アーク

 一方、とある質素な部屋では、四人の人物がテーブルを囲っていた。そのうちの二人は、ゼクスと静流しずるである。ゼクスは茶髪の男に目を遣り、口を開く。

「これから面白くなりそうデスネ、れんサン」

 少なくとも、彼はゲノマ・ゲームに楽しさを見出しているようだ。茶髪の男――蓮は深いため息をつき、彼に注意する。

「言葉を慎め、ゼクス。我々アークは、遊びでゲノマ・ゲームを管理しているわけではない」

「まあまあ、せっかくなら楽しんだ方が得デショウ? もっと肩の力を抜いた方が良いデスヨ」

「そういう君は、もっと気を引き締めた方が良い。我々の背負う責任は、決して軽いものではないのだからな」

 やはりこの組織には、何らかの目的があるようだ。しかし、重苦しい空気が立ち込めていてもなお、ゼクスは依然として余裕綽々とした笑みを浮かべている。


 その時である。

柏木かしわぎさん、ワタシに発言の許可を」

 突如そう言い放った静流は、何か思考を巡らせているような面構えをしていた。そんな彼に視線を向け、蓮は発言を促す。

「話してみろ」

「今のところ、プレイヤーたちはまだ、誰一人としてフェーズ2に至っていない。データ収集も兼ねて、もう少しゲノマを増やしておきたい」

「確かに、この状況ではやむを得ないか。だが、今回は死刑囚を使うという前提で許可しよう」

 多少なりとも、この男には一般人を巻き込むことを避ける意志はあるらしい。されど彼らは、プレイヤーたちから見た未来人だ。ゼクスはその場から立ち上がり、口を挟む。

「もっと色んな人間を使っても良いデショウ。我々には時間をやり直すことが出来るのデスから、人間を無駄遣いするということはないデショウ」

 蓮とは違い、彼にはあまり人権意識が備わっていないようだ。無論、それを易々と許す蓮ではない。

「プロジェクトリーダーである私に楯突くつもりか? いずれより多くの一般人を巻き込むことになるかも知れないが、今はまだ死刑囚を使えば良いだろう」

 何やら、この男がアークのリーダーらしい。

「わかりマシタヨ……」

 そう呟いたゼクスは、不服そうな顔をしていた。そんな彼を他所に、静流は残る一人の人物――ポニーテールの女に声をかける。

「それより、加賀かがくん。キミは何も発言しないのか?」

 その後に続くように、蓮も問う。

「そうだ、千尋ちひろ。君の意見も聞いておきたいところだ。何か考えはあるか?」

 今この場に居合わせていることは、会議に参加していることを意味している。千尋と呼ばれる女が意見を求められるのも、当然のことだろう。千尋は無機質な微笑みを浮かべ、ある提案をする。

石動環奈いするぎかんなに、ゲノマ化手術を施すのはどうかな?」

 確かに、あの女は優れた戦闘能力を誇る人材だ。しかし何らかの事情があるのか、蓮はその提案に反発する。

「自分が何を言っているのか、わかっているのか? そんなことは何度も試してきた。だが、石動環奈は……」

 彼は何かを言いかけた。そしてそれを遮るように、千尋は話を続ける。

「だからこそだよ。全プレイヤーがフェーズ2に達していない以上、ちょっとした試練を用意する必要があると思うんだ。そしてアタシは、凩風花こがらしふうかにその試練を課そうと思っているんだけど、どうかな?」

 会議室に、不穏な沈黙が生まれた。そして数秒ほど思考を巡らせた末に、蓮は答えを出す。

「……試す価値は、あるな。良いだろう……採用だ」

 一先ず、千尋の案が採用された。なお、四人が抱えている問題は他にもある。

「それよりも、早いところ柊由美ひいらぎゆみを回収した方が良いんじゃない?」

 千尋は言った。当然、蓮は由美を回収することも念頭に置いている。

「無論そのつもりだ。由美の回収はゼクス、環奈の回収は静流に任せる」

 重大な仕事は、二人の男の手に託された。

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