卒業

くにすらのに

卒業

 勇者には三分以内にやらなければならないことがあった。


「おい! 本当にもう止まらないのか!?」


「無理無理無理無理。そういう術式だもん。この魔法をコントロールできるなら僕一人で魔王倒せるから」


「くっそ。こいつ最後諦めてただろ。これじゃあ俺達が世界を滅ぼしちまう」


「自分の力で滅ぼせれば良し。もし負けてもその時は僕の魔法が行き場を失って世界を滅ぼすから目的は達成できる。結構頭脳派だったね」


「なに冷静に分析してんだよ。滅ぶんだぞ世界が。今日までの苦労が報われないまま死ぬんだぞ」


「まあ人はいつか死ぬし……僕を三十歳まで童貞を卒業させずに魔法使いにした世界だし……別に滅んでもいいかなって」


「童貞なのは世界のせいじゃないだろ! 誰かに恋愛禁止されてたわけじゃないんだし」


「はは……そうだよね。何も行動を起こさなかった僕が悪いよね」


 一度発動したら対象を破滅させるまで消えることがない最強魔法は確実に完成に向かっている。その恐るべき破壊力を乱用しないよう先人は多くの縛りを設けた。その縛りがさらに破壊力を増幅させている。


 三十歳まで童貞を貫き、さらに過酷な修練を積んだ者だけが辿り着ける境地。


 そこに至った魔法使いを世界は絶賛した。しかし、その魔法使いが今まさに世界を滅ぼすきっかけを生み出してしまった。


「不幸中の幸いはこの戦いを誰も見てないってことか。この魔法のせいで世界が滅んだなんて誰も思わない。そしてみんな死ぬ」


「……僕が魔法使いをやめれば魔法は止まるかもだけどね。今から童貞卒業なんて無理……」


「それだ! なあ、性行為以外で他のやつはみんなやってるのにお前だけしてないことってなんだ!? なんとか童貞みたいなやつ、一つくらいあるだろ」


「ん~~~~。あっ! 友達と殴り合いのケンカしたことな゛ぶへぁ!!!


 勇者が魔法使いを殴り飛ばすと同時に完成までわずかだった魔法も消滅した。友達を殴る。勇者が力を振るった最後の瞬間だ。

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