雪山廃村の魔獣戦


 廃村で最も高い建物である礼拝堂──約十八メートル──の屋根に立つ緑青色ヴェルディグリ魔刃騎甲ジン・ドールは外気晒しな魔結晶境面眼マギイリュアイで見降ろす体躯と顔が別種チグハグな白毛魔獣の喧しい咆哮に向かって両手式魔騎装銃ショットアサルトから氷結甲弾フリズブリッドを撃ち込んだ。

 青白い火花のような閃光マズルと同時に可視化された魔力の雪結晶スノウフレイクが氷塊となりチグハグな魔獣の牙目掛けて走り抜ける。


 氷結甲弾フリズブリッドは狙い定めた牙ではなく上唇付近に撃ち込まれ魔獣の血飛沫ちしぶが上がり凍てつく空間に瞬時に固まり、冷たき風に散り消え飛んでゆく、ヤツの咆哮による振動が微細なズレを引き起こした事を緑青色ヴェルディグリ魔操術士ウィザードは冷静と理解をし、次弾装填スライドアクションを瞬時に始める。


 だが、生意気に傷をつけてきた殻かぶりな二足立ちにチグハグな白毛魔獣は更なる怒りをみせる咆哮をより強くあげてくる。厚く凝縮とされた咆哮振動ハウリングは緑青色に空圧の威力で直撃をし、超振動に外装が小刻みに揺れ、重力低減術式グラビトロによる自動制御オートリアクション状態バランスを崩壊させようとしてくる。緑青色ヴェルディグリは堪らず屋根上から騎体がよろけさせ、脚部を大きく滑らせた。銃火に仕留められた鳥のように屋根から落下する。

 下に落ちれば楽なものだとチグハグ白毛魔獣は落下地点へと向け突撃を開始する。高台から見降ろしていた殻かぶりの足場は立ち上がれば自慢の爪で崩し落とす事も容易い。だが、吠え落としに牙で噛み砕く方が手っ取り早く喰いやすい事を野性の狡猾さで理解している魔獣は獲物を中空で噛み砕かんと迫る。


 緑青色の魔刃騎甲ジン・ドールは落下する中で魔力の鈍い光が充血と中央に集まる単眼越しに冷静と見定め真正直な突撃が来ると理解し、真下へと装填した氷結甲弾フリズブリッドを積雪の大地に撃ち込むと雪肌の地面を炸裂と撃ち弾き飛ばした。突撃する魔獣の琥珀色な視界を炸裂な散り雪で奪い、突撃を一瞬と怯ませる。瞬時に重力低減術式グラビトロを繰り、炸裂反動を利用し風荒かぜすさぶ鳥翼の如く衝撃に身を任せ、錐揉きりもみと落下すると寒冷地仕様の脚部外装特有な地をより深く踏みしめる脚裏で中距離の間合いに着地する。魔獣を睨むような低い姿勢で次弾再装填スライドアクションを引き起こすと、憤怒と大口を開け、きょうと鋭い魔結の牙と共に魔結の爪が積雪飛ばしに地を蹴って襲い来る。必ずその生意気な殻を食い破ってやると凶暴な野性をぶつけ来ると理解出来る安直な攻撃だ。


 緑青色ヴェルディグリ魔刃騎甲ジン・ドールは微動だとせず銃口を向け、可視化する雪結晶スノウフレイクを発動させると散と広がる氷結甲弾フリズブリッドを撃ち込んだ。


 大口を開け噛み砕かんとしたチグハグ魔獣の琥珀色アンバーな眼から再び視界を奪い取る。魔獣は野性の勘そのままに牙でそのまま緑青色を噛み砕かんとするが、緑青色は横飛びに肩から積雪を宙に舞わせる転がりで回避すると同時に再装填した氷塊の氷結甲弾を肥大な尻に目掛けて撃ち込んだ。

 屈辱を撃ち込まれた──チグハグ魔獣がそう感じたかは定かでは無いが、より強き怒りは緑青色ヴェルディグリに凶暴と向けられ、両の巨爪で仕留めんと我忘れに振るい続ける。緑青色ヴェルディグリは低減とさせた重力で後方に飛び続け、散とした氷結甲弾を三発、挑発するように撃ち、再装填スライドアクションに手応えが無くなるのを確認し、惜しまずと横へと放り投げ、後ろへと下がり続けた。


 獲物が邪魔な物武器を棄てた事を魔獣の眼は逃さずとらえ、攻撃の手をより苛烈に強める。丸腰を晒したマヌケは最早喰われるしかないのだ諦めろと、その牙を、爪を振り、襲い来る。


 だが、緑青色ヴェルディグリはいまだ冷静とした動きで後方に下がり続け、大口を開けて魔獣が己に飛び込んで来た瞬間に大きく後方に下がり、開けた中心広場に両脚を着地させると同時に左の脚部外装を開かせ射出された青白な刃が煌めく短剣ダガーを左腕で掴むと可視化の雪結晶スノウフレイクを刃に纏わせ滑り来る魔獣の眉間に向かって横凪よこなぎと振り投げた。


 眉間に青白な刃が突き刺さる瞬間、短剣その物が破裂し、先端鋭き無数の砕氷がヤツの顔面に深き傷を与え琥珀色アンバーな視界を完全に奪い去る。魔獣はそのチグハグな体躯に見合う濁り混じった激とした咆哮をあげ続け獲物見えぬままに全身を転がし暴れ狂い積雪を広場に舞わせる。緑青色ヴェルディグリはその暴狂から隙を見抜くように魔結晶境面眼マギイリュアイに魔獣をとらえ続けたまま跳躍運動を繰り返し、何度目かの着地で右脚を強く踏みしめ脚部外装から射出された青白な刀身の鋼刃剣ソードを右腕部で掴み取り、肩に刀身を乗せる構えで姿勢を低くし暴れ狂いな魔獣の元へと駆けてゆく。上から振り降ろされる右巨爪の一撃を疾走と回避し、地を滑り襲い来る左の巨爪を低重力を繰り中空で前転とし、鼻柱に重力を乗せたかかとを振り下ろす浴びせ蹴りをぶつけ、チグハグな魔獣の狼顔と肥大なベア・リグィな体躯を一気に大地に沈めさせた。


 魔獣は視界のほとんど無くなったぼやけた琥珀色アンバーな眼で、二足立ちが見降ろすのを感じていた。それは、己よりも小さな一粒の獲物であったはずなのに、いま、感じられるそれは、巨大な存在であるととらえる。


 魔獣の野性は理解する。獲物は己であり、奴こそが捕食者であったのだと──


 ──緑青色ヴェルディグリ鋼刃剣ソードを両の手に握り真下に構え、青白の刃に雪結晶スノウフレイクを発現させると傷深い魔獣の眉間に容赦なく突き立て、斬と脳天に向かって振り上げた。


 血飛沫が大気を汚し、魔力の氷霧が痕を追った。脳天の裂かれた狼顔の白毛魔獣は暫くと肥大な体内魔力が尽き切れるまで、小さな捕食者の存在を感じながら、ひとつの強食を貪った野性生命としての活動を終えた。

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