♰40 お嬢と吸血鬼王子で最強の二人。
ベッドにもぐったけれども……。
早寝……出来ぬ。
そもそも、日中に6時間も爆睡したら、もう夜眠れないよね。
一向にこない眠気を待って、ベッドの中で、横たわって天井を見つめながら、今日のことを振り返る。
三歳までのアルバム。
クソ父親には確かに愛があって、それが腹立ってしまって、むしゃくしゃしていたら、気を遣われて出掛けたのに、そこで襲撃を受けた。
『負の領域結界』という異空間に閉じ込められて、ホラー展開でアクション繰り広げていたけど、私が一発逆転の『最強の式神』の『完全召喚』をして、無事出られた。
んで、6時間以上爆睡。
目を覚ましてから、裏のパワーバランスを目論んだ組織的犯行ではないかと浮上して、思ったよりヤベーことに巻き込まれたな。
相も変わらず、やべー異世界転生だ。
うん、やべー転生だ、と一人頷く。
…………そういえば、あの山本部長って、結局どのくらい偉い人なんだろうか?
公安で部長なら、ググればわかるかな。
気になってしまい、もぞもぞとベッドから下りて、机に向かう。
ベッドの中で電子機器を使っては眠りの妨げになるって、主治医が言うから、机の上にスマホもタブレットも置いてしまったのだ。
……つい、父がくれたスマホより、氷室先生からのタブレットを手にしてしまう。
【公安】【部長】……【警視監】?
【警視監】とは……?
…………う、上から、二番目? トップツー??? お、おお?
そもそも、『公安』って表向きは、ヤクザなど犯罪組織担当しているが。
その実、政府の依頼により、ヤクザとともにグールやらを討伐して回って尻拭いをする警察らしいが……。
待って? あのつるっぱげ、トップツーなの? そんな人が、わざわざヤクザのお家に出向いたの?
組長の娘が襲撃に遭えば、そんな対応も致し方ない?
まぁ、内容が内容だしね。実質、『夜光雲組』が奇襲を受けたことに変わりはないし、仕掛けが全滅を目論んだえげつない術式だったしね。結果的に、トップツーが出てきてよかったのだろうけれども……。
……そうなると、風間刑事ってどのポジションだろうか? 思った以上に、上だったりする?
マジで縋りついて、いいレベル?
そこで、コンッと、ノックが一つ壁から聞こえて、ビクリと震え上がってしまう。
お隣の月斗の部屋からである。
一回ノックしたのは、私が起きているような気配を聞きつけたからだろう。二回しなかったのは、寝ていたら起こしてしまうから。
……そうだ。月斗の話を聞いてないや。
私も、コンッと、ノックをしてみた。
月斗のことだから、きっと部屋に来てくれると思い、襖の方へ行けば「お嬢」と、こそっと呼ばれたので、襖を開ければ、パッと笑みになってしゃがむ月斗。
「眠れないんですか? お昼寝のせいですか? それとも……怖い?」
誰も起こさないように気を付けたように小声で尋ねる月斗。
そんな月斗の手を掴んで、中に引き込んだ。
そのまま、机の前まで連れて行き【眠れるまで、月斗のお話聞きたい】と要求を押し付けた。
「えーと。俺の話ってことですか? ん~。まぁ、つまんないですしね。寝る前に聞くには最適かもしれません」
なんて自嘲的な月斗はとりあえず、承諾してくれたので、そのまま、ベッドへと連れて行く。
「ちょっ。俺は入りませんっ、入っちゃだめなんですっ」
布団を大きく捲ってポンポンとして招くと、小声で拒否。
大慌てな月斗は、ブンブンと首を横に振る。
添い寝して? と込めて、上目遣い。
「グッ」と喉を鳴らす月斗。
ゴクリって音じゃなかったけど、多分飲むのは堪えたんだろうなぁ。
これだと、普通に幼い少女にベッドに誘われて欲情した吸血鬼の図だもん。
「せ、世話係として、だめ。絶対にだめなのである」と、ぶつくさと言い聞かせている月斗。多分、自分に。
「こうしましょう」と添い寝希望の私のために、月斗は掛け布団の上に横になって、私と手を繋ぐ形にした。
……これなら許容範囲なんだ?
イマイチ添い寝との違いがよくわからないけど、寒くないのかと、頬に手を当てると「俺は寒さに強いんですよ。吸血鬼は丈夫なんで」と、心配は要らないと答えた。
「じゃあ、つまらない俺のお話をしますね。さっき話した通り、俺は吸血鬼の王族の遠縁に当たります。ただ、長らく王族らしい特徴は出ない吸血鬼の一家でしてね。……なのに、俺には影の特殊能力が開花しました。それだけは一部には知られていることなんですけども……ただ、他の影の特殊能力持ちよりも、強力なんですよ。むしろダントツで強いと、情報を集めた母が言いました」
小声でそう月斗は語る。もう開封済みの秘密を、ペラペラと話してくれた。
許可も得たから、饒舌になるなる。
「ほら、俺、影をお嬢と繋げられるでしょ? あれ、結構難しいらしいです。でも俺、やれば三人くらいとなら繋げられて、声を届けることも可能です。影移動だって、影に潜むだって、俺だけ。他はせいぜい、自分の影を一メートルくらい伸ばして、それを立体化してズドン、みたいな。俺が今日やったヤツほどの攻撃は無理です」
待て待て。
それだと月斗、超強いじゃん。
「でも一人が強くてもだめなんですよ? 王様、つまりは吸血鬼の頂点に立つわけですが、当然ついてくる下の者がいないといけません。俺は、その器じゃないんでね。そこそこ戦えるけれど、全力は見せないようにして過ごしてました。だって、後継者、俺の他に6人もいますし、そのうち3人の派閥が大きすぎで、バッチバチなんですよ? その3人の派閥に一度に狙われたら、俺なんてチリになっちゃいますよ」
あ。それもそうか。なでなでしてあげた。
月斗は、いい子なんだけどね……。王って器かどうかと問われたらね……うーん。どんまい!
「グスン、ありがとう、お嬢」と月斗。
「俺は興味ないし、そっとフェードアウトさせてもらって、後継者争いと無縁に生きたいんですよ。命狙われたら、普通に母も狙われますしねぇ。あ、父は人間で、俺が15歳の時に戦死しました。他の親戚は、ちょっと俺が”遠縁のくせに王族の能力を持つなんて”って冷たい目で見てきて、居心地悪いのなんのって。だから、一番俺を保護出来そうな『夜光雲組』に賭けで頼ってみようって思ったんですよ。母が救ったことのある組長の妻への恩返しをくれって、厚かましく押し掛けたんです。本当に幸運でしたね。組長は頷いてくれるわ、本邸に置いてくれたわ、追手も刺客もないわ、一番はお嬢とこうしていられるから最高に幸運ですよ」
へにゃりと破顔する月斗。
望まれない、望まない能力を持ってしまったが故に、生きにくいどころじゃない。
逃げて隠れた先に、私がいた。執着するほどの存在との出会いは幸せという。
……吸血鬼。なんてヤンデレ属性な種族なのだろう。
「それでね、お嬢。この際だから、話しておきたい秘密があるんですが、聞いてくれますか?」
なになに?
ちょっと顔を寄せると、手を添えてまで内緒話な形で、月斗は囁いた。
「俺は
目を見開いた。
「これ、母しか知りません。組長にすら言ってませんので、内緒にしてくださいね?」
なんて、しーっと、人差し指を唇に当てて、はにかむ月斗。
いやいや、そんなとんでもない秘密を子どもに言っちゃだめでしょ。
むしろ、墓場まで持っていった方が安全な秘密では?
「そんな不安そうな顔をしないでくださいよ。大丈夫です。使ったとしてもバレにくいですからね。影だって許可を得た相手にしか繋げられないし、その相手の全ての能力を底上げして、超パワーアップ能力。自分にも他の誰かにも出来る俺は狙われますけども……バレません」
けらりと言うけれど、バレたらマズいって絶対。
どちらにせよ、派閥が大きすぎるとか言う後継者三人に知られれば、血の争いが起きるだろう。
取り合い。月斗を味方につけて、他の派閥を潰したら、月斗を始末して、玉座に座っては王冠を被る計画が真っ先に浮かんだ。
バレたらマズいから、今まで秘密にしていたのに。まったく、この子は。
むぎゅっと、頬とつねってやった。
「なんれ???」とわかっていない。
ふぅ、とため息を吐く。
不安げな月斗のために、掌を借りて、そこに人差し指でゆっくりと文字を書く。
【月斗は私のもの】
ちゃんと読めたようで「ンンッ」と噴き出すのを堪えたあとに、ゴクリと喉を鳴らした。
薄暗いが、多分真っ赤になっているだろう。
「はい……俺は……お嬢だけのものですよ」
はにかんで告げてくる月斗。
私も、にこりと笑って返す。
【私達、最強だ】と書けば、クスクスと笑い「本当だ。俺達、群を抜いて特別最強ですよ」と冗談交じりに言う。
【公安ではたらく?】
「んー……。どうなんでしょうね。俺はお嬢が行く場所にどこまでもついて行きますよ。でも今はごたごたしているから、迂闊に動かない方がいいかと。まぁ、でも……事情を話せば、山本部長も風間刑事も、歓迎しますよね、きっと」
真面目な話だと理解してくれて、そうしっかり返答をしてくれる月斗。
山本部長も、強面なスキンヘッドではあったけれど、話を聞く限り、お人好しっぽいしね。
子どもが冷遇されていたとなれば、術式使えるぜ★、しかも高レベルの才能だぜ★、という理由を前面に出していけば、預かりやすそう。
氷室先生もついてきてくれるかなぁ~。
もう専属主治医になるみたいだけど、術式の先生も務めるし、ついてきてくれそうだ。
今回の敵の件が片付いたら……か。
喉の回復とどっちかな。と、自分の喉をさする。
「どっちが先でしょうね? 解決と回復」と読み取ってくれた月斗は笑った。
「……痛い思いはしないでくださいね?」
心配してくれる月斗だったが、どうやら、声を出して喉を痛める以上のことに対しての心配を込めているらしい。
頷いて見せて、月斗の頭を撫でる。
それから繋いだ手に、頬擦り。
月斗がゴックンと盛大に喉を鳴らしたが、気にせず瞼を閉じた。
……さてと。
もうこの家を出る意思は固まった。ただ、タイミングだ。
先ずは、月斗と氷室先生に、記憶喪失を打ち明けるタイミング。
それから相談しながら、この家を離脱する準備を。氷室先生も何か策を出してくれるかもしれないしね。
今のところの目安は、公安の保護を求める。それが、一番安全な気がした。
大人しく父が家を出ることを承諾してくれないなら、強引に出て公安に逃げ込む方が得策。
……本当に、今回の事件次第だ。早く片付くといいけれども。
そう思いながら、目を閉じた。
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