石動環奈
あれから数日間、
「いよいよ明日だね。ボクはまた、忘却の遺跡に行くことになる」
そう告げた風花は、哀愁を帯びた愛想笑いを浮かべていた。無論、それで寂しさを感じるのは、彼女本人だけではない。
「またしばらくあんたに会えないと思うと、なんだか寂しいな。あーしと渡り合える戦士は、風花の他にはいないもん」
当然、環奈も彼女との別れを惜しむばかりだ。明日になれば、風花はまた他のゲノマたちと戦うことになる。それは彼女たちにとって、あまりにも嘆かわしいことであった。風花と環奈は空を見上げ、感傷に浸っていた。すでに日は沈み始めており、風花が忘却の遺跡に戻る時は着実に近づいている。
まさにそんな時であった。
突如、二人の目の前でポータルが開き、そこから何人もの戦闘員が姿を現した。
思わぬ事態に、風花は目を疑う。
「馬鹿な! ボクが忘却の遺跡に戻るのは、明日のはずだ!」
すぐに身構えた彼女は、その手に銃を生成した。無論、アークの連中は約束を破ったわけではない。
「どけ、
武装集団のうちの一人が声を張り上げた。直後、彼らの持つ銃は、一斉に環奈の方へと向けられた。
「え、あーし?」
これには、環奈も驚くばかりである。幸い、彼女には類稀なる格闘の才能がある。相手が武器を持っていようと、それがゲノマやディフェクトでなければ勝算は十二分にある。さっそく前方へと跳躍した彼女は、空中回転蹴りを繰り出した。これにより四人もの男が一斉に退けられた直後、風花は彼らの太ももを狙撃していった。残る戦闘員たちは束となり、機関銃を連射していく。風花はナイフを生み出し、それを振り回すことによって銃弾を切り落としていった。その傍ら、環奈は身軽に壁や地面を駆け回り、空中宙返りなども駆使して銃弾をかわしていった。やはりこの二人が組めば、並大抵の戦闘員など敵ではない。
「あらよっと!」
環奈はその場で跳躍しつつ、両足を前後に伸ばした。それぞれの爪先は別々の男の鳩尾を突き、彼らをうずくまらせた。続いて彼女は更に別の戦闘員の後頭部に手を添え、彼の顔面を己の膝に叩きつけた。ゲノマにあらざる彼女だが、その戦闘能力は桁外れである。そんな彼女に見とれつつ、風花は息を呑んだ。
「流石、環奈だ……」
こうして格闘を続けていくうちに、二人は武装集団を撤退にまで追い込んだ。そんな彼女たちの元に一人、痩せ型の男が拍手と共に登場する。
「……やはり見事だ」
――
「風花! 危ない!」
咄嗟に彼の前に躍り出たのは、環奈である。無論、これは静流の思惑通りだ。彼は容赦なく麻酔銃を発射し、彼女を気絶させた。風花は己の右手に大剣を生み出し、彼の方へと駆け寄った。しかし静流はエネルギーの防壁を張り、己の身を守る。その防壁に触れた風花は、高圧電流のようなものに襲われた。
彼女が崩れ落ちるのを後目に、静流は気絶している環奈に肩を貸した。彼は環奈を連れたまま、ポータルの中へと消えていく。
「待て! 環奈を巻き込むな!」
風花は急いで立ち上がり、前方へと駆け出した。彼女の目の前では、すでにポータルが閉じ始めている。
「間に合え!」
叫び声をあげた風花は、間一髪でその中へと飛び込んだ。それから一瞬もしないうちにポータルは閉じ、その場には硝煙を帯びたいくつもの弾丸だけが残された。
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