♰89 天才術式使い同士の交流。
「なんでだよ!? なんで『式神』が作れんだ!? そもそも『最強の式神』の『完全召喚』に耐えられたのか!?」
「耐えましたね。お嬢様は『式神』に関して、気力の消費がどうも極端に少ない……いえ、もしかしたら」
優先生は顎に手を添えると「先程、氷平さんを、ああ、『最強の式神』の呼び名をお嬢様がつけました。本人も気に入っていらっしゃるとか。その氷平さんを、先程絶縁を伝えた氷室家の前でいつも通りサイスで出しました」と、氷平さんの話を真剣に語り出した。
「うん、とんでもねーことをサラッと投下しやがったが、氷室家についてはこの際、どうでもいいな。絶縁とか今更じゃねーか。で!?」
一応ツッコむけど、とっくに籍を抜けたことを聞いていたらしい彼は、受け流して話を聞きたがる。
なるほど。
研究肌の優先生の語りを、熱心に聞く大人が銅田さんなのか。結構似合うのね。
「でも、サイスだけではなく、巨大な骨の右手まで出てきたのです。気力がいつもより奪われた感覚はしましたが、あとはいつも通りの維持でした」
「『最強の式神』の右手とサイスが『召喚』出来るようになった!? お嬢様の『完全召喚』には及ばないが、お前も前進じゃないか!」
「それだけではないのです。氷平さんの感情がなんとなく伝わったのです。私が拒否して絶縁を言い渡していることに愉快そうに笑っているのが……カタカタと顎を鳴らして笑うのが異空間から聞こえてきましたが、それではなく、繋がりを感じているところから、愉快な感情が伝わりました。父が”氷室家の生まれだろ”と声を上げた時、私の錯覚かもしれませんが、同じく不快感を湧かせた気がしましたね。お嬢様はもっと具体的に受け取れるようですが、私はまだまだ曖昧な感情です。もしかしたらですが……もっと以心伝心を可能に出来ればもっと『召喚』可能部位が増えるのかもしれません。お嬢様が『式神』に対して気力を大きく損なわれないのは、恐らく同調しているが故なのではないかと」
同調。それが、私が『最強の式神』を『完全召喚』しても、気力をごっそり奪われなかった理由か。
「それって、お前さんも同調具合がよくなれば! 『完全召喚』も!」
「いえ、もうそんな高望みはしません。氷平さんは、昔から私を見守ってくれていましたしね。今でもサイスだけでも十分です。でも同調して以心伝心はしたいですね」
「カーッ! くすぐってぇー話だなぁ? 自我を持ってお前さんに力を貸してたとなれば、確かに見守っていたということになるな」
「ええ。お嬢様ほどでなくとも、彼の返事を受け取れるほどにはなりたいですね」
温かい目で話しているところ悪いが、私も話に参入させてもらう。
【銅田さんのトグロの気力の消費はどの程度ですか?】
「ん? 俺はぁ……『完全召喚』だとそれなりに、かな。弟子が言うにはしんどいってレベルらしいな」
カラリと、銅田さんは笑って見せる。
【その点は、やはり生みの親だからでしょうか? 私の『式神』は特殊ですから、気力を全く消費しません】
「ん? んん?
笑い退けようとする銅田さんに【いますよ。この部屋にもういます】と見せた。
ピタリと止まった銅田さんは、私と優先生を見比べる。
ぐるりと部屋を見回しては、藤堂と月斗を凝視。
「自分、人間でーす」と藤堂。
「吸血鬼です」と、ケロッと月斗。
『式神』疑惑、否定。
キーちゃんを呼びつつ、抱えている月斗を手招き。キーちゃんは私の呼びかけに反応して、うつろうつろに顔を上げた。
「そこまで信用します?」と、文句を垂れる藤堂は、スルーである。
「なんか……抱えてるのか?」
月斗の腕を凝視する銅田さんに、私の了承を確認してから「はい。舞蝶お嬢の『式神』抱えてます」と答えた。
「姿を消す能力の『式神』か?」
「いいえ? 私がその『式神』が見えない結界を張りました。普通の隠蔽の術式では、その『式神』の気力が強すぎて隠しきれないので、知恵を絞って新しい術式を作りました。手を近付ければ、冷気を感じるはずです。縛りによって見えない者には、その冷気で幻覚を強めた術式が作用していますから」
「またサラリと…………か、噛まねーよな? 自我があるんだろ?」
恐る恐る手を伸ばす前に、一応確認しておく銅田さん。
「大丈夫ですよ。お嬢様のために怒ったり、氷平さんの強さに怯えたり、そういうことがなければ、あらぶったりしませんし、主食は花のみです。噛みません」
「すげぇーな自我のある『式神』……って待て? 主食ってなんだ? え? 『式神』が食事するってことか? うおっ!? つめてぇビビった!!」
震え上がる銅田さんは、見えないキーちゃんの周囲にある冷気に触れたようだ。
「冷気は感じるが……存在が感じられねぇな?」
軽く腕を組んで見える月斗の中に手を突っ込んで探る銅田さん。
遠慮ないな。
こちらから見れば、キーちゃんだけを器用に避けているように見えるんだけどね。今まさに、キーちゃんのとぐろのど真ん中に手を突っ込んでいるのにな。
【月斗。キーちゃんのこと紹介して】
「え? 俺から紹介していいんですか!?」
「キーちゃん? それが『式神』の呼び名?」
「はい。正式名は希龍です。希望の龍で、希龍。白い大蛇みたいな姿で、ガーベラを眉にして、背中の鱗はダリアの花びら! 目は黒くてつぶらです!」
私の許可を得て嬉々として紹介した月斗。
途中から見えたのか、きょとりと近距離で見ている銅田さんと目が合ったキーちゃん。
銅田さんは、ビクリと息を止めた。そして停止。
キーちゃん。銅田さんに挨拶してあげよう?
と心の中で言えば、首を傾げたキーちゃんは、礼儀正しくペコリとした。
「いたーっ!!!」と、びくぅううんと震え上がる銅田さん。
キーちゃんもびっくりしてしまい、ズボッと月斗の服の中に入り込んだ。
「あっ、お、驚かせたのか!? だよな!? す、すまん? ごめんな?」
「そうですよ。赤子のように幼いので、驚かせないでください。先週生まれたばかりですよ」
「先に言ってくれや! 赤ちゃんだ!」
あせあせとあやそうと必死な銅田さん。もごもごしながら、なんとか月斗のシャツから顔を出すキーちゃん。
「驚かせてごめんなー? 俺も驚いたんだわ。…………すげぇな。
つぶらな瞳を見つめたあと、断言した。
「花を食べますし、睡眠もとります。まさに『
「……!!」
「花は気力を摂取して、動けるように補充するためでしょう。睡眠の必要性はわかりませんが、今直前まで、うたた寝していて、毎晩お嬢様と寝ては朝に起きています」
「……『生きた』……『式神』だっ……!!」
驚愕に震える銅田さん。
「どうやって作ったんだ……どうして作れたんだよ……」
「色々ありましたが、きっかけはお嬢様の術式使いとしての特性を確かめるために紙で作った龍を庭で『式神』として作成しようとしたら……奇跡が起こってしまったのですよ」
「紙か! 俺はアルミ板でこだわって作成したんだがなぁ。なんで俺のトグロは自我がないんだ?」
へぇ? アルミ板が、依代だったのか。
【銅田さんの『式神』トグロの制作秘話も知りたいところですが、今日はもう帰らないといけません。こちらとしても自我がなくとも『最強の式神』と並ぶ『式神』には興味がありますので、情報交換しましょう】
「お、おぉう……。なんだって語ってやるぞ。もうそれしか先輩面出来る場面なさそうだ……大人びすぎててタジタジだわ」
頭の後ろを掻く銅田さん。
「お嬢様の『生きた式神』と、国彦さんのトグロは対称的ですからね。違いを探してみましょう」
「楽しそうじゃねーか。まだまだ根掘り葉掘り聞きてぇーが、しょうがねぇな、帰してやるよ」
嫌々そうに言いつつも、ちゃんと出てきたキーちゃんの頭を撫でて、『式神』トグロをすぅー、と消す。
「で? いつぐらいに雲雀のお嬢様も交えて会えそうなんだ?」
「あー、当分は無理ですね。引っ越しや転校もあって、忙しいと思うので」
眼鏡の奥で優先生は、視線を泳がせた。
「引っ越し?」と、キョトンと目を瞬かせた銅田さんは勘付くことなく「そうかぁ、それじゃあ、お預けだな。まぁ都合がよくなったら、『式神』の作成や考察を議論しよう」と、ニッカリと笑いかけた。
私にも笑いかけられたので、コクリと頷いておく。
三時間のリムジン移動で、雲雀家本邸にご到着。
バッタリと、ちょうど帰ってきた父と鉢合わせした。
「……マスク?」と、私の口元に注目する父。
おかえりだろ、第一声はよぉ。
「ドライブ中に歌いすぎて、今日はもう喉はお休みなんですよ!」
私の冷めた目を隠すために間に割り込む藤堂。
「大丈夫なのか?」
「はい。疲れただけなので、今日声を出さなければ、問題ないですよ」
優先生が私を抱え上げた。私はポケットからスマホを出して、面倒なのでメッセージを送信。
ピコンと音が鳴り、父は袖からスマホを取り出した。目を見開いた。
【明日時間を作ってもらえないでしょうか? お話したいことがあります】
「明日は夕方前には戻る。夕食を一緒にとる前でいいか?」
【夕食は自分の部屋でとります】
「……そうか。じゃあ、明日。帰ったら、増谷に呼びに行かせる」
キッパリと間入れずに夕食の誘いを断れば、しょげた雰囲気を醸し出しながらも、護衛としてついている増谷を顎で差す。ペコッと頭を下げる増谷。
先に廊下を進んでいく父一行を見送っていれば「お嬢。何を送ったんです?」と藤堂が気にするから、優先生に抱えられたまま、スマホのメッセージ履歴を見せた。
息を呑んだ藤堂は、緊張で強張った上、暗い顔をして俯く。
……? 妙に、深刻に考え始めたみたいだな?
まぁ、藤堂が深刻に考えてもしょうがない。変わらないことだ。
藤堂も弱味でしっかり逆らえないはずだから、変な真似はしないと思うけど、優先生に見張ってほしいと目配せしておいた。
藤堂をチラッと見ると、大丈夫、と込めた笑みをくれた先生。流石です。
優先生が実家としっかり決別したので、私の番だ。
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