♰88 えげつないスペシャル後輩。



 そこはかとなく、お怒り雰囲気の優先生。


 「早速ですが……私から『最強の式神』について聞きたいなら、あなたの『式神』を見せていただけませんか?」


 え。相当怒ったの? せんせ。

 それっていざ聞いたら”私は『完全召喚』してません”とか、しれっという気では???


「ん? それってつまり……雲雀のお嬢様に見せるってことだよなぁ? いやでも、なぁ? お嬢ちゃんに見せるには、ちとなぁ」


 苦そうに笑う銅田さんは、予想に反してノリが悪い。

 お安い御用! とか軽く『召喚』しそうなのに。


「問題ないですよ」と優先生が言うので、私も便乗して頷いて見せる。


「そこまで言うなら……んじゃあ、を見せてやりましょう。見てくれはムカデなんで覚悟してくださいよ? お嬢様」


 頭をガシガシと掻いたあと、そう躊躇した理由を話してくれた。

 ムカデの姿をした『式神』で呼び名はトグロ?


 銅田さんの背後に文字が浮かぶ。術式だ。

 銅田さんが背負うように闇が広がるとそこから蛇のとぐろを巻くように巨大なムカデが現れた。白いムカデの足は、カマのように鋭利。シャキシャキと音まで鳴らしているが、折りたたまれているようにも見える。あれは、伸びそうだ。すごいな。複雑で大きなカラクリみたい。


「おっ。怖がらなかったな」


 と、ケラケラしている銅田さんの言葉で思い出す。


 部屋の隅っこで月斗に抱えられているキーちゃんを振り返ってみたが、案の定だ。

 でろーんと脱力して、スピーと爆睡中。


 優先生を見上げて、フルフルと首を横に振った。


「! ……そうですか」


 と、目を丸めたあと、興味深そうに『式神』トグロを見る。


「なんだなんだ? 何を納得してるんだ? 優」

「……以前、『式神』に意思があるのどうかの議論をしたでしょう?」

「ああ、したな。俺はないと言い切った。コイツに意思、自我ってやつはないな。冷たいと言われても、道具だ。俺の意思で動き、自己防衛に身を守る道具さ」


 コンコンとムカデの白い身体をノックをして、言い切った銅田さん。

 残念そうではあるから、動く道具に心がないのは、彼としても寂しいのかもしれない。


「はい。自我はないようですね」

「ん? なんだ? 前は、”意思はあるんじゃないか”って悶々としていたくせに」


 クシャッと笑う銅田さんに「いえ、『式神』全部に自我がないわけではありませんが、国彦さんの『式神』に自我がないと言っているだけです」としれっと返す優先生。

 意地悪である。


「……ん???」


 目をパチクリする羽目になる壮年の男性。


【私の知る『式神』は二体とも、名前を思い浮かべるだけで返事をしますが、トグロというそちらの『式神』は意識の気配もありません。確かに道具という感じですね】と、タブレットに打ち込んだそれを見せた。


「え……それ、待て。お嬢様が打ったのか? 今打ったのか?」

「そうですよ。頭脳明晰で聡明なんです」

「ツッコミが追いつく気がしねぇが漢字が使いこなせすぎだろてか二体も自我のある『式神』ってどこの『式神』だってかどうやってトグロの名前を知ったんだよ見えたのかよつえぇええ」


 一息でまくし立てた銅田さんに「追いつきましたね、ツッコミ」と平然と言う優先生。

 完走した銅田さんは、ゼェゼェと息切れ状態。


【元氷室家の『最強の式神』と私の『式神』が自我を持っています。あと名前は『召喚』時に見えました】

「マジで初見で見たのか!? 『最強の式神』とお嬢様の『式神』……? ……ん? 氷室家ってなんだ? ””って」


 ガビーンとショックを受けたご様子で呆けた顔をしたけれど、気が付く。


 流石にスルー出来ない部分よね。質問を受けた優先生は、予め決めていたので、明かした。


「国彦さんだから舞蝶お嬢様とともに明かすことに決めましたが……”氷室家の『最強の式神』”とは最早過去のことです。氷室家の血族しか召喚出来ない縛りから解放しました。それが”彼”……『最強の式神』の望みだったのです。それを突き止めたのは、他でもない舞蝶お嬢様です」

「は……? いや、なんで……?」

「お酒でも飲んでゆっくり語りたいところなんですが、あいにく長居が出来ないので、手短に教えますね。舞蝶お嬢様は、今のように国彦さんのトグロの術式も見えました。私の術式も見て、それで『最強の式神』を『完全召喚』しました」

「……はい?」

「お嬢様が話してくれたところ、名前を思い浮かべたら、”出来そう”だと直感的に思えたそうです。そして名前から『最強の式神』が解放を条件に助けると提案してきたそうです。危機的状態だったので『完全召喚』で出てきて助けてくれた『最強の式神』は、お嬢様のヘッドショットで顔に張り付いていた氷、氷室家の縛りの象徴から解き放ったわけです。舞蝶お嬢様は、無敵なほどに超絶天才な才能をお持ちです」

「…………」


 銅田さんが言葉を失って、私と優先生を交互に見ているし、挙句にはなんとも言えない顔でそっぽを向く藤堂の反応まで確認して、トグロに巻かれて隠れてしまった。

 見えないんですけど。



「理解が追いつかね!!」とムカデのとぐろの中で絶叫。


「6歳が『完全召喚』!? 『最強の式神』を!? 優ですら7歳の最少年天才の召喚者だったよな?! 超えた!! その上で、血の縛りを解くってなんだよ! その前に、『最強の式神』の術式が見えたって!! 直感的に、ってなんだ!! とんでもねぇ! えげつねぇ!!」



 どんどんと叩く音がするから、ムカデの身体を叩いているのだろうか。


 これ放っておいて大丈夫なの? と指差せば、別にいい、と言わんばかりに手を振る優先生。

 よく親しくなれたね? 熱血と冷血のコンビ???


 カタカタとムカデのとぐろが緩んだかと思えば、頬杖をついて明後日の方角を見つめている銅田さんが「上には上がいるどころか、上には遥か上がいるってことか……?」とぼやく。

 吹けば消えそう。大丈夫ですかー?


「そうです。我々は天才術式使いですが、お嬢様は超絶天才術式使いです。遥か上のお方です。なので、先輩面をするのもほどほどに。我々が先輩面出来るのは、先に術式を覚えて使える点だけです」


 優先生。やっぱり先輩面発言、怒っていたんですか。

 でもそれやめて。マジやめて。


「おい。めちゃくちゃ上げられて、困っているぞ? スペシャル後輩が恥ずかしがっているぞ?」


 スペシャル後輩呼びもやめて。

 オロオロしていれば、気が抜けたようでへにゃっと笑う銅田さん。


「それで、お嬢様の言う『式神』とは? まさか、その歳で『式神』を作成したとか」

「そうですよ」

「そのまさかかーい!!」


 仲良いな。



 

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