♰104 大人の秘密の会議・其の弐。(大人side)
「まくらっ! ざんねんんんっ」と、枕を抱えて嘆くもふもこの寝間着姿の舞蝶。
「えっと? お嬢、残念とは?」
「雲雀家の枕、いいヤツだった……」
哀愁を漂わせてぐずる舞蝶を、とりあえず、いい子いい子と月斗は頭を撫でてあやした。
ちなみに、希龍はぐーすか、ベッドの中に爆睡中だと、優がチラッと確認。
「月斗……枕になって」
「えっ!?」
ギュッと、月斗の袖を掴んでうるうると見つめる舞蝶から、特大の誘惑を受ける恋する吸血鬼。
爆発的に、真っ赤になった。
「お嬢様。今夜は希龍に枕になってもらいましょう? タオルケット掛ければよろしいかと」
「ん……」
「あと、前の枕がいいなら、送るように手配させますからね」
優がすぐさま回収して、ベッドへ戻す。
寝づらさで起きただけの舞蝶は、タオルケットを被せた希龍の身体の上に頭を置いて、布団の中で丸まってすぐに寝息を立てた。
その間、月斗は耳まで真っ赤になって床で突っ伏していて、部屋から出てきた優は、ドアを閉めて胸を撫で下ろした。
「大丈夫なの? この同居。主に議題の危険な吸血鬼がそこにいるよ? 意図せず爆誕しない?」と、月斗を指差す徹。
「大丈夫な気はしないですよね。主に、
「月斗……」と、同情の眼差しを注ぐ橘。
「その点はお嬢様に、もう一度注意しておきましょう。順応能力が高くとも、今日も特大のストレスを受けて寝つきが悪くて、寝ぼけただけですよ……多分」
月斗の首根っこを掴んで、元の位置に戻る優。
殺されかけたのだから、そのストレスは半端ないだろう。記憶喪失でも、冷遇場所で黙って生き抜けた順応能力の高さで、完全に住居の変更でも大丈夫だと思い込んでしまったが、油断大敵。
そもそも、あんな父から解放されてはしゃいでいる節もある。
ここが心から安心出来ているのだから、悲しいと同時に、こちらも安堵した。
「『生きた式神』を、枕かぁ……。それにしても、術式無効化だけではなく、真逆にパワーアップする鳴き声も出せるなんてな」
今頃の舞蝶を想像して遠い目をしつつ、徹は顎に手をやって、優を見据える。
今まで黙っていた希龍のもう一つの技。パワーアップ。
これは舞蝶と月斗と優の三人だけの秘密にしようと決めて、コントロールだけは練習していたものだ。
発動中の術式のパワーアップと、吸血鬼の能力のパワーアップとエネルギー増加の効果。
これは今日雲雀家に向かう車の中で、舞蝶から治癒の術式を成功させた時に、徹と藤堂に明かされたものだ。
橘も希龍の紹介の際に、サラッと教えられた。
舞蝶が成功させた治癒の術式は、優が開発を断念した術式をアレンジしたもの。
治癒対象の身体に負担をかけすぎる自己再生で治癒を無理矢理行う危険なもので、実験すらも躊躇った。
机上の空論でしかなかったそれを、舞蝶は治癒対象が負担を受けないほどに能力向上をすることで、マイナス要素を打ち消した。
本当は希龍のパワーアップ効果を得て、月斗も自身の影の特殊能力の中でも希少なパワーアップを使ったことにより、それで無事にノーリスクで成功させた治癒の術式。舞蝶はその点を言わなかったので、月斗も黙っておく。
月斗のパワーアップ能力も、王族の中でも長年発現しなかったもの。他言はしてはいけない。
それ比べると一体どっちが希少か。『生きた式神』希龍。
「知られると欲する輩は湧いてくるよね。キーちゃんだけでも、ってさ」
不穏に告げる徹。
「それは無理な話ですね。希龍の術式を知ったところで、『召喚』など出来ません。私が氷平さんを徐々に『完全召喚』出来そうになりつつあるように、自我を持つ『式神』は術者に応じるかどうか選択が出来ますし、同調という繋がりがなければ『完全召喚』も不可能。今現在、花に釣られますが、純粋無垢で強者には怯えても、あとは無防備というより、警戒する必要ないとわかっていて無警戒で寝てしまうような賢い子です。悪用もあり得ません」
優は、その不穏さを拭い去る。
しかし、新たな不穏が、また一つ。
「じゃあ、やはり、『生きた式神』を手に入れるためには、
自分の顎髭を撫でて、藤堂は続けた。
「お嬢のことは、いつまで隠すんだ? 言いたかねぇが、どっからか、術式の才能があるってわかれば、そばについているアンタの名声もあって、”天才術式使い氷室優の弟子は雲雀舞蝶お嬢! 彼女も天才か!?”って見出しのニュースが頭に浮かぶぞ」
嫌な見出しだが、嫌なことに術式使いの界隈はそんなものである。
己の術式は秘匿することに必死だが、功績は胸を張っては声高々に上げるから、こういうネットワークの出来上がり。
「『紅明』の若頭さんも疑っていたが、今最年少の天才術式使いだってことを一応明かすべきじゃねーか? 隠していたなんてどうしてだって、勘繰られるよりかは最初から”最年少の天才術式使いだった”と明かすべきでしょう」
優に問い、徹にも賛同を求めた藤堂。
「だいたい、隠し切れる才能でもねーだろ。自分の術式だけで、負傷した怪我を治癒しちゃうんだぜ?」
二人が考え込む間に、最もなことを言う。隠せるレベルにないのだ。
「情報がちょっとあれば、あとは自分でこなせちゃうような超絶天才を隠し切るのは無理なんだから、ここはもう”6歳の時点で天才術式使いだった最年少天才術式使い現る”! ってこっちから公にしちまいましょうよ。あとは人前では極力使わなければ、なんとかいけるんじゃないか? それこそ、その才能に惚れられてこぞって群がられちまうだろ」
ここには舞蝶の才能に、すでにメロメロの二名がいるし。
と思うが、言わないでおく藤堂。
こぞって群がれる図が安易に想像出来た優は、顔色が悪くなりげんなりと歪ませた。
その惹き付け具合が、半端ないだろう。
「うーん。そこは悪いけど、もうちょっと待ってほしいな。今日の件を処理しつつ、雲雀さんに言っておくよ。『夜光雲組』の娘って肩書きも付属されるのはしょうがないからさ、”最年少の天才術式使い”と公にする点を話を通しておかないと」
「私の弟子というのも、どうにかならないのでしょうか? 不釣り合いで申し訳ないです……お守りするためなら仕方ないですかね? それにレッテルとなれば、『最強の式神』の『完全召喚』で賑わせている最中の”氷室優”の名がつくと……どうなのでしょうか。もう少しタイミングを見計らうべきでは?」
「あー、じゃあ、広報担当部がそういうタイミングの見計らいが上手いからさ、相談するよ。舞蝶ちゃんの業界デビューは、タイミングの見計らいってことで」
そうして、雲雀家を離脱して新しい住居に移した舞蝶一行の大人の秘密会議は、惹きつけやすい舞蝶には吸血鬼には極力近付けないこと、”最年少の天才術式使い”を公にすることはタイミング見計らう、と決定して解散した。
【第参章・家出日和の誕生日にほぼ絶縁宣言】・完
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