第74話 炎の剣
マルシャルの国内、『海の神殿』がある島。
魔獣が住み着くこの島に、一隻の高速船が辿り着いた。
乗っていたのは、砂漠の民と森の民の女性三人。カーリィ、メラ、アンナである。
彼女らは、図らずも先遣隊となったモアナ、ライ、レイヴンの献身によって、無事に上陸することができたのだ。
下船すると急いで、戦場へと向かう。
途中、いつも使っていた宿泊用のコテージが設置されている事に驚くも、中でクロウが休んでいるのを見ると、「なるほど」と納得した。
先ほど、クロウが火の鳥に変身するのを遠くから見ている。
それで、体力を使い果たしたのだと、理解できたのだ。
休息の邪魔にならぬよう、三人はコテージを静かに後にして、スキュラの元へ急ぐ。
剣檄の音と魔獣の叫び声が聞こえる方角へ向かうのだった。
魔獣スキュラとの決戦の地は、コテージから、思ったほど離れていない。走ってすぐに到着するのだ。
カーリィ、メラ、アンナは戦闘に参加すべく、それぞれの武器を手に取る。
それまで前衛組の三人だけで戦っていたため、かなり苦戦していると予想したが、意外とそんな事はなかった。
これはモアナとライの高い戦闘力に加え、何と言ってもレイヴンの多様性のあるスキルのおかげである。
魔獣の翻弄されている姿が、さらけ出されているのだ。
ここから、自分たちが加勢することで、一気に勝敗を決しようと、三人は意気込む。
「遅れて、ごめんなさい。今から、加勢するわ」
「おう、待っていたぜ」
最前線で戦う二人のやや後ろにいるレイヴンが答えた。彼は珍しく、剣を持って怪物退治をしている。
いつものダガーでは、スキュラの攻撃を捌くのは厳しいと判断したようだ。
『
そこにアンナが鉄笛で、一時的に仲間全員の戦闘能力を向上させる。これで、特にモアナとライの動きが、目に見えて早くなった。
「アンナさん、ありがとう」
『
ライは自慢の愛槍をスキュラの十二個ある目の一つに突き立てる。痛みで顔だけ悶え苦しむ、魔獣の姿に手ごたえを感じた。
ところが、そんなライの気分にモアナが水を差す。
「アンナから、こんな素晴らしいバフをかけてもらって、その程度かい?」
『
幼馴染を煽るだけの実力をモアナは見せた。電光石火の動きで、何とスキュラの首一つを斬り落としてしまう。
これは操る刀『千鳥』に以前の持ち主デュークのスキル『
「さすがにやるなぁ。僕もこの愛槍『ブリューナク』で仕留めてみせる」
モアナに負けじとライが、深い深呼吸をした後、スキルを連発する。
『
これはライの派生スキルの中でも最大の攻撃力を誇り、無数の穂先が一斉に敵を襲う技だ。
血飛沫が舞い、返り血を浴びながらも槍の名手は攻撃を止めない。
そして、ついにライもスキュラの顔の一つを屠るのだった。
四つ首となったスキュラは、手強いモアナとライから標的を変える。
不思議な音楽を奏でて、この激しい攻撃の起爆剤となった深緑のフードを被った少女に敵意をむき出しにした。
何と四つの首が同時にアンナに襲いかかったのである。
「きゃあっ」
思わず声を上げる森の民の少女だったが、魔獣の牙は彼女に届くことはなかった。
レイヴンがアンナを取囲むように壁を建て、彼女への攻撃を防いだのである。
「以前はデスストライカーに壊されたからなぁ。反省して、より強固な壁を用意したんだぜ」
思えば、その壊された壁の破片でアンナが怪我をするという事態があったが、今度はちゃんと彼女を守り切ることができた。
これも、しっかりと準備に時間が取れた賜物である。
一方、カウンターのように突然、現れた壁に顔を
予想以上にダメージを負い、戦闘の姿勢を保てない。
そこにすかさずレイヴンが長剣の刃を立てるのだが、残念ながら、スキュラの固い皮に跳ね返されてしまった。
「ちっ、技量が鈍らじゃあ、この化物には通用しないか」
ボヤいていると、正気を取り戻した魔獣の牙がレイヴンを襲ってくる。何とか剣で弾き返すのだが、威力に負けて柄の根本から、ぽっきりと折れてしまった。
対魔獣のため、それなりの業物を用意していたのだが、受け方が悪かったのかもしれない。
「こんな事なら、宝剣『ディバイン』を返すんじゃなかったよ」
『ディバイン』とは、イグナシア王国の宝剣の事だ。以前、ちょっとした話の流れで、レイヴンが無理矢理、買い取ったことがあったのである。
ラゴス王が聞いたら、飛び跳ねて驚くことをレイヴンは、平然と言い放った。だが、その実、冗談を言うほどの余裕はない。
いつものダガーを『
かと言って、丸腰という訳にもいかず、ないよりまし程度にダガーを握る。
そんなレイヴンにカーリィが声をかけた。
「サラマンドラさまから念話が届いたわ」
「このクソ忙しい時に、何だって?」
「小僧に、あの時の借りを返すっておっしゃてる!」
何だか分からないが、手助けしてくれるという事だろう。
レイヴンは、「それじゃあ、よろしく頼む」と返した。
するとカーリィのヘッドティカにある赤い宝石が発光して
そして、気がつくとレイヴンの手には赤く煌めく長剣が握られていた。
「えっ、何だ?」
「『
「ふーん」
レイヴンは、試しに何もない空間に向かって剣を振ってみると、刃に炎が纏われる。
それで、この炎が第二の攻撃になるのかと納得した。
「それじゃあ、スキュラ。てめぇで試し斬りだ」
無造作に魔獣の前に身を晒すと、レイヴンは真正面からスキュラに向かって振り下ろした。
先ほどの長剣とは手ごたえが、まったく違う。
切れ味鋭い刃物に対して、『まるでナイフでバターを切るような』という表現があるが、まさしくそうであった。
『
殺傷力抜群の攻撃力だ。これで、魔獣の首は残り三つ。
当初の半分にまで減らす事に成功する。
立場は完全にレイヴンたちが有利となった。その時、スキュラが後ろ脚だけで大きく立ち上がると、前足で使えなくなった首を落とす。
その後、大きな咆哮を上げ、全身が真っ黒に変わるのだった。
「何だ、これは?」
「分からない。大体、スキュラをここまで追いつめたのは、私たちが初めてだからねぇ。つまり、ここからは未知の戦いになるってこと」
海の民のモアナにも分からないスキュラの変化。
なにか不気味さを感じるレイヴン一行だった。
「まぁ、いいさ。俺たちのやる事が変わる訳じゃない」
「その通り。最後まで、油断するんじゃないよ」
前衛にモアナ、ライ、レイヴン。後方にはカーリィ、メラ、アンナ。
当初の作戦通りの陣形を取り直し、魔獣と改めて対峙する。ここからが、本番と気を引き締めた。
何より、手負いの野獣ほど、厄介なものはない。
魔獣とレイヴンたちの間の緊張感が高まっていくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます