72:ポルルの置手紙

 夕食の時間になったので、今日も現実世界では決して毎日行くことなど出来ない高級料理店へと足を運んだ。


 そういえば異世界でも現実世界でもここのところずっと魚を食べていないことを思い出し、この店でも魚料理はあるのですかと聞いてみたところ、あるにはあるが値段が相当高い割には小さい小魚のおつまみ程度のものしかないとのことで魚のメインディッシュ料理は存在しないとのことだった。それでも珍しいので注文することにした。


 果実酒を飲みながら一緒につまんで食べるのが一番美味しく食べられるとのことで、前菜サラダと温野菜スープの後に持ってきてもらうことにした。ちなみにそのおつまみ程度の料理だけでも2万デンもするとのことだった。心の片隅で自分だけこうして高級料理を興味本位だけで注文して食べることが出来る贅沢をすることに少し心が痛んだ。


 とはいえ一応自分で稼いだお金だし、この町で使うことでしっかり経済を回すことに貢献しているので、何ら後ろめたいことはない・・・はずなので、せっかく注文したからには大いに楽しんで味わおうと心を切り替えた。


 そうして出てきたのはなんと驚いたことに天ぷらだった。日本の江戸前とは少し異なるが、それでも天ぷらだった。そして塩だけで食べるようだった。さらに一口かじって驚いたのが、ホクホクしてあっさりして上品で少しだけ甘味があってまったく臭みがなくて、正直いくらでも食べれそう、いや、食べたくなる一品だった。しかもとても綺麗な美しい白い魚だった。


「こんなに美味しい魚、これってやっぱり中央大陸とか別のところから仕入れているんですか?いや、でもそれだと鮮度が落ちますよね、一体この魚はどこで獲れた魚なんですか?」


「はい、おっしゃる通りです、この魚はこの地方で獲れたものなんですよ」


「えっ!?この荒野の大地にもこんなに美味しくて綺麗な魚が獲れるところがあるんですか?」


「はい、滅多にとれません。北西の山の麓にある雪解け水で出来た泉に極僅かに生息する魚です。先日タダノ様がアイスクリスタルを大量に持ってきていただいたおかげで、様々なものが鮮度を保ったまま運搬することが可能になりました。この魚もそのおかげでこうして以前よりも少しだけ多く仕入れることが出来たのです」


「そうなんですね、それは苦労してアイスクリスタルを持ってきた甲斐がありました、他にも魚料理ってあったりするんでしょうか?」


「そうですね、かつて南の奥の幻の湖で大きな魚が獲れて、それはたいそう美味しかったそうです」


「幻の湖ですか!」


「はい、恐らく地下水脈によって出来た移動する湖だとのことです、かなり昔の冒険者によって偶然奇跡的に発見され捕まえられた魚だそうです。名前はなんといいましたか・・・申し訳ありません、私が生まれるよりも大分昔のことですので、覚えておりません」


 そうしてこの乾いた荒野の大地でも獲れるという貴重な美味しい魚と、その後はやっぱり肉を食べて家路に向かった。そしてその後はいつものルーティーンで寝る支度を整えて、今日は依頼をこなして疲れたから現実世界で時間調整をせずにすぐにポルルが干してくれた布団に入って寝た。今頃赤ちゃんタイガルもポルルの腕の中で眠っているのだろうか。


 明けて翌朝、早くに寝たので早くに目が覚めたがまずは腹ごしらえということで枕に10デンを置いて飯屋に朝食をとりに行った。さすが多くの冒険者から愛されている飯屋だけあり、毎日色々と日替わりで料理を出してくれるので実に有難い。


 今日も美味しくて安い庶民の味の飯屋の朝食に満足したので、宿屋に戻って独り占めの贅沢朝風呂を楽しむことにした。


 共同風呂に行くと布団を壁に立てかけてポルルが赤ちゃんタイガルを抱いて待っていた。昨日はまだ目が開いてなかった赤ちゃんタイガルはクリっとした可愛い目を開いており、私が近づくとポルルは赤ちゃんタイガルをこちらに差し出してきた。


「えっと・・・これからお風呂に入ろうと思ってたんだけど・・・」


 ポルルはコクリと頷いて分かっている様子だった。そして私が赤ちゃんタイガルを受け取ると赤ちゃんは全く嫌がることもなく素直に私に抱かれた。そしてポルルはそのまま風呂場を指さした。


「えっ?赤ちゃんタイガルをお風呂に入れちゃってもいいの?大丈夫?」


 ポルルはコクリと頷いた。


「分かった、ちゃんと赤ちゃんを大人しくお風呂に入れられる自信はないけどやってみる」


 ポルルはウンウンと頷いて、布団を持って風呂場から立ち去って行った。


 とりあえず服を脱いで風呂場に入り、身体を洗ってから・・・ジャブン!ってうわっ!タイガル!?


 赤ちゃんタイガルは見事に湯舟にダイブした。


 自分も慌てて湯舟に浸かるとタイガルは近づいてきた。私はいつものように身体を伸ばして寝そべるようにすると赤ちゃんタイガルは私の胸の上に座り込んで、気持ちよさそうに目をつむった。なんとタイガルはお風呂好きなのか、そういえば両親も泉に入って気持ちよさそうにしていたな。


 タイガルはずっと大人しく私の胸の上で心地よさそうにしており、そろそろ上がろうか?と言ったところギャアゥと言って特に嫌がることもなく大人しく私に抱かれたまま風呂からあがった。


 脱衣所に戻ると私とタイガルの分のタオルが置いてあり、先にタイガルの身体を拭いてあげてから自分の身体を拭いて、もう一度タイガルを抱いて自分の部屋へと戻った。


 部屋に戻ると相変らず机の上に花瓶と一輪の花があったのだが、その上に羊皮紙が置いてあったので見てみると・・・


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ただのさまへ


ただのさまのにおいがのこっている

くつしたかしたぎのしゃつをください

たいがるのあかちゃんにかがせて

ただのさまがおとうさんだとおしえます


それとたいがるのあかちゃんの

なまえをかんがえておいてほしいです


ぽるる

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 あっすごい!ポルルの字だ!


 私はポルルが書いてくれた手紙を抱きしめる程に喜び、ポルルがちゃんと文字を書く教育を受けていることに安心した。


 それにしてもそうか僕の匂いがする靴下か下着が要るのか・・・ちょっと恥ずかしいけど仕方がない、今日は依頼に行くのはやめてなるべく汗をかかないようにして一日過ごした後の靴下とシャツを渡すことにしよう。


 いつの間にか赤ちゃんタイガルは私のベッドの上でスヤスヤと眠っていた。私は机に座り道具屋からもらった装飾品の商品リストを見て、竜の涙以外であると良さそうなもの中で何を購入するか検討することにした。昨日リストを眺めていて良さそうだと思ったものは以下の通り。


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腕輪「戦士の腕輪」

5百万デン

戦闘力が高まる魔石が埋め込まれた腕輪

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指輪「魔力の泉」

5百万デン

魔力が高まる魔石が埋め込まれた指輪

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眼鏡「夜鷹の目」

3百万デン

暗闇でも見える魔石が埋め込まれた眼鏡

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 これまでの報酬を合わせれば全部一気に買えるが全部使い切るのもためらわれるし、特に今どうしても必要というわけでもない。だがこの中であると良いなと思うのはやはり戦士の腕輪だろうか。とはいえ今でもかなりのオーバーキル状態なので必須アイテムではないが。


 そんなことを考えていると扉がノックされたので出てみるとポルルだった。赤ちゃんタイガルと机を指さしたので私は頷き、明日ベッドの上に靴下とシャツを置いておくことと、名前も考えておくことを伝えると、コクリと頷いて赤ちゃんタイガルをそっと抱いてペコリとお辞儀をして退室していった。


 ポルルを見送った私もとりあえず道具屋に行って商品を見に行き、次にギルドに寄って次の依頼を物色しに行くことにした。

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