71:ポルルの笑顔
町の奥の外れにある開けた場所ではモフモフの4つ足を飼育している場所があり、そこで赤ちゃんロックタイガルのミルクをもらい、お礼に沢山の乳と乳製品を買い込んで、ポルルと二人で宿に戻った。
宿屋に戻ると宿主の姿はなく、呼び鈴を鳴らそうかと思ったがポルルがズボンを引っ張ったのでやめてポルルを見ると階段を指さしてから、私の防具と槍を指さした。
「先に防具を脱いできてってこと?」
ポルルが頷いて肯定したので、分かったと行って部屋へ向かうことにした。
後ろを振り返るとポルルはスタスタと受付カウンターの奥の部屋へとロックタイガルを抱いたまま入っていった。
私は部屋に戻って防具を脱ぎ、久しぶりにアイテム格納バッグから以前ホームセンターで買ったクーラーボックスを取り出して先ほど購入したミルクや乳製品を入れてからもう一度バッグに収納した。今度もう一つ購入して肉を入れるのに使おう。
槍と防具を置いて革靴に履き替え棒を手にして部屋を出てもう一度宿屋の玄関へと着くと、宿主のウォルロッドの母親が受付カウンターに座っていた。
「・・・で、どうするねアンタ、あの赤ちゃんタイガル」
「とりあえずこれから冒険者ギルドに行って、職員達と話しをしてきます」
「まぁせいぜい競売にかけて、どこぞの商売人に買い取られて中央大陸の物好きな金持ちに売られるのが関の山ってところだろうね」
「そうですか・・・」
「1日40デン、それと何日かに一回アンタが付き添いで外で遊ばせてやるってんなら、ポルルに面倒をみてもらってやってもいい」
「ホントですか!有難う御座います!」
「あと、大きくなって肉を沢山食うようになったら、その分の肉代も払っとくれよ」
「はいもちろんです!って、何の肉を食べさせるんですか?」
「年老いて死んだザラの肉がいいだろうね、あとお前さんとポルルがさっき行ってきた家畜小屋にいるモウムの肉もいいだろう」
なるほどあのモフモフはモウムというのか、そういえば動物図鑑に描かれていたような気がする。
「分かりました、とりあえずギルドに行って話しをしてきます」
「あいよ」
私は宿屋を後にして冒険者ギルドへと向かった。ポルルに面倒を見てもらうのは安心だし良い事だと思う反面、ポルルの仕事を増やしてしまうことになるのでそれはそれで悩ましいところだった。
ギルド建屋に入って受付カウンターに行くと、まずは今回の依頼が間違いなく履行されたこと、しかもロックタイガルが頭部以外の毛皮や肉に全く外傷がないという極上の状態であったので、競売でもかなりの高額がついて今回の報酬額は二頭分合わせて合計千5百万デンになるとのことだった。
そしてこれまでの相次ぐ、それもほぼ毎日のように相次ぐ高品質の素材をたった一人の冒険者がほぼ一撃で倒していることに行商人の間でも話しが広まり、しかもその話しが中央大陸のギルドにも伝わっているとのことだった。魔法宝石の一件が話しに拍車をかけて、冒険者タダノとは何者だ?という話しが出回っているらしい。
これは迂闊だった。実に迂闊だった。まさか中央大陸にまで話しが及ぶとは・・・そもそも毎回倒したモンスターが競売所に運ばれる時点で気付けば良かった。競売にかけられるということは異世界のあちこちを回る行商人達がやってくることは必然で、うわさ話もあちこち駆け巡ることも容易に想像出来たはずだ。
とはいえもう出回ってしまったものは仕方がない。ギルドの依頼をこなしていけば遅かれ早かれうわさが広がるのは避けて通れない道だ。しかしもっと後のことだと思っていたのだがあまりにも早すぎる、異世界にやってきて数年経ったという話しではなくまだ10日も経ってないという早さなのだ。
「ところでタダノさん、赤ちゃんタイガルはいかがなさいました?」
「はい、宿屋にいるポルルという女の子が動物使いなので面倒を見てもらっています」
「あっなるほどそうでしたか、やはりあの子も動物使いだったんですね。それでいかがなさいましょうか?赤ちゃんタイガルも恐らく売りに出せば300万デンは下らない値がつきますが・・・」
「いえ、宿屋のウォルゼルさんと相談して、私がちゃんと飼育費用を支払って何日かに一度しっかり面倒みるなら赤ちゃんタイガルを育てても良いと言ってもらえたので、そちらにお願いしようと思います」
「そうでしたか!それは私も個人的にですが、良い判断だと思います、恐らく競売で売れば行商人の手に渡り中央大陸のもの好きの金持ちの手に渡り、一生見世物として扱われることでしょう。ですが、動物使いに赤ちゃんの頃からしっかり育てられたのなら、害獣退治として一緒に戦う大切な家族として生涯を共にすることが出来ます、そちらの方が動物にとっても良いと考えます」
「そうですか、それは良い事を聞きました、是非そうしたいと思います」
「分かりました、それではそのようにこちらで処理いたします、あと道具屋にてギルドで管理していることを証明する証を購入してタイガルに装着させていただけますでしょうか」
「分かりました、早速帰りに道具屋に寄っていきます」
「今回の報酬はいつも通り、こちらでお預かりでよろしいですか?」
「はい、それでお願いします、でもすぐに降ろしに来ると思います」
「ひょっとして竜の涙ですか?」
「ええ」
「かしこまりました」
ギルド職員はニコリとして心得たといった表情をしてくれた。こういう関係になる程度の知名度ならばなんら問題はないのだが。
その後道具屋に寄って事情を説明すると、タイガルの赤ちゃん、それもまだ目を開いていない程に生まれたてのものを手に入れたことは大変素晴らしいと言って、首輪を持ってきてくれた。なんでも特殊な魔法が込められた何かの植物の丈夫なツタとプレートで構成されているらしく動物の成長に合わせてツタも伸びるのだそうだ。
当然買うのなら最上級の首輪が欲しいと言ったので、すぐさまギルドに戻ってお金を卸すことになった。それと近々竜の涙ともう一つ別の装飾品を買いに来ると言って道具屋を後にした。
宿屋に戻るとウォルゼル婆さんがまだカウンターにいたので、事情を説明して赤ちゃんタイガルにつける首輪と1万デン硬貨を渡した。
「アンタ随分良い動物使役証を買ってきたね、これ相当しただろう、あと何だい?この1万デンは」
「タイガルを育てるのに色々と必要かなと思ったのと毎日40デンを払うのは面倒なので先にまとめて払っておこうと思いました」
「それにしちゃ多すぎだが・・・まぁ分かった、先にもらっとく、途中でアンタが育てるって言っても返さないよ、そでもいいのかい?」
「はい、それでいいです。こちらこそ凄い無理を言ってすいません」
「・・・アンタ、ここではそれでもいいかもしれないけど、もしも今後中央大陸に行くってんなら、お人よしもその辺にした方が良いよ」
「・・・そうですね、肝に銘じておきます」
「何だいそりゃ?どういう意味だね?」
「あっえっと、しっかり心に刻んで気を付けますっていう意味です」
「へぇ、面白い言葉だね・・・有難うなタダノ、ポルルがとても良い笑顔を見せてくれたよ、ポルルのあんな嬉しそうな顔は初めて見たよ」
「そうですか、それは良かったです」
出来れば私にもその笑顔見せて欲しかった。
その後部屋に戻って夕食時間になるまでの間、道具屋からもらった装飾品商品リストを眺めながら竜の涙以外に何かあると良さそうなものがないかパラパラとめくって眺めながら探して時間を潰した。
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