♰102 誕生日パーティーとプレゼント。
全ての元凶、といえばそうなのだけど、元はとは言えば、始まりはたった一人残された娘に背を向けた組長が悪いわけで、面子とか知らんわー、てか、血塗れで帰宅時点でヤバいだろー、ってことで食事場の大広間でついでにランチを取っては、組員が一部いる中で、元凶のイカれ吸血鬼の頭を組長の前に転がしておいた。
ほぼ絶縁宣言をして、おさらば。
何故か、橘がほぼ即決で料理人として採用しちゃうことになっちゃった。
うん。橘が料理作ってくれるなら、美味しいし、いいや。風間警部に言わないと。
ちなみに、風間警部は公安の人間だから、家にまでとやかく言うのは流石にマズいと遠慮して、後日協力者の処遇と詳細の報告をさせるからと、車の中で待ってくれた。
どうやら、そのうちに大半の仕事をデキる部下に済ませたらしく「他に協力者はいないから、大丈夫だよー」と笑顔で言ってくれる。
協力者は、結界を張っていた、あの三人だけらしい。
地方でそれなりに活躍していた術式使いだというが、こっちで罪をやらかしたから、有無言わせず、こちらで処罰するとか。
なんか私に使う『血の治癒玉』が違法的に作成されて、さらに違法的に暗示をかける仕込みがあったため、地方だって庇う気はないとそっぽを向いている状態だから、問題ないとか。
トップの『夜光雲組』を黙らせるほどに材料揃えて、自分の管轄(テリトリー)に引き込む風間警部。やり手。
「徹くん、かっこいい」と素直な感想を言ってみたら、デレデレにデレた。
そして、大ダメージを受けて、ズオォンと沈む月斗。
私がイカれ吸血鬼に向かってスマホを捨てたばっかりに、月斗のスマホが追跡されてしまったのである。
藤堂も優先生も、セキュリティー高めのスマホだったけど、月斗は全く気にしてなかった普通のスマホ。
自分のせいで場所を特定されたとわかった瞬間の月斗は、正直怖かった。
剛速球で壁に叩きつけて粉砕したからね。
怖いわ。宥めるの大変だった。
「月斗も頑張ったね。苦しかったでしょ? 毒」と、月斗の頭をなでなで。
「俺なんかより、お嬢が……」と黄色い目をウルウルさせる月斗。
いや、あの毒は、かなりきつかったはずだ。
明るく笑って見せていたが、身体が僅かに震えていて、しかも生理現象で汗も噴き出していた。
能力の発動も、かなり無理をさせたと思う。
「私達、最強コンビ」と耳打ちしてやれば、その耳まで真っ赤にした月斗が、ゴックンを喉を盛大に鳴らした。
チョロくてよかったよ。
そんな月斗が好き。
と、ナデナデしておく。
「そういえば、優先生はヒョウさんの顔まで出したね!」
思い出して、優先生のことも褒めにいく。
「はいっ! しかもそれだけではないのですよ? 声が聞こえた気がするのです。彼の言葉がはっきり伝わったような感覚まで味わえました! 一緒に怒り、お嬢様のためにともに戦いました!」
物凄く純粋な笑顔でキラキラーと嬉しそうに報告する優先生。
私が教え子なのに立場逆転するよね、時々。
でも優先生がそうやって嬉しそうにしていると、私もほっこりと笑顔でいちゃう。
「お嬢! 俺も心配してました!」とか言い出す藤堂。
「それは……徹くんも、同じでは?」と首を傾げると「なんでだよぉおお」と座席を叩く藤堂。
やめろ、人様の車だぞ。
橘の採用の件も、すんなりと許可が出て「隣空いてるし、使っていいよー」と部屋まで決定してしまった。
部屋の中でキッチンを、真っ先に確認しては足りない調味料や器具を要求する橘。プロか。
「お風呂でスッキリするー! 髪切ったから一人で出来るもんー! 7歳だもんー!」
冷遇脱出からしばらく、使用人のお姉さんに髪を洗ってもらっていたお嬢様。
粋がったのだが、結局乾ききった血が落とせず、疲れてしまった私は「ごめんー! 無理だったから、誰か髪洗ってー!」とリビングの方へ声を上げて、ヘルプした。
シーン、と静まり返ってしまい、返事がない……。……?
「月斗ー!」
「俺ぇ!? む、むむ、無理ですっ!! 血が増えますっ!! ぶへっ!」
「言うな!!」
月斗のお断り。藤堂のツッコミが聞こえる。
……血が増える、とは……?
「せんせー!」
「はい、私が行きますよ。でも身体にタオル巻いてもらえますか?」
すぐ近くで優先生の声。
「えー? 優先生、私の裸見たことあるよね?」
「誤解がないように言っておきますが、厳密には見たことありません。診察時も、可愛らしいおへそしか見てないですよ」
そんなやり取りをして、ようやく月斗の言っていた”血が増える”は、月斗が鼻血を出すという意味だと理解した。
……大丈夫だろうか、この同居。
主に私の負担と、月斗のお鼻事情が心配だ。
優先生に丁寧に髪を洗ってもらったあと、お風呂場から出てリビングでドライヤーもかけてもらった。
その間に、月斗もひと浴び。
出てきたところで、髪の毛をクルクルに巻いてもらい、艶やかなゴージャスな黒髪に仕上げてもらった。
ハーフツインテールでリボンもつけて「テスト合格祝いのプレゼント!」と徹くんから贈られた、一番フリルがボリューミーな青いフリルドレスを着せられる。
……冗談だったのに、お姫様みたいになっちゃったよ、マジで。ラメでキラキラするよ、この青いフリル。
お洒落に着飾ったところで、徹くんが予約してくれた高級レストランでお祝い。
ビーフステーキに、こんがり七面鳥出てきたー! うまっ! 色んなソースうまっ!
グラタンも美味しくて、もっもっと食べておく。
高級食材のお洒落な洋食がテーブルに並ぶ。生ハムサラダも、うまっ!
「いやぁー自分までお嬢の誕生日祝い会に参加させてもらって申し訳ないです」
「まぁいいじゃないか。舞蝶ちゃんの料理人だし、仲間だ。仲間外れはよくないしね。引っ越し祝いも込めてさ」
橘も飛び入りだけど、徹くんは店側に融通させた。
だから店側の都合を考えようね、徹くん。
「……ん? てか、藤堂が帰ればよかったんじゃないの?」と、首を傾げる。
「サラリと、ひでぇ」と手羽元を丸かじりする藤堂。
いやぶっちゃけ、何故いるお前。
「というか、今更すぎません? せめて、橘を拾った時点で、聞きません? 俺、ずっと、待ってたのに……」
聞かれ待ちって何。なんでいるのって聞かれ待ちって何。
「藤堂はあれだね…………空気になればいいのにね」
「人類に役立ちますかね。いえ、ちょっと悪そうなのでやめた方がいいかと」
「だね」
と優先生に思わず言ってしまった。
憐みの眼差しを返す優先生と、一緒に頷いておく。
「ほら出たよ毒舌コンビ!!」
「俺に泣きついてどうしたいの?」
ホント、徹くんに指差して言いつけてどうしたいのかな、藤堂。
「いいですか? どうして俺がついてきたか、教えましょう」
「遠慮します」
「だめですが!?」
「ご遠慮します、全てを」
「全てを!?」
橘みたいに売り込むな、と右の掌を突き付ける。
ノー! ノー採用!
「お嬢にサプライズです」
「結構です」
「なんと!」
「結構です」
「護衛が無料でつきます! お得!」
「マジで結構です」
めちゃくちゃ押し売ってきた。
「お嬢!」と真剣な顔付になった藤堂は「誕生日プレゼントは、俺です」とキリッと言ってきたから、私は両手で顔を覆って「いじめられた……とうどう、いじめる……」と、涙声を絞り出す。
「なんでですか!! そこまで!?」
「よしよし。廃棄処分にしましょうね?」
「鬼畜ドクター黙れや! 知ってて黙っていたくせに!」
「っ」
よしよしと頭を撫でてくれた優先生が震えたから顔を上げてみれば、思いっきり顔を背けられた。
「……すみません、お嬢様。決定事項でして……」
「え……? 誕生日プレゼント藤堂が決定事項って、何? 誰が決めたの?」
意味わからんが。
「雲雀さん」と、ケロッと徹くんが答えた。
ええぇーと、げんなりした顔をする。
「いや、厳密には、藤堂か」
「ちょっ!」
「舞蝶ちゃんをこっちで預かる条件として、組員の護衛をつけるってことが決まったから、最初は増谷だったんだけど、あのイカレた奴が昨日襲った件でも、こっちで増谷は相応しくないって却下して、名乗り出た藤堂が決定したわけ。それなのにお別れの手紙もらっちゃって。酷いねー?」
笑いかける徹くんも徹くんで、何故それを教えてくれなかったの。
まぁ、交渉内容を詳しく聞かなかった私が、悪いけども。
「手紙返せ」
ムッとして手を出すが。
「どこやったかなぁ~? まぁいいじゃないですか! 俺、隣の部屋ですんで!」
「お隣!?」
「そりゃ護衛ですし? 近くにいないと~。臨時の家ですからね。正式な住居は、やっぱ一軒家にしましょうよ。二階建てがちょうどよくないすか?」
「どこまでついてくる気なの? 信じられない……嫌がらせが生きがい?」
「どうしてそこまで嫌がります? 酷すぎません???」
護衛、三人、料理人と部屋が並んだ……!
「だって、組長の手の者じゃん。性格も悪くてただれてる」
「誰の性格がただれているですか」
「「「「「……」」」」」
全員藤堂に注目。
「やめて? 集団いじめ」
ぷくーとむくれるに決まっているじゃないか。
つまりは見張りをつけるってことでしょ。報告するんでしょ。
「大丈夫ですよ。俺が報告するのは元から”無事”と”健康”と”問題なし”の三つのみって決めてますから。まぁ報告時期に何かあれば流石に”問題対処中”とか送るかもしれませんけど、あれだけ”余計なことするな”って言っておいたんで、大丈夫でしょ」
と、ケラケラ笑うとシャンパンを飲んだ。
「それにお嬢、”最後まで護衛を頼んだ”って言ってくれたじゃないですかー」
「……アレが最後だと思ってのことなのに……」
ケラケラと、ご機嫌にシャンパンをおかわりするために橘に注がせる藤堂を見て、もしかしたらあの土下座の時にはもう腹を決めてついてくることにしていたのか。
ほぼ組から抜けた状態といっても過言ではない。
組には部下も多くいたのに、単身で離れてこちらの護衛とは。決意は固いのか。
何言ってもしょうがないな、と潔く諦める。
が。言いたい。
藤堂がシャンパンを口に含んだところを狙って。
「使用人のセフレ達とは縁切っておいたの?」
「ブフッ!!」
藤堂のシャンパン噴射は、幸い壁にぶっかけられた。
「だ、誰がそんな言葉を!!」
真っ赤になって動転する藤堂にジト目で「小学生でも知ってるよ」としれっと返す。
盛大に目をぎょろぎょろと泳がしては、汗をダラダラさせる藤堂。
「……藤堂。どうして刃傷沙汰になってないの? 今は上手くやっているかもしれないけど、そのうち私の目の前で」
「お嬢。俺の問題はちゃんとお嬢に迷惑をかけないようにするんで。頼みます。お嬢のお誕生日会の場で、やめてください」
真剣に言い聞かせたけれど、ストップをかける藤堂。
「ちゃんと合意の上? 複数いるって理解している上で、あの美容師さんは」
「ほら橘が食べやすく切ってくれたチキンです!! たーんと召し上がれ! 今日の主役様!!」
汗をダラダラ流す藤堂は、必死に私の口を止めようとする。
徹くんの眼差しがギラッと鋭くなり、ガタガタと震え始めた。
「ハサミで刺され」
「二人からは誕生日プレゼントはもらったんですかい!?」
まだ言い募ろうとする私を止めるため、二人を生贄にサプライズプレゼントをバラす藤堂、必死過ぎる。
いやマジでハサミで刺されるから気を付けた方がいいからね?
ヤクザの護衛が、一介の美容師に刺される刃傷沙汰事件とか笑えないよ。
「藤堂は、問題なく刺されると思います」と、バラされた優先生は、笑顔でお怒り。
それでも「問題ありだわ」とツッコめる藤堂、流石だった。
「私と月斗は、その……サプライズパーティーを計画する組員達に便乗する気で、カメラとプリンターを購入したんです。もっといい思い出を作ろうということでアルバムも用意した矢先に……お嬢が記憶喪失だと打ち明けられたので」
気まずそうに目を背ける優先生。
「記憶に関しては触れない方がいいなぁー、ってことで却下に。俺は無難にマフラーを。帰ったら渡しますね」
月斗も苦笑いで白状しながらも、笑顔で渡すつもりのプレゼントを教えてくれた。
「私は被れるブランケットです。フード付き。希龍も入れてしまいそうなポケットにもなりますから、ぜひ帰ったら、試着してください」
優先生も、優しく笑いかける。
そのブランケットが、かなり気になるけども。
「私。これから、みんなといい思い出、いっぱい作りたいよ? そのアルバム、一緒に作っちゃダメ?」
あざとく上目遣いでうるうる。
ピタリと止まった一同は、素早くスマホを取り出した。
「カメラを置いてきた私をお許しくださいっ! 撮りましょう!」と優先生。
「というか、最初に集合写真撮るべきだったね!! 俺としたことが!!」とカシャカシャ撮る徹くん。
「アルバム! 一緒に作りましょうね!」と涙ぐむ月斗も連写。
「お嬢がどれをお気に召したかまで記録しておきますぜ!?」と、料理の写真まで撮る橘。
もう無言で連写する藤堂。効果てきめんすぎて、ケラケラとお腹を抱えて笑ってしまう私は、カシャカシャと写真を撮られ続けた。
今日の主役とツーショットや、集合写真、隣り合って写真。
ワイワイとした『雲雀舞蝶』の7歳の誕生日会を過ごした。
最後は、イチゴたっぷりのチョコレートのバースデーケーキでシメ。
今朝もろうそく吹いたのに、と思いつつも、私は過去の『雲雀舞蝶』に思いを込めて吹き消した。
夜は、キーちゃんと仮新居の大きなベッドで添い寝。
家出で住居移動で、死にかけて、存分に術式を使い、誕生日会で賑わい、すっかり疲れて眠りに落ちた。
あなたの誕生日まで生き抜けたよ。
そして、これからも――――。
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