♰24 術式の『式神』の研究と血筋と才能。
余裕で四人が後部座席に座れるリムジンの移動中。
一番後ろの座席は私の特等席で、左右に月斗と氷室先生が座る。
右斜め向かいに藤堂。彼もまたそこが決まった席らしい。その隣には護衛二人。前方の運転席と助手席も、また護衛の組員だ。黒スーツ。
藤堂がタブレットで、ショッピングモールにどんな店があるのかと、写真を見せて口頭で説明してくれる。字を見ると、私は車酔いするので、写真だけ。
それよりも、氷室先生の研究が知りたいという質問を突き付けた。
予め、メモを用意しました。ドヤぁー。
【先生の研究の話が聞きたいです!】
その文字を見て、クスリと笑う氷室先生。
「気になるのは、昨日の現象ですよね? あれは、私の家系が受け継いでいる術式です。先ず、術式を知らないのですね? 術式というのはですね、どう説明しましょう」
微笑んで答え始めてくれた氷室先生が、迷っている隙に「忍法みたいな! ほら、昨日教えてあげたマンガの!」と藤堂が言う。
彼のことだからいい加減なことを言っているかもしれないので、確認のために氷室先生へ顔を戻す。
「まぁ、古の時代からある秘術としては、忍者のそれと大差ないのかもしれませんね」
とのこと。
あながち間違っていない例えだった。
忍法的な術があるのか。
そうかぁ。あの死神のカマを出現させたり、敷地を結界で守るような、そんな術があるのか。
「まぁ、吸血鬼のいう特殊能力持ちのように、人間には血筋と才能が揃っていないと不可能ですが、使える特別な力があると言うことです。私はそこの血筋でしてね。あ、そういえば、お嬢様の母親もそういう家系の出だとお聞きしましたよ」
とんでもない情報が出てきてびっくり!
血筋! 条件がクリア!
【私もカマ出せるの!?】
思わず月斗のスマホを借りて、興奮で即尋ねた。
「いいえ。あれは、私の家系だけの特別な『式神』です」
氷室先生は、私の好奇心をクスクスと笑って、首を横に振る。
「古に苦労して作り出した『最強の式神』の一つなのですが……もうずっと、私のようにサイスのみしか召喚出来ないのですよね。また、あの『式神』の『完全召喚』が、氷室家の悲願でした……」
頬杖をついた氷室先生が遠くを見るような儚い横顔をするから、下手な言葉をかけることなく【?】だけを見せる。
「『式神』とは、力を集めて込めて作り上げたような存在のことです。私が昨日出したのは、『式神』のほんの一部です。なかなか強情な『式神』でしてね。認めた者でもなければ、サイスの先すら貸してくれません」
【式神には、意思があるの?】
「それは、研究課題の一つですね。相性の問題か、実力の問題か、『式神』の意思の問題か。古の『式神』は強力です。その分、他家も召喚しきれず持て余しているのが現状です。解決方法を見付けられたら、術式界も発展するので私は研究をしているのですよ」
研究と聞いて、氷室先生が”人体に興味がある”と発言したことを思い出す。
それと『式神』が関係あるのだろうか?
「天才化学者も持て余す『式神』ですかぁ~。あれで『式神』の力の一部? おー怖い怖い」
明らかに挑発した態度の藤堂。
感じ悪……。
「なんで研究者なのに、“天才化学者”と呼ばれているんです?」
月斗が首を傾げる。
確かに。どっかで言い間違えてそのまま噂が広まったとか?
「…………まぁ、化学も少々かじって、それなりに役立ったからでしょう」
……意味深の間が、ありませんでした? 今。
なんか、ニッコリ笑顔で誤魔化してません?
「しっかし。お嬢が術式使いの家系の子だったとはなぁ……組長が新婚の時は、俺はまだ下っ端だったからな。すぐにお嬢も産まれたし。奥方の家の方は知ってるんですかい?」
「はい、まぁ。それなりの術式使いの家ですけど……舞蝶お嬢様の母親のことを聞いたことがありませんね。術式使いの界隈では。そういえば……」
藤堂も知らなかったそうで、氷室先生に尋ねた。
しかし、術式使いのネットワークでは、私の母は浮上しなかったらしい。
私に何かを言いかけた氷室先生は、思い留まった。
それから「……いえ、なんでもありません」と、気まずげに逸らした目を伏せる。
え。何。気になる。
「結局、お嬢に才能あるんですか? 術式使いって、いつから才能が確認出来るんです?」
月斗がソワソワと尋ねた。
私も知りたい! ソワソワ!
「天才ともてはやされた私でも、7歳からでした。その前から、術式を叩き込まれていたから『式神の召喚』は出来ていたんですが」
氷室先生の憂いた目をしていることに気付かないのか、感じ悪い藤堂が。
「へーい、もてはやされた天才さんはすごいすごい」
と、いい加減な相槌をすると、視線を月斗に移してニヤリと意地悪な笑みを向けた。
感じ悪いな、ホント。
「俺としちゃあ、
「え?」
「お前も特殊能力持ちの吸血鬼なんだろ? 吸血鬼嫌いと思われていたお嬢のいる本邸に居座ることが許される吸血鬼の新入りってだけで、妙だとは思ったが……グールの討伐仕事は文句なし。銃を所持してるが……それって、本当に必要なのか? それとも、必要な特殊能力?」
ニヤニヤと問い詰める藤堂。
月斗はへらりと笑うだけで、目を背ける。
月斗の影の能力って、そんなに言ってはいけないことなのだろうか?
まぁ、特徴にもなるし、身を隠したいらしい月斗としては明かされたくない能力だろう。
「いやいや。ぶっちゃけ、同じお嬢の護衛任務についていると言っても過言じゃないからな。把握させろよ」
「あー、それなら、大丈夫ですよ。使いませんので」
ブンブンと手を振っては、月斗は答えることを避けようとした。
「そこまで頑なに隠さないといけない特殊能力持ち? なら、有名どころの吸血鬼の血族か?」
「……あの~。組長の許可もないんで、俺から話せません」
組長の保護を嵩に立てた月斗に対して、藤堂はつまらないって顔をした。
それを見ていた私と目を合わせたかと思えば、絶対ろくでもないこと閃いた悪い顔をする。
「だが、てめーは組長に隠している秘密を持っているだろ」
「その話なら済んだはずでは?」
氷室先生が、厳しい眼差しを向ける。
「そうだがよぉ。同じ秘密を共有してんだし、いいじゃんか。お嬢は知ってんのか? お前の能力」
「……」
私の話をされては弱い月斗。
その反応で「なんだよ、お嬢は知ってんのか。じゃあ、みんなで仲良く打ち明けて」と言いかけたところで車が停まった。
「到着しました」と、報告する運転手に「はえぇよ!」と、理不尽に怒る藤堂。
お前、ホント感じ悪いよ。性格悪すぎ。
元々近い場所にあるショッピングモールだ。仕方ない。
さぁ、ショッピング!
と、意気込んだものの、壊滅的な体力のなさに、すぐに月斗に抱っこされることとなった。
「ぷくく、ひ弱すぎるお嬢」
笑うな。冷遇お嬢の体力のなさを舐めんなよ、性格悪すぎ藤堂。誇れないけど。
「運動不足に加えて、食事もまともに取れていなかったのですから、笑い事ではありませんよ」
ギロッと睨む氷室先生。暗に責めている。
「側付きが来るまでは、庭とかこっそり一緒に散策したんですけどねぇ……それでもお嬢疲れちゃって」
デートに3回も行ったことは伏せる月斗。デートの際も、バテてごめんよ……。
「まぁ、先ずはそうやって散策時間を増やすことから始めましょう。今日も無理のないペースで買い物を続けましょう。時間はたっぷりあります」
月斗の両腕に抱えられた私に、氷室先生は優しく微笑んで頭を撫でてくれた。
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