♰60 『生きた式神』をご紹介。(公安side)
「わかった」と一言。
加胡以外の幹部を下がらせて、座椅子に腰を下ろす組長。そばに控える加胡。
発砲事件にまでならなくてよかったと、こっそり胸を撫で下ろす藤堂。まだ。
「お忙しい中、お集まりいただきありがとうございます。その後、重大情報や何か迎え撃つことに関しての変更などはありますか?」
先に確認する藤堂に「いや、ない」と加胡は首を横に振り「こっちも、迎え撃つ準備の方が慌ただしいよー」と、風間も気安く答える。
ホッとした藤堂は、氷室に目配せした。
「では、今回の事件の敵が特定が出来、狙ってくるであろう会合をわざと開いて、そこで迎え撃ち戦うこととなりましたが……その作戦Aをこちらで用意したので、その通りに動いてほしくてこうして集まっていただきました」
そう氷室は、単刀直入に切り出す。
その間、ポチポチと舞蝶はボタンを押す。液晶テレビには、二カ所の建物の写真が映し出された。
「こちらのどちらかに的を絞っていただければ、より精密な作戦を練れます。ですが、もう二カ所での大まかな動きは決まってます。簡潔にまとめれば、襲撃者を一ヶ所に集め、攻撃を仕掛けている最中に術式無効化を発動して、攻撃手段を封じている間に、畳みかけて潰すという作戦です。言うのは簡単ですけどね」
「術式無効化? それは、昨日本邸の結界をあなたの研究の事故で消してしまったという?」
報告を受けていた加胡が確認。
「え? 氷室の研究なの?」と、それは表向きだと聞いた風間は、念のために確認して首を捻る。
「はい。表向きは私の研究成果で、術式無効化を可能に出来たということにしてください。この件について知る者は少ない方がいいです。だから、ここにいる者だけに限らせていただきました」
クイッと眼鏡を上げると、氷室は舞蝶に目を向けた。
表向きは氷室の研究成果。
しかし、実際は舞蝶――――?
一同が注目している中、舞蝶はくいくいっと風間に指を差した。
一瞬わからず、首を傾げた氷室だったが「風間刑事は、『式神』の話を聞いていないのですか?」と気が付いて問う。
「あっ! そうだった!」と藤堂も気付く。
「『式神』? 今回の件で何か?」
首を傾げる風間。一名だけが、知らない。
「簡潔で失礼しますよ? 例の『負の領域結界』は……私達も一応奮闘はしましたが、こちらが先にエネルギー切れで根絶やしにされそうだったところ、舞蝶お嬢様が、氷室家の『最強の式神』を『完全召喚』を成功させて、間一髪で一発逆転させてくださり、私達は九死に一生を得たのです。お嬢様は”完全な無敵”の術式使いになれる才能があるのです」
本当に簡潔なネタバレだ。
藤堂達は、風間を憐れに思い。
「ちょっと意味がわからない説明色々足りない!!」
と、一気にツッコむのもしょうがないと、憐みの目で見た。
「どうして6歳の女の子が『最強の式神』の『完全召喚』が出来ちゃうわけ!? だいたい、氷室家って言ったら、アンタのあのカマだよな!? アレの本体も出せちゃったわけ!? なんで!?」
「何故かということに関してはひとえに、お嬢様が『超絶特別』レベルに天才術式使いだからです。以上」
「うぐぅうう! あとで絶対に聞き出す!!」
あしらう氷室だが、作戦説明するという大事な話があるので、悔しいが今は引き下がっておく風間。
「風間警部にも一応説明はしましたので、十分でしょう」と氷室が声をかければ、舞蝶は頷いた。
ポチポチとキーボードを打てば、液晶テレビに予め書かれた文章が映し出される。
【最初は天才術式使い氷室優が『最強の式神』で『完全召喚』を披露して、敵と戦うことで、私の才能が悪目立ちするようなことを避けたかったのですが、幸い、術式無効化の力を手に入れられました】
「手に、入れられました?」
妙な言葉だと、つい、風間は思わず口にした。
あと、大人びすぎる。誰が作成したんだ、と舞蝶自身が打ち込んだ文と知らず、疑問を抱く。
【昨日、確かに事故で、術式無効化は放たれました。術式の発動が取り消されるだけではなく、その術式を消された術者も、少しの間、術式を使えなくなるという効果付きでした。藤堂の部下で術式が使える四人に実験に付き合ってもらいましたが、最低3分、最長で5分は封じれました。範囲が狭められるほど、効果は比較的長くなりそうです。なので、集めて受けさせます。今回の敵には、おあつらえ向きですよね?】
「術式使いには絶対に嫌な術式だな!?」
すごいと称賛で声を上げる風間。
「3分も封じれれば、術式の戦いに特化した術式使いの組織なんて無力なただの集団! 多くに受けさせれば、こちらは有利!」と、加胡も興奮。
「待て。その術式を一体どうやって手に入れた? 最初の文を読むと、例の『最強の式神』とは関係なさそうだな? 舞蝶」
二人の興奮を鎮めるために片手を上げて静粛にさせた組長は、静かに訝しむように低く問う。
同じ青灰色の瞳を見つめ返して、コクリと一つ頷いた舞蝶。
【この場にいる方を信用しますので、くれぐれも他言無用でお願いします。実は、もうすでにこの部屋にはいます】
ポチッとその文面が表示された。ザッと四人は周りを見回したが、変わったものなどいない。
「(まさか……冷気をまとうモノが、術式を無効化するのか?)」
風間は、舞蝶に注目した。
【面白いでしょう?】と今度はリアルタイムで舞蝶が、文を打ち込んだ。
【正直、愉快です。優先生に張ってもらった結界がここまで隠してくれるなんて、すごいですし、気付かない風間警部達がおかしいです。悪戯してごめんなさい】
「お褒めいただき光栄ですね」
少し遅いタイピングだが、逆に感謝する氷室のタイミングがよかった。
というか名前で呼ばれているのか、いいな。とかちょっと思考がずれたが、無邪気な笑顔を向けられては風間も口元が緩んでしまう。
「結局なんだ?」
「焦らないでください。ちゃんとお嬢様が準備してくださっていますから」
急かす組長に、冷めた目を向ける氷室。
「(あっれぇー? なんか雲雀さんには冷たいのに……舞蝶ちゃんには敬っているなぁ。前会った時も親切だったけども……今は主従関係のような)」
妙な関係性に、視線が左右に動いてしまう風間だった。
【昨日、私は自分の術式使いの特性を確かめるために簡易的な『式神』を作ろうとしたのですが、アクシデントもあって結果的には『生きた式神』を生み出しました】
「はっ?」
「はいっ?」
素っ頓狂な声を出してしまうのも無理もない。
四人の知識でも、6歳が『式神』を作り出すことは常識的にあり得ないと。だが違う。その6歳は、すでに『最強の式神』の『完全召喚』を成功させている。
しかし、なんだ?
『
どういう意味だ? さっぱりわからない。
ちょっと山本部長、どういう意味? いや俺もわからん! というやり取りを目でしてしまう公安組。
【では、紹介しましょう。花をつけた白っぽい龍。名前は、希望の龍と書いてキリュウと読む希龍。キーちゃんです】
「「「「ッ!!?」」」」
液晶テレビの文字を読んだあと、その存在に気付かされた。否応でも気付く。
舞蝶を囲うように、とぐろを巻く白っぽい龍がいたのだ。
花をつけた白っぽい龍。確かに背には菊らしき花びらが散りばめられているし、黒いつぶらな瞳の上には黄色いガーベラを二つつけていた。
【ビックリした?】
そう液晶テレビに文字を浮かべたが、それを見ずとも、その龍に頬擦りされた舞蝶の笑顔を見ていればわかる。
ゾクゾクした。
青灰色の瞳は、ただ自分の反応を楽しむのだ。
面白がられているのに、こんなに愉快なのはどうしてか?
喜ぶと思っているからだ! なんて可愛い子なんだろうか!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます