三分以内に合格したい!〜じっちゃんの味にまた会う為に、彼は諦めない

るるあ

合格して、根性見せてやる!


 僕には三分以内にやらなければならないことがあった。じっちゃんから貰ったを、おいしく食べる為に。


 「3分きっかりで合格して、食べてやる!!!」



 ★★★★★★★☆★★★



 カップラーメン。

 それは今や伝説の食べ物と言われてる、旧式の簡易食料ジャンクフード


 現代に於いて、食事とは2通りの物である。栄養を摂取する為の固形物と、嗜好品と呼ばれる様々な形状の食べ物だ。

 カップラーメンは嗜好品に当たる物で、今でも様々な味が発売されてはいる。しかし、僕が手に入れたこの旧式は、前時代、まだ肥満による人的被害が深刻になる前の、いわゆる食事法令が施行される前、「美味しさ」のみを追求して食事をしていた頃の、大変貴重な物だ。


 なぜそれが手に入ったかというと、僕は今年で1000年になる、老舗簡易食料会社の6男坊だからだ。

 出来損ないと言われ本家から出て、関係会社の下っ端だった僕だけど、創業者に重用された開発担当のじっちゃん(大叔父)には可愛がられ、一緒に住んでた。よく開発室にも連行されたっけ…。


 そのじっちゃんが先日、185歳で大往生。男性平均寿命は175くらいだったから、長生きだったと言えるだろうな。

 告別式後の集まりで、形見分けで僕に渡されたのが、じっちゃんが味に絶対の自信を持って作ったカップラーメン、1ケース(12個入)。発売当時は幻と言われる程入手困難、作れば作るだけ消えていく勢いを続けていたが、国民健康維持法令の施行により販売停止になったものだった。

 そのカップラーメンが目の前に現れると、親族は追い剥ぎの如く奪っていった。

 「プレミア!」「オークションにかけて…」「大長期保存処理済だから資産として…」なんて言ってたから、せっかくじっちゃんが後世に味を伝えようとしたのに誰も食べないみたい。まぁ、食事法令のせいで旧式食料は食べる時の規制が半端ないけど、でも、なんだかなぁ……。


 そして、僕に残ったのは保存特化段ボールのみ。

 でも、その段ボール箱裏のマイクロチップに、僕へのメッセージがあるのを見つけたのだった。

 えーと、端末で読み込んで。……随分読みにくいデータ加工してるなぁ。この質感なんだっけ?羊皮紙って言うんだっけコレ?



 “坊よ。お前がこの手紙を読んでいるということは、何らかの理由で私はもう、お前のそばにいないのだろう。”


 じっちゃん……。あのゲームがVR移植されてもパ○スが助からないのは理解不能って泣いてたけど、まだこだわってたんだ…。拾った虎猫、名前をゲレゲレにしたら即飼う許可出たもんな…。


 “すでに知っているかもしれんが、私は邪悪な思考で美味しいものが食べられなくなる未来に向けて、美味を追求している。

 お前にはとても不思議な力があった。私にはよく分からぬが、その能力は食の世界にこそ通じるものらしい。たぶん、その能力を恐れるがゆえに冷遇されたのであろう。”


 邪悪て……。

 いや、確かにじっちゃんの味当てクイズは外したことないし、試作決定の時にたまたま僕の選んだ味に決まったけど、偶然だよ…。


 “坊主よ!カップラーメンを食すのだ!”


 話の持って行き方が急だよ。


 “私の調べたかぎり、儂のカップラーメンを受け取り、邪悪な条件をクリアして美味しく食せるのは……食いしん坊という武器と防具を身につけた勇者、坊主だけなのだ。”


 本物の手紙に寄せる為頑張ったね、じっちゃん。


 “私は苦節100有余年、爆売れするカップラーメンを作ることができた。しかし、いまだ伝説の味は見つからぬ……。

 坊よ!金庫のカップラーメン・改を食べ、残りの味を探し出し、勇者を見つけ、面倒な食事法条件をクリアしつつ我がカップラーメンを美味しく食べるのだ。

 ※大事な事なので2回言いました。


 私は、お前を信じている。頼んだぞ、坊!


 ちなみにお主の分のカップラーメンは、貸し金庫★☆○☓22▲に入ってる!詳しくはこのマイクロチップデータで、弁護士さんにお問い合わせください。きみの応募、待ってるよ!”


 伝説の味も何も、開発飽きたからもういっかな〜って言ってたよね、じっちゃん。あと最後もう文書整えるの諦めてよく分かんなくなってるし。勇者って……。


 えーと、とりあえず。

 貸し金庫の事を弁護士さんに連絡するか。



 「坊っちゃん!こんな事もあろうかと、私、弁護士だけでなく食料Gメンの資格も保持しております!旧式食料の攻略、私と挑めば必ずや成し遂げられましょうぞ!

 このサンチョ…山町半太郎さんちょうばんたろうにお任せを!」


 端末経由マイクロチップ発信で連絡を取ったら、遺産?のカップラーメン持参でキャラクターの濃い方が家まで乗り込んでいらっしゃいました。じっちゃん、名前で弁護士を選ぶのはどうかと思います。

 えっ?じっちゃんと山町やまちさんはVR仲間?はぁ、ソウデスカ……。

 いえ、他の方々クランメンバーのご説明は大丈夫です、おかっぱの爺さんとか三つ編みのお婆様とかそんな情報はもうお腹いっぱいです、お構いなく……。


 「それでは、参りましょうか!」

 「は、はい。」


 そんな訳で、はりきりじいさまと共にカップラーメンをする事になった。


 「ところで、坊っちゃんは旧式食料における国民健康維持法令について、どの程度ご存知ですかな?」


 「えぇと、法令対策業務で使うので、一通りは…。旧式食料の摂取は、大長期保存をかける時にその解除条件として、立会人のもと国民健康維持法令検定試験を合格、解除キーを時間内に提示しないといけないんですよね?」

 大長期保存。ブラックホール理論?次元に干渉する?科学粒子がなんちゃら?原理はさっぱり分からないけど、物によっては永遠とも言える期間の食料保存が可能になった。最も、それなりの金額はかかるし、審査に合格しないとその術式?技術?は認可が下りないが。 

 科学も過ぎればファンタジーだと誰かが言ったけど、まさにこの技術はそうだと思う。


 「そうです、よくよくご存知ですね……。(あいつ!坊っちゃんに国家機密スレスレまで教えんでも良かろうに!)」

 眉間を揉みながらため息。山町さん、お疲れなのだろうか?


 「それで、僕は山町さんの立ち会いのもと、そのカップラーメンを開封すればいいって事ですか?」

 

 「そうですな。しかし、このカップラーメンの解除キー入力は、次元装置型となっておりますな。」


 「えっ!?」

 次元装置付きって……このカップラーメン、国宝レベルなの!?


 「いやいや、これはこの技術のお試しで、ある意味マー○…いや、雅子さんのお遊びの一環だったようですから。」

 苦笑いの山町さん。

 ちなみに雅子さんとは、じっちゃんの奥さんだった、工学系研究者の人(事実婚みたいなのだった)。僕も仕事柄よくお会いした(故人)。ばあちゃんって呼ぶと返事がなくて、雅子さんって呼ぶ事が厳命されていたな……。


 「そ、そうですか……。じゃあ、頑張ってやってみます。」


★★★★★★


 それからはもう地獄のループだった。


 まずは一問一答カップラーメン開発クイズが45問。次に国民健康保険維持条例について45問。そしてに、じっちゃんのパーソナル情報について9問。ここまでは大丈夫。


 しかし……。


 「…ぐっ、はっ、はぁ、はぁぁ…。」


 最後が、雅子さん謹製VRルームランナー?なんか走る機械でマラソン。

 旧式食料は、そのカロリー相当の運動をしないと食べられない。その規制に則ってマラソンが課せられたのだろう。これを時間内きっかりに終了できれば、カップラーメン・改が食べられる。


 僕は運動が苦手なので、上手く調整して走るというセンスが壊滅的だった。


 何度諦めようかと思ったか。

 でもそのタイミングで必ず、じっちゃんのホログラムが目の間に現れるんだ。


 「リュカ坊はやればできる子じゃぞ!!」

  (だから僕は竜人だってば!)


 「美味しいじっちゃんの味をゲットだぜ!」

 (じっちゃん、その服装と肩に乗せてる黄色ネズミはアウト!)


 「大丈夫、好きなようにしていいんじゃよ〜。」

 (じっちゃん、僕が諦めそうだと、負けす嫌いを煽るようにそう言ってたよね…)


 じっちゃん。……じっちゃん!!

 何で死んじゃったんだよ!?おいていかないでよ!!!


 「竜人、どこに居てもずっと一緒の気持ちじゃからな。」

 満面の笑顔で、そう言うじっちゃん。


 「…、くっそ、負けねぇ!!」

 絶対食ってやるんだからな見てろじっちゃん!!


 僕は、根性見せた!


★★★★★★★★★★★


 ほっぺを、あったかくて濡れた何かがザリザリなでる。

 「なーぁう〜ん?(ザリザリ)にゃぁ〜ぐるる〜ぅん?」

 柔らかい毛玉?


 「……、っ…、坊っちゃん!!」


 ハッと起き上がる。膝の上に、虎猫ゲレゲレ?

 ここは、VR装置の簡易ベッドの上……。


 「坊っちゃん、無事3分、時間内ゴールを確認しました!検定試験、クリアですよ!」

 笑顔の山町さんが、僕を見てそう言った。


 「あ、ありがとうございます!」

 膝のゲレゲレを撫でつつ、山町さんへ頭を下げた。

 

 その後食べたカップラーメンは、格別の味だった。じっちゃんはやっぱり天才だ。


 僕はカップラーメン・改の味を分析し、そのデータを会社の開発室、じっちゃんのお弟子さんへ提出しておいた。

 現物を食べたなんて話をして騒がれると面倒くさいから、あくまでも“遺品整理の片付けで見つけた、じっちゃんの手記から”という形を取ったけど、僕を知ってるお弟子さんにはバレてるかもな……。絶対味覚なんて、僕自身だって信じてないんだから開発室は勘弁して欲しい。


 法務対策課窓際、最高に過ごしやすいからこのままでいたいんだ!!「好きなようにしていい」んだよね、じっちゃん?



 僕は知らなかった。

 家族が僕を守るため、わざとじっちゃんに預けた事。

 じっちゃんの紹介で出会った人がそれぞれ凄い立場の人で、VRで連絡を取って秘密を共有する仲だという事、また、その人達に僕の保護を委ねていた事も。


 そして何故か、山町さんが押しかけじいや?になる事も。

 あのね、サンチョじゃなくてヤマチさん、…あ、…、はい。呼び方に関しては前向きに検討……はい。







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