リベンジ

 あれから数分後、ステージには二人のプレイヤーが立っていた。一方は風花ふうか、もう一方は城矢じょうやである。風花はいつも通り、苺の香りの香水を己の首元にかける。城矢は腰をくねらせつつ、観客席に向かってウインクをする。両者ともに、準備は万端だ。

「試合開始!」

 ゼクスの合図と同時に、二人のプレイヤーは一斉に動き出した。彼女たちは何発もの光線を放ちつつ、互いとの距離を勢いよく詰めていく。そして間合いが縮まるや否や、風花たちは己の手元に大剣を生成した。二人の俊敏な剣術は、常人の肉眼で追えるようなものではない。金属音が奏でられるステージ上で、彼女たちは真剣勝負に臨んでいる。

「今度は負けないよ……城矢!」

「望むところじゃないの! だけど、勝利を掴むのはアタクシよ!」

「それは、どうかな!」

 両者ともに、一歩も譲らぬ戦いだ。風花が勢いよく大剣を振ると、その刀身からは円弧型の光が放たれる。直後、城矢も己の大剣を振り、その光を振り払った。振り払われた光は場外の廃屋に直撃し、瓦礫と砂煙を散らす。神妙な空気が立ち込める中、二人は相手に攻撃する隙を伺っていた。おそらく下手な動きを見せれば、それは相手に隙を許すことと同義となるだろう。一度手合わせしている彼女たちは、互いの強さをよく知っている。ゆえにどちらも、決して油断は出来ないのだ。


 そこで風花は考えた。それから彼女は、ステージ上を眩い光に包み込む。

「……!」

 突然の出来事に、城矢は目を背けた。直後、彼女の鳩尾には、風花の飛び蹴りが襲い掛かる。同時に、その痛みは風花の位置を告げる目印にもなる。

「そこよ!」

 咄嗟の判断により、城矢は大剣を大きく振った。その切っ先は、風花の腹部に容赦なく切り傷を刻む。その斬撃に彼女が表情を歪めた途端、場内を覆っていた光は収まった。しかし城矢が全力の一撃を放ったということは、そこに隙が生じるということを意味している。風花は大剣を前方に突き出し、その切っ先を城矢の腹に突き刺した。この一撃により、城矢は少しだけ退いた。風花は二本目の大剣を生み出し、その先端も彼女の腹部に突き刺す。以前は城矢に敗れた風花にも、今回は勝機がありそうだ。

「降参するなら、今のうちだよ」

 そんな警告をした風花は、更にもう一本の大剣で相手の胸に切り傷を刻んだ。しかしその眼前では、城矢が不敵な笑みを浮かべている。それを不審に思った風花は、そっと自分たちの足下に目を遣った。そこにあったのは、ピンを抜かれた状態の手榴弾だ。

「まずい……」

 彼女がそう呟いたのも束の間、手榴弾は勢いよく爆発した。爆炎と煙がステージを包み込み、熱傷を負った風花は激しく咳き込み始める。そんな彼女の眼前に迫っていたのは、城矢の拳だ。


 風花は勢いよく殴り飛ばされ、宙を舞った。


 このまま水面に落ちれば、彼女の場外負けが決まる。しかし今度こそ、彼女は負けるわけにはいかない。

「まだだ……ボクはまだ戦える!」

 そんな底意地を抱えながら、風花は宙でエアロモートを生成した。その上にまたがった彼女は、上空へと急上昇する。そしてエアロモートから飛び降りつつ、彼女は己の右手に稲妻のようなものをまとわせた。

「キミとの決着をつけてやる! 城矢ァ!」

 風花がそう叫んだ直後、その右手はステージに叩きつけられた。その瞬間、激しい爆発がステージを呑み、城矢は場外に飛ばされた。無論、彼女はここで諦めるようなプレイヤーではない。彼女もまた、宙でエアロモートを生成した。


 その時である。


「させるか!」

 その頭上から、風花が飛び降りてきた。彼女は右手で城矢の後頭部を掴み、真下に向かって力を加える。二人は宙に浮かぶエアロモートから落ち、そしてほぼ同時に水面に叩きつけられた。

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