第7話
碧が札束を広げたり、お湯の張り方を訊いたりと色々あったが夕食が出来た。
クリスマスに十億円を当てた人が食べるとはとても思えない粗末な飯だった。
「……いただきます」
「いっただきま~す!!」
俺と碧は昨日の晩と同じようにこたつを挟んで座っていた。
この部屋にはテレビが無いから、食事以外は話すしか無い。
「前々から訊きたかったんだけどさ。パ……祥太郎さんって鶏肉好きなの?」
「嫌いじゃ無いけど、好きって言うほど好きじゃ無いぞ?」
碧は鶏肉をまるでホテルで食事するかのようにナイフで切りながら俺に尋ねてきた。
前々からって、昨日遭ったばかりだろ?
「でも、あたしのイメージじゃ割としょっちゅう鶏肉を食べてるけど?」
「それは身体作りのためっしょ?これでも鍛えてるんだから」
俺が先ほどのライオン男に驚かなかった理由、それは俺の職業が関係していた。
俺はフリーの退魔師だから、ああいう手合いはしょっちゅう見るのだ。
「ふーん、でも今日十億円手に入れたけど?」
「あんなのは受け取らない!十万だけ返してくれればそれで良いよ」
俺は十万円の返済で十億を受け取れる男では無い。
十億円は当てた碧本人が使えば良い。俺には関係が無い。
「それじゃあこっちが困るんだよ」
「何でだよ?俺が受け取らなかったら金はお前の物だろ?」
どうしてこの人はしきりに俺に金を渡そうとしてくるの?怖いんですけど。
もしかして、俺はとんでもない事に巻き込まれそうになってない?
「あたしがお金持ってたって意味ないんだもん!使えないから」
「使えない?お前、何か隠してないか?」
聞けば聞くほど怪しい話だ。やっぱり受け取らない方が、賢明かも知れない。
自分では使えない十億円を会って間もない男に渡すなんて都合が良すぎる。
しかも彼女は『使わない』では無く『使えない』と言った。
「……どこからどこまでなら話せるかなぁ……?」
「嘘は無しだからな?」
頬に手を当てて考える碧に俺は念のために釘を刺した。
もっとも、俺には彼女の言っている事が全部嘘のように聞こえるが。
「……嘘は今まで一度も言ってないよ?ただ、信じて貰えないだけで」
「お前は一体、何者なんだ?」
彼女は俺をどうしたいのだろうか?
碧が札束を広げたり、お湯の張り方を訊いたりと色々あったが夕食が出来た。
クリスマスに十億円を当てた人が食べるとはとても思えない粗末な飯だった。
「……いただきます」
「いっただきま~す!!」
俺と碧は昨日の晩と同じようにこたつを挟んで座っていた。
この部屋にはテレビが無いから、食事以外は話すしか無い。
「前々から訊きたかったんだけどさ。パ……祥太郎さんって鶏肉好きなの?」
「嫌いじゃ無いけど、好きって言うほど好きじゃ無いぞ?」
碧は鶏肉をまるでホテルで食事するかのようにナイフで切りながら俺に尋ねてきた。
前々からって、昨日遭ったばかりだろ?
「でも、あたしのイメージじゃ割としょっちゅう鶏肉を食べてるけど?」
「それは身体作りのためっしょ?これでも鍛えてるんだから」
俺が先ほどのライオン男に驚かなかった理由、それは俺の職業が関係していた。
俺はフリーの退魔師だから、ああいう手合いはしょっちゅう見るのだ。
「ふーん、でも今日十億円手に入れたけど?」
「あんなのは受け取らない!十万だけ返してくれればそれで良いよ」
俺は十万円の返済で十億を受け取れる男では無い。
十億円は当てた碧本人が使えば良い。俺には関係が無い。
「それじゃあこっちが困るんだよ」
「何でだよ?俺が受け取らなかったら金はお前の物だろ?」
どうしてこの人はしきりに俺に金を渡そうとしてくるの?怖いんですけど。
もしかして、俺はとんでもない事に巻き込まれそうになってない?
「あたしがお金持ってたって意味ないんだもん!使えないから」
「使えない?お前、何か隠してないか?」
聞けば聞くほど怪しい話だ。やっぱり受け取らない方が、賢明かも知れない。
自分では使えない十億円を会って間もない男に渡すなんて都合が良すぎる。
しかも彼女は『使わない』では無く『使えない』と言った。
「……どこからどこまでなら話せるかなぁ……?」
「嘘は無しだからな?」
頬に手を当てて考える碧に俺は念のために釘を刺した。
もっとも、俺には彼女の言っている事が全部嘘のように聞こえるが。
「……嘘は今まで一度も言ってないよ?ただ、信じて貰えないだけで」
「お前は一体、何者なんだ?」
彼女は俺をどうしたいのだろうか?
祥太郎たちが夕食にありついている頃、暗い路地に二人の男が居た。
「清水大尉の死亡が確認されました」
「……そうか。戦闘記録は回収してあるんだろうな?」
眼鏡をかけた長身の男から報告を受けた初老の男は焼け焦げたアスファルトをなでた。
そこは碧がライオン男を殺害した場所に間違いなかった。
「もちろんです。大尉の死は無駄にはしません」
「ご苦労。火口軍曹に後で私のところへ来るように伝えておけ」
「はっ!」
初老の男、土屋少佐は骨まで燃え尽きた戦友を見つめていた。
清水がなぜ一人で祥太郎の殺害に乗り出したのかを土屋は知っていたからだ。
「済まんな清水。だが、これも人類のためだ」
土屋たちはその場を後にし、夜の闇へと消えていった。
清水が祥太郎の住所を掴めなかった以上、一から探し直すしか無い。
「……清水、必ず仇はとってやる」
「……なあ、碧?いくつか訊きたい事があるんだが?」
「何?やっぱりあたしのスリーサイズ知りたい?」
一方、祥太郎と碧はボストンバッグに囲まれながら鶏肉をつついていた。
祥太郎の買った鶏肉は安い外国産で、あまり美味しい物では無かった。
「違う。未来の俺ってどんな感じ?」
「未来の祥太郎さん?う~ん、結婚はしてるよ?」
碧のざっくりした未来像を知った祥太郎は少し嬉しくなった。
碧の居た未来では、少なくとも自分は結婚しているのだから希望が持てる。
「相手ってどんな人?美人?優しい?」
「……そこは『禁則事項』かな?家族構成は教えられないの」
碧が言うには祥太郎は未来でとても重要な役割を果たすらしい。
しかし、その一方で碧は祥太郎に未来についての情報を与えようとしない。
「どうして俺の家族について教えられないんだ?そんなに重要な事柄か?」
「うん、祥太郎さんに下手に情報を与えると未来が変わるかも知れないから」
碧は未来を守るためにこの時代にやって来たのだ。
だから、未来が変わる可能性は一つでも排除しておきたかった。
「……どんな事だったら教えられるんだ?」
「例えばこれからどう言う事に気をつけるかとかは教えられるよ」
碧は祥太郎とこれからの身の振り方について話す事にした。
「俺はこれからどうなるんだ?もしかして一生、命を狙われるのか?」
自分の能力が認められるのは嬉しい事だが、命を狙われるのは困る。
それに碧だって一生、俺について回る事になってしまう。
「一生じゃないと思うよ?この時代に来た敵はそう多くないから」
「そいつらさえ片付ければ俺たちは自由の身って事か?」
碧はこの時代に来た刺客は少なくとも三体だと言っていた。
流石に十体も敵が来ているはずはないと思うから、多くても五体だろう。
「簡単に言わないでよね?相手がいっぺんに来たらあたしも守り切れないんだから」
「ああ、そうか。こっちから打って出るのはまずいのか」
碧がいくら強いと言っても、敵がいっぺんにかかってきたら対処しきれない。
俺が殺されてしまったら、未来が変わってしまうのだ。
「だから、一つずつ潰して回るしか無いんだよ」
「……思ってたよりも長くかかるかも知れないって事だな?」
敵の正確な数が分からない以上、こっちは慎重にならざるを得ない。
最後の一体を倒す日まで、俺は背中に気をつける事になりそうだ。
「まぁ、あんまり心配しなくてもそんなに何年もはかからないと思うよ?」
「どうしてそんな事が言えるんだよ?」
碧は何を根拠にそんな事を言っているのだろうか?
数年以内にけりがつく保証がどこかにあるのだろうか?
「だって、祥太郎さんは数年後にマ……奥さんと出会うはずだから」
「奥さんだって?それが何の関係があるんだ?」
俺が数年後に奥さんと出会うのなら、余計に事態が深刻だと思うのだが?
まさか、奥さんや子供を巻き込んで戦い続ける訳にも行かないだろうに。
「祥太郎さんが奥さんと結婚したら、敵はもう手出しできないようになっちゃうから」
「……奥さんが俺を守ってくれるって事か?」
今の碧の説明では、俺が結婚すると俺の守りが万全になると言ったように聞こえた。
つまり、人類を救うはずの俺が奥さんに守って貰うと言う事になってしまう。
「うん!祥太郎さんは奥さんに宝物のように大切にして貰えるの」
「え~っと、俺が人類を救うんだよな?」
何だか俺のイメージしている未来と、碧の知っている未来は違うように感じる。
奥さんに大切に守られるなら、俺はどうやって人類を救うのだろうか?
「祥太郎さん、直接戦うだけが勝利に貢献する方法じゃ無いよ?」
「え?じゃあ、指導者か何かになるって事?」
その問いに碧は答えないままだった。何か俺は勘違いしているのだろうか?
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