♰87 急遽、術式使いの名家へと突撃。
急遽、決まった優先生の家への突撃!
とはいえ、優先生が一人で乗り込んだだけ。
月斗の影を繋げて、せめて優先生が拉致監禁されて『完全召喚』の秘訣とか拷問で聞き出されないようにしたかったのに、優先生に拒まれた。
普通にカマだけでも氷平さんが強いので捕まる心配がないらしい。
……なんでそんな先生を”
実家に連絡している隙に、藤堂に盗聴器を用意させた。
げんなり顔をしたけれど、はよ寄越せと手を出せば、すんなり出した。
盗聴器をほぼ常備ってどういうこと。ツッコまないであげるわ、今回だけよ。
ハグして送り出す隙に、襟下に盗聴器を設置。
スパイ向きでは? 私、すごい。
三時間車にいたので、外で待ちながら、藤堂の持つデバイスから盗聴した音を聞いた。
かなりのドロドロ。
相手が相手で、強欲で傲慢、そして愚か。
よくもまぁ頑張ったものだ。優先生はこんな人達のプレッシャーに堪えてきたのだから。
あの優先生が天才術式使いと名を馳せているのに、まだ足りないからと”出来損ない”と罵るとは。許せん。
そんな氷室家の当主の座など蹴っ飛ばして、なんなら籍を抜いているとまで言い放った先生。
キャー素敵!
『召喚』された氷平さんも、ご機嫌に暴れたらしい。
まぁ自分を縛ってきた家系なんだら、少なからず憎いよね。所有物扱いだし。
傲慢クズ。そりゃ氷平さんも、優先生を手助けし続けたわけだ。
戻ってきた優先生を追わないように氷の壁を術式で作ってしまったけれど……あれ、いつ解けるかな。
溶けるかな? まぁどうでもいいか★
藤堂が優先生につけた盗聴器を回収して、やっと優先生は盗聴に気が付いた。
あの傲慢クズな親戚の声を聞かせたくなかったらしい。落ち込んだ彼の頭を撫でておく。
盗聴は今回限り、と言われるけど、ケースバイケースだよね★
優先生のオススメのとろろおそばを食べにゴー! 予約がいる名店だって!
なんかどんどん舌が肥えそう!
デザートは、きな粉とお餅のお菓子のお店! 優先生の好物だって!
ワクワクしながら、足を揺らしていれば、藤堂が異様に静かなことに気が付く。
全然優先生に悪癖を発揮していない。
せめて”クズな家だなぁ”とか言いそうなのに、それすらもなく、考え込んだ風にそっぽを向いている。
そういえば、盗聴中から複雑そうに顔を歪めていたっけ……。何か思うことでもあるのだろうか。
尋ねようとしたら、ケホ、と小さく咳を出してしまい、主治医の過保護が発揮されて、今日はもう声を出してはいけないと、ドクターストップをかけられた。
……行きの車内で、調子に乗って歌いすぎた。
だって外を眺められないし、走行中は字が見れない打てないから、研究資料も覗けないし、直接声を出したり歌ったりして、リムジンドライブを楽しむしかなかったのだ。
ちゃんと一曲歌う度に、のど飴休憩したのに。完治していない喉には、十分負担だったらしい。
とろろそばに感激して「 おいしい 」って言ったら、お叱りを受けた。
主治医の言いつけを破りました、すみません……。
「……あ。お嬢様。申し訳ございませんが、寄りたいところがあるので、菓子を持って行っていいでしょうか? その店の近所なので」
スマホを見た優先生は、近所の誰かに呼び出されたみたいだ。
首を傾げて、疑問の視線を向けていれば。
「ほら、話したでしょう? 家自体は元々強力な術式使いではなかったのですが、現当主は天才術式使いの一人として名を馳せている銅田(どうだ)国彦(くにひこ)さんです。『最強の式神』と呼ばれても遜色ない『式神』を作られた方です」
あ! 聞いた! 確か、強力な『式神』を作れたことで、脚光を浴びることになった銅田家の天才術式使いだ!
うんうん、と頷いたと、また首を傾げた。
親しいとは聞いてたけれど、呼ばれるほどなの?
「どうやら氷室家に手の者でも忍ばせたのか、私が実家に戻ったことを知ったようで……近くに来ているなら顔見せに来い。ついでに『完全召喚』について教えろ、と。元々『式神』関連で話し込む仲ですからね。聞きたがるのは当然です」
まんざらでもないけど、と苦笑する優先生。
「お嬢様も喉がよろしくないので、長話にならないように適当に切り上げておきます。……お嬢様?」
がしりと優先生の服の裾を握り締めて、期待の眼差しを向ける。
「アハハ……わかりました。お邪魔することを伝えておきますね」と会わせてくれるとのこと。
「ええー……俺、もう術式使いの名家はお腹いっぱいなんですけど」
【そば食べたばかりだから?】
「確かにそばででもお腹いっぱいですけど、違いますからね。わかっててわざわざ打たなくても」
【だって今日は喋っちゃだめだもの】
「病み上がりで歌うからですよ~。カラオケは完治してからですね。あ。友だち、いなかったすね」
憐みの目を向ける藤堂にタブレットを投げ付けてやりたかった。
ムカつくんだよねー。いつもの藤堂である。
「せっかくですし、国彦さんの『式神』を見せてもらいますか? 参考までに、と。あの人ならすんなり見せてもらえるでしょうが……お嬢様のことは素質がある教え子程度に紹介しておきましょうか?」
氷平さんに匹敵するかもしれないほどの『式神』とそれを作った人、か。
ただなぁ……と、キーちゃんを見上げた。
キーちゃんが怯えて、ひと鳴きで消しちゃったらどうしよう。かと言って、キーちゃんを置いていくのもなぁ。
「まぁ、試してみないと。その『式神』に自我があるかどうかの確認も。希龍には悪いですが、怯えるほど最強がどうかの有無を図らせてほしいですからね」
微苦笑ながら、優先生は提案してくれた。
とりあえず、両手でキーちゃんの顔を包んで、念じて尋ねてみた。
これから新しい『式神』と会うけどいいかな?
キョトンと目をパチクリさせるキーちゃん。伝わっていない。
ヒョウさんみたいに強い『式神』かもしれないけど、いい? と、氷平さんみたいな『式神』だと伝えたら、プルプルとした。
氷平さん、そんなに怖いのかな……まぁ死神にひたすらからかわれているみたいなもんだからね。嫌だよね。
「俺が抱いてますんで、なるべく離れていればいいんじゃないですか? 氷室先生は、あ、優先生って呼んでもいですかね? 優先生は代わりにお嬢様のおそばに」
「構いませんよ」
怯えた希龍を吸血鬼の月斗なら押さえ付けられるから、そう案を出してくれた月斗は、優先生が氷室家を抜けたからか、名前呼び。
すんなりと頷く優先生。
返事は、その二つに対してだろう。
銅田家は、氷室家より一回り小さいけれど、真新しい屋敷だった。
堪能したきな粉のお餅お菓子を手土産に訪問。
ソファーが置かれた洋式の客間で出迎えてくれたのは、羽織と和服の男性。ほうれい線がくっきり刻まれている壮年の男性で、赤銅色の短い髪で活発そうな性格の持ち主が第一印象だ。
「子連れとは驚いた! いつの間に!」とケラッと笑うから、第一印象を裏切らなかった。
「私の患者です。そして教え子でもあります。素質があります」
そんなわけないだろ、と肩を竦める優先生。
どうしようか。かっこ、超絶天才の、かっことじ。が聞こえた気がする。
「患者で教え子? そりゃまた……てか、いくつだ? 5歳くらいか?」
「6歳です。病気で声が出せないほど喉を痛めてしまったので、主治医となったことが出会いのきっかけです。彼女は『夜光雲組』の組長の娘の雲雀舞蝶お嬢様です。他界した母親が術式使いでした」
簡潔に出会った経緯と紹介をする。
ビックリ仰天。目を真ん丸にしてギョッとする銅田さん。
「『夜光雲組』のお嬢様……?」と恐れおののく。
私は、ぺこりと頭を下げた。
ちなみに私は喋らないことを意識させるためだと、途中で薬局で買ったピンクのマスクをつけられている。……解せぬ。
「おお、おう。自分、銅田家当主の国彦です。って、下手に出るべきだよな……?」と、戸惑い全開で優先生に助けを求めるみたいに目を向けた。
いや、別に、年上らしく、礼儀正しければいいかと。
「いや、術式使いの素質があるってんなら、先輩面が出来るな!? あははっ!」
コロッと気安くなる銅田さん。さてはお調子者だな? あんまり天才術式使いの先輩面していると、優先生に怒られちゃいますよ?
私を崇拝している優先生の眉が、ピクリと動いたわ……。
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