覚悟

ペア

 翌日、プレイヤーたちは再び忘却の遺跡に集結した。今回のゲノマ・ゲームは、今までとは少し違う。ゼクスはステージの上に立ち、ルールを説明する。

「どうも皆サンこんにちは! 今回のゲノマ・ゲームでは、二人組を組んでもらいマス! そして勝ち残った一組に、一週間の仮釈放が与えられマス!」

 このゲームが試すのは、純然たる戦闘能力だけではない。今回、プレイヤーたちはパートナーとの連携を要されている。プレイヤーたちは一斉に動き出し、組む相手を選び始める。無論、風花ふうかのパートナーは決まっている。

「一緒にこの街を出よう……由美ゆみ

 彼女は由美に手を差し伸べた。由美はその手を取り、満面の笑みを見せる。

「はい! 風花さんと一緒に組めて、嬉しいです!」

 一先ず、一組のペアが決まった。その傍らで、愛姫あきは思考を巡らせている。彼女は先ず、泰地たいちの方に目を遣った。彼は確かに強いが、この街を気に入っている。そんな彼と手を組んだところで、彼自身が敗北を選ぶのが関の山だろう。そうなれば、残る選択肢は後二つだ。片方は城矢じょうや、そしてもう片方は出雲いずもである。さっそく、彼女は城矢の方へと駆け寄り、声をかける。

「ねえ、城矢さん」

「却下よ!」

 城矢の返事には、一切の迷いがなかった。愛姫は辺りを見回し、それから相手の説得を試みる。

「ちょ、ちょっと待ってよ! 今空いているプレイヤーは、愛姫ちゃんを除いたら、出雲か泰地だけなんだよ! 出雲は頼りないし、泰地はこの街を気に入っているし……」

「そんなことはわかりきってるわよ。だけどアタクシは、アナタみたいな女が大嫌いなの! 男に媚びたような量産型のサブカル女を絵に描いたような――そんなアナタが!」

「えぇ、ひどぉい!」

 思わぬ返答に、彼女は肩を落とした。何やら城矢は、人の好き嫌いの激しい性分らしい。彼女は深いため息をつき、右手に手鏡を生み出した。それから数秒ほど表情の練習をしたのちに、愛姫は潤んだ上目遣いで出雲に話しかける。

「ねえ出雲、愛姫ちゃんと組もうよ」

「ぼ、ぼぼ……僕と? べ、別に良いけど……」

「あはは、何を緊張してるの」

 先程とは打って変わり、彼女は相手に媚びへつらうような立ち振る舞いをしていた。そんな彼女を後目に、城矢は呆れたような苦笑いをする。

「ほら、やっぱりあの子は、そういう子じゃないの」

 こうしてペアを組んでいないプレイヤーは、城矢と泰地だけだ。観客席に足を組んで座っている泰地の前に現れ、彼女は言う。

「さあ、アタクシと組みましょう。アナタは強いプレイヤーだもの、期待してるわよ」

 城矢と泰地――この二人が組めば、凄まじい猛威を振るうことだろう。泰地はゆっくりと顔を上げ、彼女に鋭い眼光を向ける。彼に睨まれた城矢は、思わず息を呑みこんだ。別段、泰地には彼女への敵意があるわけではない。

「ああ、ペアを組もうか。風花でなければ誰でも良い」

「あら、風花のことは嫌いなのかしら?」

「いや? あの女は強いからな……敵対している方が面白い」

 相も変わらず、彼は闘争に飢えていた。何はともあれ、これで今回のゲノマ・ゲームのペアは全て決まった。


 ペアのうちの一組は、風花と由美だ。もう一組は出雲と愛姫で、残る一組は城矢と泰地である。


 全員がパートナーを見つけたことを確認し、ゼクスは微笑む。拡声器越しに、彼の声が響き渡る。

「いよいよペアが決まりマシタネ! それではゲームの方に移ろうと思いマス! 組まれたペアに合わせ、今すぐトーナメント表を調整シマスね」

 その場でペアを決めたということは、対戦の順番はその後に決まるということだ。彼はホログラムの画面を宙に映し出し、まだ名前の登録されていないトーナメント表を表示した。それを編集していくゼクスの横顔は、好みのアイスを選ぶ子供のようでもあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る