70:動物使い
まだ夕方には早い時間に大門に到着すると、やはり入門待ちの行商人達は私の荷車を見て驚き、それに気付いた門番が大きな声を出して待機所にいる門番を呼び出して私の方を指さすと、待機所から出てきた門番達はすぐにこちらにやってきた。
「デカイなこれは!それも二頭もか!」
「こりゃ恐らくつがいの二頭だな」
「さすがタダノだ、一人でこんなのを倒すとはウォルロッドさんの全盛期以上だ!」
「ああ、ウォルロッドさんもタダノならワイバルンを倒すだろうって言っていたからな」
「荷車はオレ達で競売所まで運んでおくから、タダノは冒険者ギルドへ報告に行くと良い」
「有難う御座います!よろしくお願いします!」
日頃から顔馴染みになっておくというのは実に有難いものだと思いつつも、これまでついてきた数々の嘘が結構胸に突き刺さるものがあった。さすがに自分はこの世界から別の世界から来たとは言えないが、ワイバルンを倒した後は自分のスーパーマンぶりを少しづつ明らかにしてもいいかもしれない。
冒険者ギルド建屋に入り、受付カウンターにてロックタイガルを二頭倒し、門番の人が競売所に運んでいってくれたことを報告した。すぐに職員を向かわせて確認をさせるのでいったん宿に戻って装備を解いて一休みなされてからお戻りくださいと言われたところで「実はその・・・困ったことがありまして・・・」とここは正直に打ち明かすことにした。
リュックの中をそっと開けて中を見せると、まだスヤスヤと眠っているロックタイガルの赤ちゃんを見てギルド職員も固まった。
「えぇと・・・これって、ロックタイガルの赤ちゃんでしょうか?」
「はい、ロックタイガルを倒した時にお腹の中から出て来ちゃったようです。さすがにその、殺すことが出来なくて・・・そしてそのまま放っておくことも出来なくてつい・・・」
「えーと・・・どういたしましょうか・・・」
「どうしたらいいでしょう?」
「ちょっと他の職員とも相談しますので、いったんタダノ様は宿に戻ってからもう一度来ていただけますか?」
「分かりました」
私はいったんギルド建屋を後にして宿へと向かうことにした。
宿屋の玄関に入った途端リュックからギャウゥ!ギャウゥ!という大きな声がした。最も懸念していたことがよりにもよってこのタイミングできてしまった。
リュックを背中から降ろして開いて確認してみるとさらに大きな鳴き声が宿屋の玄関に鳴り響いてしまった。まだ他の冒険者達が帰ってくる時間じゃないので辺りには誰もいないが、人がいない分かえって赤ちゃんの鳴き声が大きく響いた。
当然音を聞きつけた宿主とポルルが受付カウンターの奥から出てきた。
「なんだいなんだいこの声は!やっ!アンタかい!一体なんだいこの鳴き声は?」
「すっ!すいません!その・・・えぇと・・・この子なんですが・・・」
リュックからそっと赤ちゃんロックタイガルを取り出して二人に見せた。
「なんだいそりゃ!猫にしちゃデカイけどまさかそれタイガルの赤ちゃんかい!?」
「はい」
「なんだってまた連れてきちまったんだい!?」
私は事の経緯を説明し、やはり生まれたばかりの赤ちゃんを殺すことも見捨てることも出来なかったと正直に話した。その間も赤ちゃんはギャウゥ!ギャウゥ!と泣き止まず大分大きな声で話さないと聞こえない程だった。
するとそれまで黙っていたポルルがやってきて、私のズボンを引っ張り宿の出口を指さした。なんとなく追い出せと言っているのではないような気がしたのでポルルに付いて行くことにした。
ポルルは足早にどこかに向かって行るようで自分もポルルの後を追いかけて行った。
程なくして何やら家畜の匂いがする一角に辿り着き、さらに進むと開けた場所が現れて柵で覆われた風景が目に飛び込んできた。柵で囲まれた場所には何もいなかったが、その奥の家畜小屋に何やら大きなモフモフがいるのが見えた。
ポルルは迷うことなく家畜小屋へと向かって行き、モフモフにエサを与えていた少女にペコリとお辞儀をするとギャウゥ!ギャウゥ!と泣き続ける赤ちゃんロックタイガルを抱いた自分を指さし、次にモフモフを指さした。
するとエサをやっていた少女もコクリと頷いたので、ポルルが私に近づいて両腕をあげてきたので、泣き続ける赤ちゃんを渡すと、ポルルはモフモフに近づいて、お腹の下にあるおっぱいに赤ちゃんを近づけた。赤ちゃんロックタイガルは泣き止んでスンスンと匂いを嗅ぐとモフモフのおっぱい吸い始めた。
なんという手際の良さ!判断力、行動力、対応力、実に素晴らしい!と目の前の彼女達に感動した。
「突然すいません、私は冒険者のタダノと言う者です、えぇとおっぱいのお礼をしたいのですが・・・」
「いえ気にしないでください、冒険者タダノさんは大蛇をやっつけてくれました、他にも大サソリやゴレムをやっつけてくれたり、アイスクリスタルを持ってきてくれました、あの赤ちゃんはタイガルの赤ちゃんですか?」
「そうです、ペシシ村の街道に出るロックタイガルを倒したら、お腹の中の赤ちゃんが出てきて、どうしても赤ちゃんを殺すことも見捨てることも出来なかったんです」
「そうだったんですね、タダノさんは本当に優しい方なんですね、ポルルはいつもタダノさんは優しいって地面に文字を書いて教えてくれました、それにウォルゼルお婆さんもタダノさんは優しい人だって言っていました」
どうやらポルルはやはり人と話すことが出来ないらしい、両親を失ったショックで声が出せなくなってしまったのだろうか・・・あとウォルゼルお婆さんって誰のことだろう?ひょっとしてウォルロッドのお母さんのことだろうか?
「それにしてもポルルは良く気が付いたね、赤ちゃんがお腹を空かしていることが分かっただけでなく、すぐにこの場所を思いついて、今もそうやって上手に赤ちゃんをあやしつけている、僕には到底そんな風に出来ないよ、助かったよポルル、有難う」
ポルルは顔だけこっちに向けてペコリとお辞儀をした。そして大分タップリモフモフのミルクを飲んだ赤ちゃんを抱いて、背中をトントンと叩くと、赤ちゃんは「ケプッ」と可愛いゲップをした。そしてポルルの腕の中で丸くなって寝た。
素晴らしい!実に癒される、このツーショットは見ているだけで存在しているだけで癒される!
「この赤ちゃんはどうするんですか?」
「そうなんだよ、ギルドの人にも相談しているんだけど、どうしたらいいか悩んでいるんだ・・・」
「・・・ポルルなら、ちゃんと育てられるかもしれません」
「そうだね・・・って、えっ!そうなの?」
「はい、多分ポルルはポルルのお母さんと同じなら、動物使いの才能があると思います、私も動物使いです、この町の女性は道物使いか力持ちの人が半分くらいいます」
「そうなの!?・・・初めて知った」
私はポルルには失礼だがつい「情報」と念じてしまった。
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ポルル
??歳女性
レベル:1
生命力:1
魔法力:0
持久力:1
攻撃力:1
防御力:1
素早さ:1
幸運度:1
魅力:1
魔法技能:0
異常耐性:0
【スキル】
動物使いLv1
力持ちLv1
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ホントだ!動物使いと力持ちのスキルがある!なるほど、目の前の少女がモフモフを飼育しているのも動物使いなのだからだろう。
「ひょっとしてザラが人間に良くなついているのも動物使いの人達のおかげなのかい?」
「はいそうです、シュラ村の女性達は優れた動物使いの方が多いです」
「なるほど」
私は大いに感心した。ますます図書館の本を読んで色々知りたくなった。
その後、お礼はいらないとは言われたが、それでもせめて何かしたいと言ったら、モフモフの乳やチーズなどの乳製品を買っていかないかと言われて、大喜びで大量に買い込んだ。そんなに買って大丈夫ですかと言われたが、依頼で腹が減るので大丈夫だと答えた。嘘はついていない嘘は。
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