情報統制
一方、現代の東京の一角では、
「風花の奴、生きてるかな? アイツらに、殺されたんじゃ……」
そんな不安を口にした彼女は、虚ろな目でうつむいていた。彼女と風花はライバルである以前に、親友同士でもある。そしてかけがえのない競争相手が行方不明になっている今、環奈はその安否のことで頭を抱えているのだ。そんな彼女に対し、由美は言う。
「あの連中ならきっと、風花さんを殺しはしないと思います」
無論、環奈はあの武装集団が平気で銃を使うような輩であることを知っている。ゆえにその言葉は、彼女にとって気休めにもならなかった。
「どうしてそう言い切れるの? あーしも、あんたも、風花も、あの連中に付け狙われているというのに!」
思えば、彼女たちは武装した集団を相手に戦ってきた身だ。自分たちは命を狙われている――そう環奈が考えるのも、至極当然のことである。一方で、あの戦闘員たちに最初に狙われていた由美は、少しだけ事情に精通している。
「あの武装集団はアーク……ゲームと称して改造人間たちを戦わせる危険な組織です。風花さんは強いですし、おそらくは改造人間――ゲノマにされていると思います」
「何故、そのアークとやらはあんたや風花を……」
「それは私にもわかりません。私が探りを入れようとすると、幹部の連中は決まって話をはぐらかそうとするのです」
何やら彼女も、アークと呼ばれる組織の全てを把握しているわけではないようだ。環奈は深いため息をつき、由美との話を続ける。
「はぁ……その分だと、単なる愉快犯の集まりってわけでもなさそうだね。それが未来人の悪趣味な娯楽に過ぎないんだったら、連中もそこまで必死にはならないはずじゃん? それで、もし風花が生きているとしたら、どこにいると思う?」
「忘却の遺跡という街です。その街は大部分が水没していて、建物のほとんどが倒壊しています。それが長らく放置されているのか、廃屋の表面には様々な植物が自生しています。ゲノマたちは、そんな街で戦わされているのです」
「……まるで、世界が滅びたような街だね。ゲームの存在を公に知られないようにするには、絶好の隠れ場所だと思う。人類が生まれる前の過去でゲームを開催すれば歴史が変わっちゃうし、それゆえに『人類の滅びた未来』を会場にしたんだろうね」
彼女の推測が的中しているかは定かではない。少なくとも、その推論が筋の通ったものであることだけは確かだ。
「問題は、連中がそのゲームを開催している目的がわからないことですね」
そう呟いた由美は、渇いたような愛想笑いを浮かべた。アークの思惑は不明だが、彼女たちはゲノマ・ゲームの存在に反感を抱いている。突如、環奈は由美の両肩に手を置き、真剣な眼差しで顔を近づけた。
「由美。ゲノマ・ゲームについて知っていることを、全て世間に公表しよう。こう見えてもあーしは有名な戦士だから、拡散には協力できるよ」
確かに、ストリートファイトで名の知れている彼女が手を貸せば、由美の告発も容易く拡散できるだろう。しかし、由美は首を横に振り、衝撃の事実を口走る。
「これまで、ゲノマ・ゲームのプレイヤーたちは、あらゆることを試してきました。しかしゲノマ・ゲームに関する情報は検閲され、公には明かされません。おそらく、アークの連中は国家と癒着しています」
何やらあのゲームは、国家の協力のもとで成り立っているようだ。そして環奈が言葉を失ったのも束の間である。
「誰か、助けて!」
遠方から、女の悲鳴が聞こえてきた。
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