殺意
次はいよいよ、新たなプレイヤーがその力を発揮する番である。この時を待ちわびていたゼクスは、すっかり上機嫌だ。
「続いては、
ステージとその周囲に、楽しそうな声色の実況が鳴り響いた。愛姫と泰地はそれぞれ反対側に設置されている階段を登り、そしてステージ上で互いの姿を確認した。緊張感が走る中、ゼクスは容赦なくゲームを進行させる。
「それでは、試合開始デス!」
いよいよこの時が来た。愛姫は一心不乱に光線を放ち、眼前の殺人鬼を爆炎に包み込んでいった。泰地はそのほとんどに被弾していたが、それをまるで気にしていない。彼はじりじりと間合いを詰めるように歩みを進め、その右手にはゲノマの力で生み出したナイフを構えている。その悠然たる風格を前にして、愛姫は足がすくむばかりだ。
「な、何? なんなの? あなた、怖いよ!」
「……ここの連中は、人を殺したことがなさそうだ」
「あ、あるわけないでしょ!」
半ば取り乱しつつも、彼女は光線を連射していった。しかし、そんな彼女の対人距離に、泰地はあっという間に踏み込んだ。
その直後である。
それはほんの一瞬の出来事だった。観戦者たちが瞬きをする隙もなく、泰地はナイフを振り終わっており、愛姫は首元に深い切り傷を負っていた。その場が騒然とする中、愛姫はあらぬ方向に目を遣りながら崩れ落ちる。このような事態は、アークからしても想定外だ。
「試合終了! 勝者、朔上泰地!」
そう叫んだゼクスは、ステージの上空にポータルを開いた。そこから飛び降りてきたのは、アークの幹部の一人――
「まだ脈はある。そのうち目を覚ますと思う」
何やら愛姫は死を免れたようだ。いずれにせよ、泰地が危険な男であることに違いはない。
先に口を開くのは、風花だ。
「何故、殺そうとした! キミがゲームを勝ち抜く上で、あの子を生かしておいても脅威にはならなかったはずだ!」
彼女が憤ったのも無理はない。元より、彼女は正義感の強い性分だ。同時に、それは泰地には理解できない感情でもある。
「ここの連中は、相手の命を奪わないことを前提にしている。だから全力でぶつかり合えない。だから自分を抑え込んでいる。だけどな、
その言葉は決して、彼の自己弁護を目的としたその場しのぎの理屈ではない。彼が語っていたことは、彼が本心から信じている事柄であった。それを物語っていたのは、彼自身の真剣な面構えだ。そんな泰地を睨みつつ、風花は怒り交じりの吐息を漏らす。このままでは、ゲームの進行に支障が出るだろう。
そこで二人の間に割って入るのは、千尋である。
「はいはい、二人とも。ストップ、ストップ。まだ今回のゲノマ・ゲームは終わってないんだから、トラブルなんか起こさないでね」
風花たちの言い合いに口を挟んだ彼女は、二人の体に手をかざした。二人は回復し、無傷の状態となる。唖然とする彼女たちを後目に、千尋はステージの階段を下りた。そして残るプレイヤーたちの身も回復させ、彼女は呟く。
「……良いカンフル剤が手に入ったようだね」
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