炎と化学
それからすぐにトーナメント表が完成した。ゼクスは観客席に目を向け、拡声器を使って呼びかける。
「ゲノマ・ゲーム、タッグバトル編! 第一回戦は、
いつの間にか、
「ちょっと、誰と誰がオタサーコンビだって?」
「ぼ、僕はオタクとかじゃないし。アニメとか、興味ないし」
二人そろって、名付けられたコンビ名に不満を抱いた。風花は苦笑いを浮かべつつ、
「早く上がってきなよ、オタサーコンビ」
そう言い放った彼女は、冗談めかしたような表情をしていた。その背中に隠れつつ、由美も少し笑っている。そんな彼女たちの態度は、出雲の逆鱗に触れた。
「行こう、愛姫さん。僕たち、ナメられているみたいだよ」
「そうだね、出雲。愛姫ちゃんたちの力、見せつけてあげないとね」
不名誉なコンビ名に顔をしかめつつ、出雲たちも階段を登った。二組のペアがステージに上がり、互いの陣営を睨み合っている。その光景を見つめつつ、ゼクスはその場で浮遊した。それから彼はステージの横に移動し、合図を出す。
「試合開始!」
いよいよ、二対二の戦いが始まった。風花は手元に剣を生み出し、それを振り回しながら敵陣へと突っ込んでいく。その背後からは、由美が光線による援護射撃を行っている。しかしタッグ戦となったことで、愛姫は一つアドバンテージを有している。
「今度は、やばいガスなんか作れないよね」
そのアドバンテージに気づいていた彼女は、自分と出雲を囲う鋼鉄の防壁を生み出した。以前、この防壁は塩素ガスによって破られた。しかしここで風花が塩素ガスを使えば、由美も巻き添えを食うこととなる。防壁は剣を受け止め、光線を跳ね返していった。鉄壁の守りを前に、風花と由美は考える。そして真っ先に突破口を見いだしたのは、風花だ。
「由美、あの防壁を燃やしてくれ」
彼女の指示に従い、由美は頷いた。そして由美は灼熱の炎を放ち、眼前の防壁を包み込んだ。そこに風花が水色の液体を放つや否や、炎は爆発しながら勢いを増した。防壁の中で、愛姫と出雲は取り乱し始める。
「熱い熱い! なに? なんなの? この熱さは、一体……!」
「爆発したような音がしていたね……おそらく、この防壁は炎に包まれた上で、液体酸素と液体水素の化合物を投下されたんだ! これら二つはロケットの推進剤としても利用されていて……」
「そんな雑学を話してる場合じゃないよ!」
このままでは、二人は気を失うまで焼かれ続けるだろう。愛姫はすぐに防壁を消し、大量の水を放った。その瞬間、彼女たちは銀色の霧に包まれ、激しい爆発に呑まれる。この霧の正体を知らない由美は、恐る恐る訊ねる。
「風花さん。あの霧は一体……」
「ナトリウムの粉末だよ。ナトリウム等のアルカリ金属は、水に触れると爆発する性質を持っているんだ」
「そうなのですね」
そう――風花は相手が水を生み出すことを予見し、ナトリウムの霧を作っていたのだ。炎は霧を介して一瞬で燃え広がり、ステージ上を包み込んだ。風花は黄色い容器の消火器を生み出し、その中身を周囲にばら撒く。彼女たちの周囲のみ、消火はスムーズに進んでいった。一方で、赤い消火器を生み出していた愛姫と出雲は、その中身を噴出することにより更に火力を高めている。消火器にも種類があり、ものによっては金属火災を悪化させてしまうようだ。
「出雲、ごめん!」
灼熱の炎に耐えかねた愛姫は、場外に飛び降りた。
「待ってよ、愛姫さん!」
その後を追い、出雲も場外の水に飛び込んだ。
ゼクスは大声で結果を告げる。
「勝者、風花コンビ!」
この試合は、風花たちの圧勝であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます