♰08 二度目のデートは影を繋げて。
グールに月が押し倒された時はどうなることかと思ったけど、銃が転がってきたし、頭撃てば死ぬタイプだよね?
と頭を撃ち抜いた。
両手で持っておいてよかった。リアルの銃の反動の強さ、すごい。
でも意外と覚悟していた発砲音は、小さかった。それこそ、風船を割ったみたいな破裂音だ。
表沙汰に出来ない怪物を知られないために、銃声は小さくしている銃を常備しているのかな。
もみ合いになっていた月が、真っ先に私を心配してくれたので、私は月の方を心配する。少し髪が乱れているが、怪我もないみたい。
何故か、ゴクンと喉を鳴らしたかと思えば、口を押えて固まってしまった月。
……? 何?
ハッ! グールの血で、喉が渇いて、血の渇望が……!
……って、ないんだっけ?
そういうありきたりな吸血鬼設定は。じゃあ、私の血をあげる必要はないよね。
というか、何故に口を押さえているの?
グールの後処理は、他に任せると言うので、私達はデートに戻った。
暗がりで怪物相手に発砲しておいて、平然と日中の商店街に入るとは、すんごい異世界来ちゃったなぁ~。
真っ先に入ったのは、髪飾り専門店。選びやすいように、抱っこしてくれる月の腕の中で、陳列された商品を見た。月も真剣に選んでくれている。そんな中、目を引いたのは、金色の三日月とそれに乗った猫の装飾の髪ゴム。
可愛いけれどなぁ。
と、手にして、悩む。
だって、これ、部屋に置いたりなんかしたら、掃除はする使用人に見付かっちゃう。つけてても見つかったら、マズい。
直接手を出せとは言われていないみたいだけど、首謀者の耳に入ったら、間違いなく取り上げられては、これを買ってくれた月が罰せられるかもしれないのだ。
それで迷って、月に問われても【失くしたら困る】で突き通した。
そしたら、月は。
「……でも、俺はお嬢にこれをつけてほしいので、俺といる時につけてもらっていいですか? それまで俺が失くさないように持ってますので」
なんてイケメンなことを言い出した!
きっと薄々察してくれて、そうすることを提案してくれたのだろう。
は? イケメン! 好き!!
【ありがとう、月】
嬉しくてニコニコしながらお礼を伝えたら、またゴクンと聞こえるほどに喉を鳴らして、口を押えたまま、身悶えている様子の月。
……さっきから、どうしたの???
「ンンッ。もっと買いましょうか」
咳払いみたいなものをして、他も選ばせようとする月。
喉、調子悪いの……? 吸血鬼も風邪引く?
いっぱい持たせるのは申し訳ないので、そんなに買わなくていいと伝えようとしたけれど、店内の隅っこに、『ラッピングにも使える髪飾り用リボン』という商品のコーナーがあったので、それなら目立たなくて済むんじゃないかと思って、青い色のリボンと黄色いリボンを選んだ。
「その二つでいいですか? 好きな色?」
え? 気付かないの?
首を傾げる月に自分の目を指差した。それから、私と、月を指差す。
「目? お嬢と、俺……あっ!」
ポッと頬を赤らめた月。
はい、買って! と笑顔で差し出すと「ン”ンッ!!」と咳払いする月。
やっぱり、調子悪い? 大丈夫?
受け取ってくれた月に、喉が調子悪いのか指差して尋ねたが。
「ぜんっぜん大丈夫っす!」
と、真っ赤な顔で言うけど、説得力がないような……。
でも、声は普通で変わりはないようだ。
そのあとも、抱えて運んでくれた月は、風邪らしき症状は見せず。
早めにレストランで昼食をとる。
イタリアンレストランで、トマトソースパスタをいただきます。
「夜はもうちょっと早く来ても大丈夫ですよ、厨房。あと、今夜は何を食べましょうか?」
そうやって尋ねてくれた月のおかげで、なんとか毎食いただけるようになった。
本当にすんなり家に戻ってこれて、計算ドリルだけは消えていたし、翌朝ドリルを持って来た使用人は、居心地悪そうな顔をしていた。
小学一年生が小学二年生の計算ドリルをすぐに解いて、びっくりしたか。わはは。
その使用人がいない隙に、窓から月がコンビニおにぎりを差し入れてくれた。
「今日は何します?」
暇していると知っているから、暇潰しすら付き合ってくれるイケメン吸血鬼青年。好き。
デート、と言いたいところだけど、ちゃんと調べておかないと。
まだ母の顔を知らないのだ……。
とはいえ、母親を亡くした私に、母の写真を探したい。なんて言われてみろ。気まずい。
絶対に気まずいじゃないか。気配り上手で陽気なイケメン吸血鬼青年、困るの回。阻止。
とりあえず、偶然発見できることを期待して。
【少し敷地内を散策したい】
と、スマホを借りて伝えた。
「おともします。あ、ちょっと距離を置く感じで。れっきとしたお嬢様と護衛の距離、みたいな」と、おちゃらけて言う月。
テーマ、お嬢様と護衛のお散歩。了解。
それはきっと、吸血鬼に触れてはいけないルールの私に、月が触れてはいないという証明にも必要なのだろう。
昨日ガッツリ抱っこされ続けたけどね。月は悪くないって示すのは、大事大事。
お庭の散策をしたのだけど、またもや体力切れで座り込む。
つ、つかりた……。
おにわ、きれーだなー……。
手頃なベンチがあったので、そこにぐったり。
というか、この屋敷の敷地、どんだけデカいのよ。一日で探索が終わらないってどういうこと?
私の体力が、破滅的にないせい? 私のレベルが足りないせいなのか? 私のせいなのか!?
「お嬢。明日、たこ焼き食べに行きません? 昨日は回れなかったですけど」
遠回しに、私の体力に苦情を言ってる???
いかんいかん。好感度マックスな月に対してまで喧嘩腰になってしまうわ。落ち着け、体力ザコな私よ。
【食べたい。でも、月は大丈夫? お仕事とか】
お仕事とか。あとバレたりとか。
「大丈夫ですよ。俺、ほら、指示がなければ、基本的に自由なんで」
そう言ったでしょ? と、明るく笑いかける月。
自由にしててもバレない立場ってことか。
【昨日のグールを倒すお仕事?】
「そうですよ。怖かったでしょ。ホント、すみません」
【銃と、影の特殊能力を使って?】
「っ……!?」
ビクリと身体を強張らせる月。一気に緊張した空気になった。
え? 何……?
「……お、お嬢……見えちゃったんですか?」
「……」
みえ、ましたね……?
月としてはバレてないと思って、能力を使っていたのか。
確かに昨日の建物は暗かったけれど、角度的に月が影から出てきた姿をバッチリと見えてしまった。誤魔化してもしょうがないので、頷いておく。
「やべー」と、額を押さえる月は、本当に困っているようだ。マズかったのかな?
「お嬢、すみません。俺の特殊能力は、誰にも言わないでくださいっ」
両手を合わせて、頼み込んできた。
おろ? 秘匿すべき特殊能力か何かなのかな? 奥の手とか……。そもそも手の内を明かさないルール的な?
【わかった。約束する。秘密にしなきゃいけない能力を使って助けてくれてありがとう】
「っ。い、いいえ。全然っ」
頬をほんのり赤らめて、フルフルと首を横に振る月は、噛み締めるような仕草をしては口を押えた。
何かを堪え切ったように、ふーう、と、一息つくと「では、ご飯、中で食べましょ? 厨房の冷蔵庫に置いてきたんで、持ってきます」と、にぱっと笑いかける。
そう言って、一昨日、こっそり一緒にから揚げを食べた部屋で、コンビニで買ってくれたサンドイッチを、モグモグと食べた。
夜もまた、月と厨房で待ち合わせて、手作りの料理を振舞ってもらう。
月が買ってくれたあの三日月と猫の髪飾りで髪を束ねてくれるので、私がブラシ持参。
来る前に、ようく髪を梳かしておいてよかった。なにぶん、暇人なのだからね!
翌日。二度目のデート。
お外に出て、またもや体力切れで迷惑をかけたところで、前にも待たせてもらった建物の階段に座った。
「舞蝶お嬢。髪、結び直していいですか?」
隣に座った月は自分の影の中に手を突っ込むと、そこからブラシを取り出したものだから、ビックリ仰天。
「あはは、面白いでしょ? これくらいの物なら、入れておけるんですよ」
便利すぎるな、影の特殊能力。収納機能ありかよ。
「それに……影に触ってみてください」
ずぶ、と手を影に入れて、私にも入れるように言うから、恐る恐る黒い影に手を伸ばす。ぴと、とコンクリートしか触れられない。
「俺しか入れないんですよ。確かぁ、同じ影の能力者なら、可能らしいですが、誰かと一緒に入ることも出来ませんし、誰かを入れることも出来ません。この中には銃とか、予備の弾倉、追加の弾を入れてます。仕事でも、使うのはそれくらいですねぇ」
バレてしまったからと、ベラベラと話してくれる月は、そのまま、髪を梳かしてくれた。
「あと、許可を得た相手の影に繋がることも可能です。だから、繋げてもいいですか? またジュースを買ってきますが、影を繋げていれば、すぐにこっちから出てこれますから」
髪を一つに束ねて、左側に全部垂らすようにしたあと、月は私の影を指差して言う。
許可制なのか。制限があるんだね。あれか。影は結局その人のモノだから、不法侵入出来ないってことね。
許可すると頷く。これでいいのかな。声出せないが、許可したことになる?
「ありがとうございます。あと、影をタンタンと足で叩いてくれれば、すっ飛んで戻ります」
ええ? それって、こっち側の音まで聞こえるってこと?
一瞬、月との影が繋がった時、同じくらい濃く黒くなったけれど、すぐに元に戻った。
影が、ひとりでに動くとか面白ーい。血塗れやら、ゾンビやら、ビックリしっぱなしだけど、こういうのはいいよね。
「じゃあ、今日は動かないように!」
頭を撫でて言い聞かせる月に、かしこまりました! と敬礼して見せる。
……この異世界、敬礼ってある? 変な意味とかない?
やったあとに心配したが、特に気にされることなく、笑顔で走り去る月。
両足を伸ばして、今日のお昼であるたこ焼きに思いを馳せる。
……冷遇お嬢のサバイバル生活が、グルメ生活に変わりつつあるね。まぁいいじゃん。優しいイケメン吸血鬼青年と逢瀬を重ねて、美味しいもの食べさせてもらおうよ。
なんて現実逃避。
だって。現実的解決がわからないんだもん。
結局、母の顔も知らないままだし。家族愛は推し量れないし。いや、そこはもう破滅的に冷え切っているとはわかる。昨日は顔を合わせてないからね、父とは。そもそも、一昨日だって、チラッと目が合っただけだし。
同じ家にいて、父子が会ってない! 壊滅的だろ、家族関係。
月も不審に思ってない辺り、これが当たり前。
……どうしたものか。組長の娘という身分のせいで、警察にも駆け込めない。かなり大きな組織みたいだし、そういう施設に逃げ込んで助けを求めても、もみ消すのも容易そう。他の人に迷惑かけられない。……はぁ。
「おじょーさん」
声をかけられていることに気付いて、横を見上げてみれば、スーツを着た若い男性が笑いかけてきた。爽やか系のイケメン。結構、顔面偏差値、高いよね、この異世界。異世界モノあるあるのような気もする。
「よくここに来るの? 何か見てないかなー? 怪しいものとか」
と、ナンパのように思えるが、とりあえず、怪しい人はあなたですよ。
こんな幼女に話しかけて……。誘拐犯ですか?
私には、たこ焼きを奢ってくれる優しい吸血鬼がいるので、間に合ってます! 釣られませんからね!
「あ、自分、警察ね。こう見えて、刑事」
怪しんでいると伝わって、警察手帳を見せてくれた。
驚き。本当に……? 噂をすれば影ってか。
影の話ばっかりである、さっきから。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます