ドッグファイト
あれから数分後、ついにその時は来た。
「いよいよ最終決戦……
拡声器越しに、ゼクスの声が響き渡った。風花と城矢は勇ましい足取りで階段を登り、ステージの上に立つ。一方はいつものように苺の香水を使い、もう一方は己の手を後頭部で組みながら腰を回している。
「なあ、その珍妙な動きは一体、なんなんだい?」
「アタクシの準備運動よ! さあ、どこからでもかかってきなさい!」
「は、はぁ……」
眼前のトランス女性の妙な動きに、風花は呆れるばかりだ。しかしこう見えても、城矢は地下闘技場の絶対王者である。
油断は禁物だ。
ゼクスが合図を出す。
「試合開始デス!」
その合図と同時に、風花はその場にバイクのような乗り物を生み出した。これは由美の追手たちが乗っていたものである。その光景に、ゼクスは感心する。
「エアロモート……デスか。ゲノマになってから日は浅いはずなのに、風花サンの模倣能力は大したものデスね」
彼がそう呟いたのも束の間、風花はエアロモートに飛び乗り、宙を舞い始めた。そして空中のあらゆる角度から、彼女は光線を連射していく。一方で、城矢は己の手元にトンファーを生み出していた。彼女はトンファーを駆使し、迫りくる光線から己の身を守っていく。そして一瞬の隙を見いだした彼女は、同じくエアロモートを生み出した。彼女もまたそれを操縦し、光線を連射しながら風花を追う。
「あはは! アタクシはキャットファイトでも、ドッグファイトでも負けないわよ!」
「生憎だけどね、ボクも負けるつもりなんかないよ」
「大好きな苺そっくりにしてあげるわよ! 香水女!」
二機のエアロモートが俊敏に飛び回り、そして互いに向けて光線を発射していく。その光景はもはや、格闘の域を逸脱している。
観客席から上空を仰ぎ、
「これが、強者同士の戦い……」
「こんなの、まるで戦争の一場面じゃない」
二人の目の前で繰り広げられる試合は、常軌を逸したものだ。
やがて風花は隙を見いだし、眼前の機体をめがけて高火力の光線を放った。標的の機体は一瞬にして爆発したが、そこに城矢の姿はない。
その直後である。
彼女のすぐ目の前に、新しい機体に乗った城矢が姿を現した。
「乗り換えていたのか……空中で!」
この瞬間、風花はある種の絶望感を覚えた。その絶望感に屈することもなく、彼女は己の周囲をエネルギーのシールドで包み込む。そんな彼女の方へと光線を連射しつつ、城矢は笑う。
「オホホホホ! 勝負は読み合いでしょ? その読み合いを最も狂わせるものは、常識破りな意外性なのよ!」
そんな持論を口にした城矢からは、強者の風格が漂っていた。次に彼女がどう出るか――それは常人の予測を逸したものであろう。風花は息を呑み、そして身構えた。その眼前で城矢は舌なめずりをし、そして力いっぱいアクセルを握る。急発進した機体はエネルギーのシールドを突き破り、対戦相手の機体と勢いよく衝突した。
「なんてことを……!」
「オホホホホ! さあ、ここから畳みかけるわよ!」
衝突による爆発に呑まれ、両者ともに己の機体を失う。彼女たちは各自ジェットパックを生み出し、宙に留まった。そして二人は、凄まじい火力の光線を一斉に放った。二つの光線は火花を散らしながらぶつかり合い、互いを押し合っている。そして数瞬の攻防の末に、城矢の技が風花の技を跳ね除けた。眩い光に巻き込まれた風花は後方へと吹き飛ばされ、苔の自生した廃屋にその身を叩きつけられた。
風花が場外に出たのを確認し、ゼクスは言う。
「勝者、雪原城矢! 凄い試合デシタ!」
戦士の道を歩んで以来、風花は初めて
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