかあるけど、やっぱり遠くに行かせるなって姿勢になっちゃってね。一応、お試しで一ヶ月通ってほしいんだ。もちろん合わなければ、他を選んでくれていいからね。最初の候補二つでお願いします」
と、頼み込まれて、二つの学校のパンフレットを渡された。
地方と言われてもなぁ。よく知らないから、行くって、決断要素がないとなぁ。
とにかく、二つのパンフレットを覗いてみた。
「……普通に、警察学校じゃ……」
「ハイ、ソウデスネ。でも公安のだから! もう裏の学校だから、安心安全みたいな?」
ウィンクじゃないよ、徹くん。
一つのパンフレットは、警察学校だ。
どうやら公安管轄の訓練学校のようで、その関係者の子どもや下の兄弟、親戚や隣人まで、飛び級制の特別クラスが設けられたらしい。
「利点としては、訓練所が使えます。通常の射的もあり、動く的もあって、銃の練習し放題だよ」
「あらまあ、それは魅力的」
「どこで釣り上げようとしているんですか。釣られないでください」
と、優先生が注意するが、藤堂も興味深々に覗き込んできた。
確かに釣りどころ違うよね。もっとないの?
もう一つは、普通の小学校だけど、隣に中学校があって、エスカレーター式で上るタイプの私立学校だ。
あ。制服が青くて可愛いね。女の子は黒のフリルがついている。いいね。
「一ヶ月も過ごすのですか? もっと短く出来ませんか? 一週間とか」
「一週間で良さわかるかな? クラスメイトと交流したら、楽しくて居座っちゃうかもよ? まぁ、大半が小学生高学年の年齢なんだろうけどさ」
横の藤堂から”同年代の子と楽しく交流するお嬢が想像出来ねぇ”という心の声が、ただ洩れだからウザい。
「授業も一通り受けてもらわないとね。特別クラスを体験する意味ないでしょ?」
「嫌になったら次に行ってもいい? 交渉可能?」
「う、うーん。多分ね。でも交渉した翌日に転校、は無理だと思ってね」
「はい。じゃあ、警察学校から先に体験入学してみます」
と、パンフレットをスッと出した。先に、警察学校内の小学生向け特別クラスに行ってみる。
そのあとは、小中一貫校のところ。制服が可愛い。
「よかった! 場所はね、ここから一時間ぐらいだけど、どうする? 近くに引っ越しておく? この二つの学校の中間あたりにいい物件があるんだけど、そうなると最短30分くらいって距離かな。はい、このデバイスで確認」
学校の次は、住居。タブレットを出してくれた徹くんに甘えて、リストアップしてくれた物件を見た。
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