乙女のプライド
「逃げて! 早く逃げて!」
女は小さく頷き、その場から逃げ去った。ディフェクトたちは手元に剣を生み出し、一斉に環奈の身に襲い掛かる。
「環奈さん!」
咄嗟の判断により、由美は彼女の前に躍り出た。その両手に携えられた大剣は、三本の剣を受け止める。敵陣の攻撃が止まった隙を見逃さなかった環奈は、強烈な回し蹴りによって三体を退けた。しかし彼女はゲノマではない。体術だけでディフェクトの相手をするのは、無理のある話である。
そこで由美は銃のようなものを生み出し、それを彼女に投げ渡した。
「これで戦ってください! そのまま使えば光線銃になりますし、逆手に持てば刀身が現れて剣になります!」
「お、サンキュ。これであーしも、ディフェクトと戦えるね」
「自分の身が危うくなったら、すぐにでも逃げてください!」
由美はそう忠告したが、相手は三体のディフェクトだ。彼女に渡された剣で標的たちと交戦しつつ、環奈は言う。
「いくらあんたでも、一対三の戦いじゃ分が悪いでしょ!」
この女は、そう簡単に尻尾を巻くような性分ではない。彼女は光線や剣術を駆使し、由美はゲノマとしての力を発揮していった。しかし彼女たちは、少しばかり押され始めた。三体のディフェクトたちの斬撃を己の剣で受け止める度に、二人は後方へと退けられてしまうのだ。
やがて環奈たちは、建物の壁際にまで追いやられた。
環奈は肩で息をしつつ、眼前の化け物を睨みつける。
「まだだ……まだ戦える! あーしは、絶対に逃げない!」
それは見上げた覚悟だったが、同時に無謀でもあった。一方で、由美は恐怖を噛み締めている。
「だけど、このままでは……」
彼女が怖気づくのも無理はない。戦況はまさしく、絶望的だ。
その時である。
「しゃがみなさい、二人とも!」
突如、そんな声がその場に鳴り響いた。環奈たちが振り向いた先に見えたのは、ロケットランチャーを構えた
「ぼさっとしてるんじゃないわよ! 早くあの化け物どもを倒すわよ!」
その指示に頷き、二人は再び構えを取った。環奈は剣術を発揮し、由美は光線を連射し、城矢は様々な武器を駆使していく。一人の味方が加わったことにより、形勢は大きく傾き始めた。徐々に押されていく三体を睨みつけ、城矢は不満を口にする。
「せっかくシャバに出られたのに戦わないといけないんだから、人生というのは世知辛いわね!」
元より、彼女には二人に手を貸すメリットなど何もない。それでも死闘に加勢する彼女に対し、由美は怪訝な目を向けるばかりだ。
「何故、プレイヤーである私を見捨てないのですか?」
「そりゃ、強いプレイヤーが一人減った方が好都合よ。だけどそんな勝ち方を選んだら、乙女がすたるってもんよ!」
そう答えた城矢は、その心に気高いプライドを宿していた。そんな彼女の協力もあり、眼前のディフェクトたちはよろけ始めている。彼らを仕留めるには、今が絶好の好機だ。
「皆! トドメを刺すよ!」
環奈は叫んだ。その手に握られている光線銃の銃口には、眩い光が密集している。そんな彼女に続き、残る二人も己の手元にエネルギーを溜めた。それから彼女たちは、一斉に高火力の光線を放つ。
――三人の連携技は激しい爆発を起こし、標的たちを灰燼に帰した。
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